7 かわいい後輩ちゃんは一途らしい 2/2
帰り道、志友はずっと俺の腕に絡みついていた。
しかし一度も口を開かず、結果として俺と花恋がずっと会話している状態だった。
「じゃあ、俺と花恋こっちだから」
志友の家はなんとなく把握している。
だからまたねを促した。
すると志友は一層テンションが下がる。
「……はい」
そう力なく返事して、腕から手をどけた。
その仕草が可哀想だと思わなくもなかったが、時間も結構良い時間だった。
俺はスマホで改めて時間を確認する。もう帰らせた方がいいだろう。
すると何故か志友は目を見開いて驚いた顔をしていた。
「……!?」
その視線の先には俺のスマホがあった。
俺は自分のスマホを確認してみる。特筆するようなものは特になかった。
すると志友は声を震えさせながらスマホを指さす。
「天沢シュナ、まだファンでいてくれてるんですか?」
スマホのロック画面の話だった。
俺のスマホのロック画面は大人気VTuberの天沢シュナちゃん。
天使をモチーフにしたビジュアルで、大きなうさ耳が特徴的なキャラクター。
「ああ。俺が受験期、一番お世話になった子と言っても過言じゃない」
すると、志友は優しい顔を浮かべて少し微笑んだ。
「……ありがとうございます」
「? なんのお礼だ?」
「いえいえ! こちらの話なのでお気になさらず!」
そして志友は駅へ走り出した。
少し行ったところで、こちらを振り返ってかわいく手を振る。
「じゃあまた明日です! 海斗せんぱいっ♡ ……と、花咲先輩」
「ああ、じゃあな。志友」
「うん、気をつけてね。志友ちゃん」
俺たちは駅へ向かう志友に手を振った。
そして志友が見えなくなったとき、花恋は「ねえ」と尋ねてくる。
「……海斗って実はモテるの?」
「いや……マジでそんなことはない……」
「でも、あの子……志友ちゃんだっけ。随分海斗のこと好きそうだったけど」
「あいつは……アレだ。俺のことを過大評価しすぎっていうか……」
「……ふーん」
「つーか、志友と花恋も同中だぞ。一個下の」
「え、そうだったの?」
花恋は「一回ぐらいしゃべったことあるのかな……だから、私が初見みたいな反応して怒らせちゃったのかしら」とぶつくさ何やら言っている。
「花恋って、やっぱりそういう系に鈍感なんだな」
「は? 何の話? なんかバカにしてる?」
俺はわざと聞こえないフリをする。
(こいつ、嫉妬されているとか気づかないタイプなのか……)
そういえば、嘘告される少し前。
花恋と、その友達の九条の会話を盗み聞いた日を思い出す。
『私、恋とかよくわかんないし』
花恋が九条にそう言い放つ。
どうしてこんな話になったか、詳しい経緯はわからないが、寂しそうで不満気な言い方だったのは覚えている。
『ほーん。完璧美少女でもわかんないことってあるんだ』
『は!? そうじゃないし! 私だって恋愛のひとつやふたつ——!』
『え〜、花恋かわいい〜っ☆』
『こ、コンプレックスなのよ……! 恋愛……したことないの……』
『嘘でもいいから告ってみれば?』
『嘘……?』
『うん、だってそうでしょ? その×××に嘘は×××だから』
×××の部分はよく聞こえなかった。
いや、聞くことを拒んでいたのかもしれない。
俺はこれ以上聞きたくないと、この場から走り去ったのだから。
☆
私、甘奈志友の自室。自分で言うのもアレだけど、最高にかわいい部屋だ。
うさぎのぬいぐるみ、ハートのクッション、美少女ヒロインのフィギュア。そしてピンク色の額縁で大事に飾っているせんぱいと撮ったツーショット。
私はせんぱいとのツーショットを手に取って、胸に抱きながらベットへダイブする。
「せんぱい、久しぶりに会えて嬉しかったなぁ〜」
海斗せんぱいは頭が良いから、私は晴晴高校に入学するために猛勉強した。
その道中、何度も何度もせんぱいに会いたくなった。
けど、長い目で見て一年間(受験生の間)せんぱいとの時間を我慢すれば、入学後いつでもせんぱいに会うことができる。
そう思って入学したのに……。
「よりにもよって花咲先輩が彼女か……」
中学の頃から有名だった完璧美少女花咲花恋。
中学時代から海斗せんぱいと花咲先輩は多少しゃべる仲であることは知っていた。
そして、しゃべっているときの海斗せんぱいは私に見せない顔をするということも……。
(やば。目頭熱くなってきた)
私は涙をぐっと堪える。
「ダメダメ! 女の子の一番の化粧は笑顔なんだからっ!」
私は自分を鼓舞するためにほっぺを叩いた。
「さて、と。今日も配信しますか」
これまたお気に入りの私のデスク。
ピンクを基調としたデスクで、そこにはデスクトップPC、ネコ耳のヘッドフォン、うさぎのスマホスタンド、ガチャガチャで手に入れたかわいいフィギュア。
ここだけ写真に収めたなら、万人が配信者のデスク周りだと思うだろう。
(まぁ、実際その通りなんだけど)
私はパソコンの電源を入れる。ヴゥン、と起動音が鳴った。
そのまま、慣れた手つきでソフトを立ち上げる。
「配信前のカメラと音声確認〜っと……」
カチカチ、とマウスの音が軽快に響く。
あとは配信ボタンを押すだけ。
(今日も観ててください。せんぱい)
「みんな〜! こんシュナ〜! 天沢シュナだよ♡ 今日の配信は〜……マリオカート! 視聴者参加型! みんなで楽しも〜う!」
@あんこは粒あん『こんシュナ〜』
@三階から目薬『マリカか! 楽しみだぜ!』
@しょっぱい歯磨き粉『シュナ×マリカはマジおもろいから神回確定』
流れるコメント欄。
今日も私にファンが着いてきてくれている。
「シュナマリカはマジおもろいってそれどういう意味〜? 褒めてる〜?」
@おこげがメイン『褒めてる褒めてるw』
@りょーたろ『今北産業』
@夏でもヒートテック『実際シュナちゃん初期に比べて上手くなってる』
私は絶え間なく動くコメント欄の中で、久しぶりに見るアカウントに心を踊らせてしまう。
@海斗『シュナちゃん! こんシュナ! マリオカート楽しみ!』
(……! せんぱいっ!)
せんぱいはROM専なのに、今日はなぜかコメントしてくれた。
「えへへ〜♡ シュナも楽しみっ」
思わずデレデレで反応してしまった。
まずいまずい。こんな露骨に嬉しそうに反応してたら、海斗せんぱいが好きってリスナーにバレちゃう。
気を取り直して配信に向き合う。
「今日こそ連続一位記録更新しちゃうもんね〜! ん? なになに……『シュナちゃんはまず一位を取ることを目指そうね……』ってうるさいなぁ! シュナは成長コンテンツなの! 別に夢を語るのは自由でしょうよ!」
私はプンっと可愛らしく拗ねてみる。
すると流れ行くコメント欄の中で、気になるコメントを見つけてしまう。
@KAREN『シュナちゃん頑張って!』
(このアカウント……花咲先輩だよね)
私は花咲先輩のコメントにカーソルを合わせる。
「……うん。負けないから」
私はコントローラーを手に持った。
そう。私は成長コンテンツ。
絶対絶対絶対、海斗せんぱいを振り向かせてみせるんだから。
(その時まで、私、とびきりの女になってやりますから)
エンジンはもうかかっている。




