24 偽物カップルなのに遊園地で一泊二日しちゃいます 1/4
花恋は唐突である。
「ねえ海斗、ディズ行かない?」
「ディズ?」
「ネズミが有名な遊園地よ。知らないの?」
「いや、知ってるけど……」
すると花恋は薄い冊子をバックから取り出した。表紙には平成初期から使われていそうな丸みを帯びたフォントで『ナンプレ』と記してある。
「懸賞があたったの。ペアチケット」
「マジ?」
「しかも泊まりで」
「嘘だろ」
しかし本当らしい。花恋は当選メールを見せてくる。
「どんな豪運だよ」
「ナンプレが趣味で良く懸賞に応募するのよ」
「令和女子の趣味じゃないなぁ……」
「じゃあ誰向けの趣味なのよ」
「昭和おじ……?」
花恋は「というわけで」と仕切り直す。
「行くわよ。ディズへ」
こうして俺は初めて女子とふたりでディズデートへ行くこととなった。
☆
ディズデート当日。
最寄り駅で俺は少しだけそわそわしていた。
(くっそ……なんでか昨日はよく眠れなかった。これじゃあまるで花恋のこと意識してるみたいじゃねえか……)
スマホの電源をつけては消してつけては消してを繰り返す。
エックスやインスタを眺めても内容なんて頭に入ってこない。画面を暗くして映るのは自分の容姿。
(九条に教えてもらったときみたいに髪もセンター分けでいつも以上にキメてるし、爽やかな笑顔だって少しはできるようになったはず……服もZOZOTOWNで一式揃えた……大丈夫……大丈夫……)
俺は深呼吸を繰り返す。吸って吐いて吸って吐いて。
すると、俺の方へ人影が伸びていく。俺は顔をあげる。
「あっ、海斗。待った……?」
俺は思わず息を飲む。
大きいリボンがついたブラウスに薄手のニット。ロングブーツに皮の手持ちバッグ。全身白黒でまとめたコーデは、いわゆるモード系というやつだ。
しかし、特筆するべきはここから。まさかのミニスカート。灰色のミニスカートとロングブーツが織り成す絶対領域。美しい太ももが顕になっていて、俺は目のやり場に困る。
(いや、私服可愛すぎるだろ……!)
当然、通行人たちも花恋のことを二度見三度見したあと、必ず褒め言葉を挟む。
「ねえあの子超かわいくない……?」
「やば……モデルかな?」
「あんなにかわいい子が彼女なんて、彼氏は前世でどんな徳を積んだんだろうか」
今世で積んでる可能性だってあるだろ。
俺は再び花恋のことを見る。やはり並外れた容姿だ。
横に並んで歩くとよりわかる、花恋の美貌。それにしたって、今日はいつにも増してかわいかった。
いつもより高く上がっているまつ毛、ほんのり色がついたほっぺ、うるうるした唇。
「……花恋、今日ひょっとして化粧してるのか?」
すると花恋の口角がふわりと上がる。
「あ、気づいちゃった……? 実は海斗にかわいいって思ってもらいたくって、メイクの練習してたんだ」
(……んんんんんっ!)
俺は口を抑える。
俺を惚れさせるために狙って言ってるとわかっていてもこの破壊力。
(俺にかわいいって思ってもらいたかったからとか、そんなの反則すぎるだろ……!)
これ以上花恋をまじまじと見ると目が焼けてしまう。しかし、それでも本能的に美しいものを見たくなってしまうのが人間の性。
俺は薄目で花恋のことを見ようとする。
すると花恋は舌を出して、人差し指でまぶたを軽く引っ張っていた。
「んべっ」
「——っ!」
俺はさらに顔に熱を帯びていくのを感じる。
(待ってくれ、からかってるところの方がかわいいとか勘弁してくれよ……!)
直射日光よりも眩しすぎる花恋。
俺は目をしぱしぱさせる。
その姿が面白かったのか、花恋はご満悦の様子。
「じゃあ、行こう。海斗」
「……ああ。花恋」
(負けてねえから! 負けてねえから!)
俺は遠吠えを心の中で済ませた。
☆
園内。
俺たちはディズお約束の耳を選んでいた。
「海斗、これなんてどうかな? 似合ってる?」
それはネズミの耳に赤いリボンをつけたオーソドックスのカチューシャだった。
「じゃあ俺はこっちだな」
手に取ったのは通常のネズミのカチューシャ。
(もうこんなのどっからどう見てもカレカノだな……)
会計を済ませて、パークに繰り出す。
俺は花恋にどこに行きたいか聞こうとしたときだった。
「!?!!!?、!?」
手を繋がれる。
俺の左手の自由が奪われた。
「ん? どうしたの? 海斗」
「い、いや、どうしたもこうしたも……」
「え……手繋ぐの嫌だったかな……」
しょんとしょげる花恋。まるで飼い主に構ってもらえない犬のようだ。花恋に無いはずの犬耳が垂れているように見える。
そして追撃をするかのように花恋は言った。
「私、一応海斗の彼女なんだけど……」
首を傾げて寂しげな表情をする花恋。
ここで俺は今回は本気で落としにかかってると悟ってしまう。
(それにしたって今日は飛ばしすぎじゃねえか!? いや、かわいいけれども!)
全て俺を落とすための完璧な演技だとわかっていても、いかんせん顔が良すぎるせいで、心がいちいちときめいてしまう。
「じゃ、じゃあアトラクション乗ろうか……」
ドキマギしながらジェットコースターへ向かう。
「きゃーっ!」
ジェットコースターに乗っている花恋もかわいい。得意な方なのか、かわいらしい悲鳴を上げる余裕があるようだ。
その後も、あざとかわいい場面が続いた。
「わあ! プリンセスがいるよ! 話しかけに行きたいっ」
「ねえ海斗、あの行列売店じゃない?」
「これすごく美味しいっ。海斗と一緒に食べるからかなぁ……?」
彼女としては120点満点の反応をしているだろう。
だが、どこかむず痒い。
なんというか……なんというか……!
俺も負けじと彼氏っぽくする。
「花恋、写真撮らせてくれ」
「ポップコーン食べるか? え、チュロスも? しょうがねえなぁ」
「どんな花恋もすごくかわいいよ」
俺は微笑みながら言う。
(……ただ、実際これは本当なんだよなぁ。花恋って何しててもかわいいから困る)
こうして一日目が終わった。
ホテルのチェックインの列に並んでいる間、花恋はさっきまでの外面モードを終えて素に戻る。
「ねえ、海斗。今日の私、とってもかわいかったでしょ。惚れた?」
目を細めて、どうやら勝気のご様子。
俺は今日の花恋の言動を思い出す。
「……かわいかったけど、なんか違ったな」
すると花恋は心底驚いた顔をする。
「え。どうして? あんなに完璧だったじゃない」
「いや、完璧だったんだけど、そこがむしろ違和感というか」
「? 完璧なのに違和感ってどういうことよ」
「言葉を選ばずに言えば鼻につく」
「はあ!?」
花恋は拳を握ってぷるぷると震える。
「ど、どういう意味よ……! 私、今日結構頑張ったと思うんだけど!」
「確かにめちゃくちゃ頑張ってたし、最初の方は正直いつもよりかわいいと思った」
「じゃあどうして!」
「どうして、なぁ……」
少しだけ時間を置いて考えている風にしてみたが、どう考えても理由はひとつしかなかった。
「俺は人の目がない花恋の方が好きだ」
すると花恋はポカンと口を開ける。そして、顔がどんどん赤くなっていく。
「はえ……?」
そして機関車のようにポッポッーと耳から蒸気が勢いよく噴射しそうになっている。
何にそんな反応になっているんだ、と疑問に思ったが、さっきの自分の台詞を思い出せば自明だった。
「違……! 好きってそういう意味じゃなくてだな……!」
「わわわわわわかってるわ……! 友達って意味でしょ!」
「そうそうそう! 友達! 友達だから……!」
するとチェックインの順番が回ってきた。
花恋は受付の人に「予約していた花咲です」と伝える。
「花咲さまですね。お待ちしておりました。今回、ツインルームのご予約でお間違えないでしょうか?」
俺たちは顔を見合わす。そして花恋は受付の人に向き直った。
「えっと、部屋二部屋で予約してたと思うんですけど……」
すると受付の人は「確認します」と手元のパソコンを触る。そして受付の人は困った顔をして続けた。
「すみません、花咲様。ツインの一部屋のご予約となっております……」
俺たちは固まる。
(つ、つまり俺たちは同じ部屋で一夜を明かすということか……?)
俺は固唾を呑んだ。
そしてそっと花恋に耳打ちをしようとする。
「なぁ花恋……今からでも部屋取り直そうぜ。俺、別部屋取るから、花恋は広い方泊まれよ」
そう提案したが、花恋は顔を真っ赤にしながら言った。
「べ、別に私はなーんにも気にしないわよ! 海斗ってば意識しすぎよ!」
「そ、そーだよな! まあ? 一応? 花恋も女子だし? 俺なりの気遣いといいますかあ?」
「あらあらあら、お気遣いありがとう。けど、私なら大丈夫よ! 海斗がおかしな気を起こさない限りね!」
「起こさねえよ! 花恋なんてもはや妹みたいなものだしな!」
俺たちは大声で「「あっはっはっはー!(棒読み)」」と笑う。
そしてトントン拍子でホテルで二人きりとなる。
(気になるに決まってるだろ——!)
俺は天を仰いだ。




