22 甘奈志友と天沢シュナ 2/3
中学の頃、私、甘奈志友は授業中以外ずっと裏庭にいた。
『コラ! 甘奈さん! また授業サボって!』
いや、授業中も裏庭にいることが多かった。
先生はこうして度々私を探しにやってくる。
『はぁ……教室に戻れ、ですよね。今日は気分じゃないので嫌です』
すると先生は呆れた顔を浮かべて、ため息を押し殺す。
『あのねえ……甘奈さんが教室に行きたくない理由はなんとなくわかるけど、明確にいじめられてる、って訳でもないんだから、いけそうだったら行ってもいいんじゃない?』
『そうですね。じゃあ、今はその時じゃないので』
するとまた先生は小言を言う。
うるさかったので、私はイヤホンをつけた。
そんな毎日を過ごしていたある日、いつも通り裏庭にいたら誰かがこちらに近づいているのに気づく。
『誰です?』
どうせ先生だろう。そう思って振り返ると、そこには男子生徒がいた。
『あー……すまん。先客か』
私は目を見開いた。まさか先生以外がこの時間にここに来るなんて。
『……アナタもぼっちですか』
『酷い言い方だな。俺、一応先輩だぞ?』
『そうですか。では、先輩もぼっちですか』
『酷い言い方なのは変わってないぞ……』
先輩は無遠慮に私の隣に座った。
(こ、こんなに近寄るなオーラを出してるのに、この先輩よく隣に来るな……なよなよした見た目に反して意外に図太い?)
私が居心地の悪さを感じていると、先輩は私のプライベートにズケズケと踏み込んでくる。
『なあ、お前なんでひとりでこんなところにいるんだ?』
(初対面の……しかも異性によく聞いてくるな……ノンデリってやつ?)
なんだか向こうのペースに乗せられている気がして、それが癪だった。だから答えてやる。
『馴染めないんですよ。クラスに』
『俺も一緒だよ。なんでか馴染めないんだ』
『……先輩と一緒ですか。なんだか嫌ですね』
『うっ、嫌とか言うなよ……』
そう言って先輩は露骨に凹む。肩も首も落とすものだから、私は言いすぎたかもと即座に謝った。
『え。ほ、本当に傷ついてます……? ごめんなさい』
『うっそ〜』
先輩はいないないばぁの『ばぁ』の顔をすごくウザくした顔でかましてきた。
私は『はぁ〜〜〜!?』と大声を上げてそっぽを向く。
『心配して損しました! 先輩なんて知りませんっ』
『ははっ、ごめんて。怒んないでくれよ』
先輩は平謝りだった。本当にもう知らないんだから。
そして次の日。先輩は性懲りも無く裏庭へやってきた。
『また来ましたね』
『ここ、お気に入りなんだよ』
そう言って、先輩は昨日と同じように私の隣に座った。
(また隣に座ってきた……なんなのこの先輩……)
しかし昨日と違って、嫌悪感はなくなっていた。
私は黙っていると、視界にパックのいちごミルクが入ってくる。
『……なんです? これ』
私はいちごミルクと先輩を交互に見ながら言った。
『いや……縄張りの主には餌付けが必要かなーって』
『な、舐められたものですね……! 別に私はこんなのじゃ……!』
『いらないか? じゃあ俺飲んじゃうけど』
私はいちごミルクに手を伸ばす。
『ま、まぁ頂けるならありがたくちょうだいします』
『薄々気づいてたけど、お前、割と素直なんだな』
『割とってなんですか。失礼な先輩ですね』
『ごめんごめん』
また平謝りだ。気に入らない。気に入らないだから。
『……あと私はお前じゃないです。志友……甘奈志友です』
こうして私たちはほとんど毎日裏庭で会うようになった。
ある日、せんぱいにこんなことを聞かれる。
『そういえば、なんで志友ってクラスで浮いてるんだ?』
『せんぱい、もう少し聞き方ってものがあると思いますが』
『悪い悪い。それなりに関係値があるから聞いてもいいかなって思っちまって。嫌だったら、全然答えなくていいぞ』
私はせんぱいなら言っていいかな、と思った。
だから、うずくまりながら答える。
『……素の私でいると、どうしてもハブられちゃうんです。何が原因かはわからないんですけど、きっとどこかズレてるんでしょうね。私は合わせているつもりでも、やっぱりみんなからしたら私はおかしいんだと思います』
『おい、そんなこと……』
意地悪な私はせんぱいの言葉に被せて続けた。慰めなんていらないからだ。
『私でもわかる原因のひとつはこの声ですね』
『声……? なんでだ?』
『甲高くてやりすぎな声らしいです。ぶりっ子にも聞こえるらしいですね。声優志望?笑 って馬鹿にされたことなら何度もあります』
するとせんぱいは心配そうな表情から一変、きょとんとした顔になる。
『え……俺、志友の声すごく好きなんだが……』
『……せんぱいは優しいですね。でも、慰めは無用ですよ。私の声が変なんて私が一番——』
『いや、慰めじゃなくて』
せんぱいは穏やかな表情で続ける。
『俺の好きなアニメのヒロインの声にそっくりなんだよ。めちゃくちゃ可愛い。なんならそのヒロインの声より好きかもしれねえ。そんなに良い声を持ってたら、俺だったらその声を使って職に就こうとも本気で考えるけどな』
『……例えばどんな職です?』
私は興味本位で聞いてみた。するとせんぱいは真剣に悩んだ末、ひとつの選択肢を提示してくれる。
『VTuber、とか』




