9 なかなか花恋を疑いきれない 1/2
「海斗、おはよう」
「おはよう、花恋」
今朝、いつも通り挨拶をすると、花恋は俺の顔を見るなり眉をひそめた。
「……なんか、かっこよくなった?」
そう言って俺に一歩二歩と迫ってくる。
かっこいい、と素の花恋に褒められて、少し浮き足立つ俺。
「それってもう俺の勝ちでいいか?」
すると花恋は顔を赤くして弁明する。
「違くて……! 従来比でかっこよくなったわねって言いたいの!」
それ結局ストレートでかっこいいって言ってるのと変わらないだろ、と思ったが言わないでおいた。
俺は前髪をいじりながら、俺がこのようになった顛末を説明する。
「実は昨日、九条が俺のことをプロデュースしてくれたんだよ」
「九条って……ジュリ?」
俺は頷く。
「花恋の隣に歩く男なんだからちゃんとしろ、みたいな意図の元、プロデュースしてもらった」
すると花恋の顔が少し強ばる。
「そ、そうなのね……」
そう言って視線を逸らす。ぎこちない物言いに、どこか動揺しているようにも見えた。
「ははーん。ひょっとして、九条と俺が二人きりで出かけたのに嫉妬してるなぁ〜?」
俺がニヤニヤおちょくる。すると花恋は少し呆けたあと、こう返してきた。
「……そうかもしれないわね。うん、嫉妬よ嫉妬」
素直に認められる。なので、俺は少し拍子抜けしてしまう。
(なんだ? この感じ。いつもみたいに「違うわよ!」って否定されると思ったんだが……)
俺は花恋の顔を覗き込む。
花恋はぼうっとした表情を浮かべていた。
(いや、これは上の空か……?)
かと思えば、正気を取り戻したのか俺の顔をじっと見つけてくる。
「ねえ、ジュリ何か言ってた?」
「……? いや……大したことは別に……」
「……そう」
花恋は何か考え込んでいるようにも、落ち込んでいるようにも見える顔をしていた。
そして花恋は出し抜けにこんな提案をしてきた。
「ねえ今日一緒に夜ご飯食べない?」
「随分突然だな」
「だめ?」
「いいけど」
すると花恋は「ありがとう」と言って自席へ戻る。
その様子がどうもいつもと違くて違和感を覚えた。
☆
サイゼリヤにて。
俺たちはミラノ風ドリアとその他つまむものを頼み、それとなく口に入れる。
(……なんだ、この妙な緊張感)
周りの学生たちは楽しそうにご飯を食べているが、この席だけ重めな空気が漂っていた。
(漂うのはドリアの良い香りだけでいいんだよな……)
カシャンカシャンとカトラリーとお皿が重なる音が優しく響く。
しばらく食べ進めると、花恋から口を切った。
「もう一度確認したいんだけど……ジュリは何も言ってないのよね」
再度聞かれたので、俺は真剣に考えてみる。しかし考えれど考えれど心当たりがない。
「ああ。特に何も言ってないな」
すると花恋はスプーンをお皿に置いた。お皿にはまだドリアが残っている。
なんだ? と思ったが、花恋は俯いてしゃべり出さない。
俺もなんとなく花恋と同じようにしてみる。
すると花恋は突然声を押し殺して泣き始めた。
「……!? ちょっ、ど、どうした!?」
俺は慌てて花恋に聞く。
「だって、だって……」
花恋は肩を震えさせて話し出した。
「やっぱり言えないわ。ごめんなさい……」
俺は首を横に振る。
「言いたくなかったら無理に言わなくていいぞ」
俺は花恋が落ち着くまで適当な雑談を話していた。
「ロイヤルホストとてんやって同じグループ会社らしいぞ」
「一番最初のめじるしチャームはサンリオから始まったんだってさ。時代の先駆者は常にサンリオだよな」
「俺、この間激辛ラーメン食ったんだけど、あまりに辛いものを食うと腕が震えるんだな。初めて知ったよ」
すると花恋は落ち着いてきたのか、くつくつと笑い始めた。
「ふふっ……海斗ってば、辛いものそんなに得意じゃないのに。よく食べるわよね」
「得意じゃないけど好きなんだよ」
「なにそれ」
花恋はもう一度笑う。
それを見て、俺は少し安心した。
そして花恋は落ち着いてきたのか、またドリアに口をつける。俺も同じようにした。
そして、俺はとあることを思い出す。
「……なんか中学の頃も、花恋のことこうやって慰めた気がする」
「っ! あ、あのときのこと、まだ覚えてたのね……」
花恋は恥ずかしそうに言った。
そう、それは俺と花恋が仲良くなったきっかけのこと。




