25 偽物カップルなのに遊園地で一泊二日しちゃいます 2/4
俺たちはホテルに入室した。
「……結構広いな」
「……そうね。なかなか広いわ」
俺たちは荷物を置く。
そのまま、俺は花恋に話しかける。
「風呂、先に入ってこいよ」
「……!」
「さすがに男の後に入るのはやだろ」
「別に嫌じゃないわよ」
花恋は「ていうか」と続ける。
「……本当に嫌だったら、トラブルとはいえ一緒の部屋で泊まらないわよ」
花恋はそっぽを向いて、照れくさそうに言った。
俺もつられて顔が赤くなってしまう。
花恋は「じゃあお言葉に甘えて先に入るわ」とシャワーへ向かった。
(……配信でも見て待ってるか)
シャワーの音を聞くのも申し訳ないので、ごりごりのノイズキャンセリングがついたイヤホンで動画を視聴した。動画はもちろん、VTuberの天沢シュナちゃん。イヤホンからシュナちゃんの声が聞こえてくる。
『こんシュナ~! やほやほやほ~! みんな、花恋に会いたかった~?♡』
俺はコメントを打つ。
海斗『もちろん、会いたかった! シュナちゃん今日もかわいいぞ』
最近俺はROM専を引退しつつある。
なぜかはわからないが、シュナちゃんのことをほっとけない。俺がコメントしなきゃ、と思ってしまうことが増えたからだ。
(めんどくさいオタクだな、俺も)
つい失笑してしまう。彼氏面の厄介オタクだろうか。
『シュナちゃん今日はなにしたの〜? って、今日? 今日もねー、実はタピオカ飲んだの笑 そう、最近タピオカめっちゃハマっちゃってさ。美味しくない? タピオカ』
俺と志友が遊びにいった日から、ちょうどシュナちゃんもタピオカにハマり始めているようだ。
俺はシュナちゃんと同じ時を過ごしているみたいで、なんだか嬉しい気持ちになる。
(シュナちゃんと遊んでみたいなぁ。雑談配信とか聞くと、話が合いそうな気がしてならないんだよ。まぁこの考えも厄介オタクか?)
俺はふふふと笑ってしまう。こうやってシュナちゃんと友達になれたらとか考えるだけでオタクは楽しくなれる。幸せな生き物なのだ。
「シュナちゃんだ」
ノイズキャンセリングを貫通して花恋の声が聞こえる。
俺は横を振り返ると、耳元に花恋の顔があった。
「ちょ、わーーーーーー!」
驚いた俺は反射的に後退する。
「ご、ごめんなさい。驚かせちゃったかしら」
驚いたことに驚く花恋。
そしてさらに俺に追い打ちをかける事件があった。
「いや、お前! 服着ろ! 服!」
花恋の服はほとんど裸のようなものだった。
タンクトップにショートパンツ。あまりにも布面積は少なすぎる。
対して花恋は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「服……? 服なら着てるじゃない」
嘘だ。いや、厳密には着てるけど着てないのに等しい。
タンクトップのネックは胸元まで垂れており、谷間が無防備に見えている。むき出しの太ももは、風呂から出たてだからか潤いがありハリがあった。ショートパンツもお尻の輪郭がはっきりわかってしまうようなもの。
俺は目を伏せながら言う。
「だって、そんなのほぼ裸だろ!」
「は、裸……!? そんな恥ずかしいこと言わないで……!」
四捨五入すると裸の格好をしているよりも、裸って単語に頬を赤らめる。
(こいつ……恥じらうところがわかんねえ……!)
俺は部屋を見渡し、貸出のパジャマを見つけて手に取る。
「とりあえず、パジャマあったからこれ着てくれ。それと……」
俺はそっぽを向いて口を開く。
「俺以外の男の前では、絶対にその格好するなよ」
花恋は俺からパジャマを受け取る。
「……わかったわ」
こうして花恋はパジャマを着た。目を逸らしていても、衣擦れが聞こえてくる。それどころか、さっきの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
「……〜〜〜、俺も風呂入ってくる!」
俺は逃げるようにシャワーを浴びた。
浴室を開ける。花恋が先に入ったので、当然水滴が壁に付いていた。また、壁だけではない。浴槽の床にも。
(これはこれで……なんていうか、良くないことをしている気分だ……)
こうして俺はとっととシャワーを済ませて花恋の元へ戻る。花恋はベットでスマホを見てくつろいでいた。




