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19 舞浜さんと遊びに行くことに 1/2

「あ、あの……! 海野くん!」


「……? どうした?」


 文化祭から数日後の昼休み。


 クラスメイトの舞浜さんが突然俺に話しかけてきた。


 彼女は少しもじもじとしたあと「じ、実はね……」と切り出してくる。


「今日、本屋さんに行きたくてさ……」


「! ひょっとしてババロア先生の新作画集か……!?」


 俺は前のめりになって反応してしまう。


 予想はビンゴだったようで、舞浜さんは人差し指を立てた。


「そう! もしかして、海野くんもチェックしてるの……?」


「ああ……! 好きな絵師さんのひとりだからな!」


 俺はエックスのフォロー欄を見せる。その中には有名絵師のババロア先生のアカウントも並んでいた。


 それを見て、舞浜さんの顔が一段と華やぐ。そして彼女は徐々に饒舌になっていった。


「海野くんもチェック済みだと思うんだけど、今日フラゲ日だから本屋さん行かなきゃなーって思ってて……」


「だったらアニメイトの方がいいぞ。サイン本が売ってるから」


「本当に!? 行きたい……!」


 舞浜さんは声を弾ませた。


 俺はアニメイトの公式エックスを見る。品切れポストがないので、まだサイン本は残っていそうだ。


 (けどババロア先生人気だからな〜……今日中に行かないと売り切れてそうだ)


 チラリと舞浜さんの様子を伺う。ババロア先生のエックスを見て、画集が手に入るのを楽しみにしている様子だった。


「……放課後、一緒に買いに行くか?」


「……! 行く!」


 舞浜さんは「やった〜!」と心底嬉しそうにする。


 対する俺は純粋に楽しみな気持ちにはなれなかった。


 彼女持ちなのにも関わらず、女子とふたりで放課後にお出かけは如何なものかと思わなくはない。


 (……まぁ、偽物の関係だし)


 心で唱えてズキリと痛む。


 どうして痛めているのかは、自分でもよく分からない。


「……海野くん? どうしたの?」


 舞浜さんは心配そうな面持ちで、俺の顔を覗き込んでいる。


「いや、なんでもない。行くか。放課後、アニメイト」


「うん……!」


 こうして、俺は高校生活初めて同級生の友達と放課後出かけることとなる。


 ☆


 六時間目終わりのHR前。


 自販機でたまたま花恋に居合わせる。


「海斗、今日も帰るでしょ?」


 周りに生徒がいなかったので、花恋はフラットに話しかけてきた。


「あー、わりい。今日は先約があって」


「? 海斗って友達いたの?」


「できたっぽい」


 すると花恋は目を見開いて、明るい声で言う。


「……! おめでとう! ちなみに、誰?」


「舞浜さん」


「え! 麻衣ちゃん? やるじゃない!」


 花恋は心の底から嬉しそうにしてくれた。その反応に、俺は拍子抜けしながら口を開く。


「お前……バカにしてきたりしないのか? 高二にもなってようやく休日に遊べる相手ができたのかよって」


「するわけないじゃない! むしろすごく嬉しいわ!」


 そう言って花恋は俺の顔を覗き込む。


「楽しみなさいよ。友達との時間」


 花恋はくしゃっと笑った。


「海斗ってば、すごく良い人なんだから、ひとりでいるなんてもったいないわ!」


 その笑顔は普段の万人受けの笑顔より、ずっとずっときらきらして見えた。


 ☆


 学校終わりの池袋。


 平日であるのにサンシャイン通りは随分と混みあっている。


 俺たちと同じ学校終わりの学生、営業らしいサラリーマンっぽい人、外国人観光客、コンカフェの呼び込み……。


 様々な喧騒が入り乱れる中で、俺たちはその周りの誰よりも静かだった。


「……」


「……」


 肩を並べて歩いているはずなのだが、そのような仲には見えない感が強い。


 (……気まずいな)


 なので、俺は話題を振ろうと試みる。


 おそらく舞浜さんは俺側の人間だろう。


 ならば外さない話題といえば。


「ま、舞浜さんってさ……!」

「海野くんって……!」


 突然舞浜さんも口を切る。心の中で少し驚いたが、俺は話題を譲ることなく続けた。


「「好きな漫画とかあるの!?」」


 すると互いにポカンと顔を見る。


 もしかして、ハモった……?


 それがわかって、俺は笑いが込み上げてきた。


「ふっ……」


「あはははは! さっきまで無言だったのに、なんで突然ハモったんだよ!」


「ふふふふふっ! 息ぴったりだったね。びっくりしちゃった!」


 俺たちは腹を抱えて笑った。


 そして一通り笑いあったあと、舞浜さんは息を整えながら本筋を切り出す。


「私は『いきなり好きって言っていいですか?』に最近ハマってるんだ。知ってるかな……? 今キてる漫画なんだけど……」


「なり好きな! 読んでるぜ!」


 俺は人差し指を立てて、得意気に続けた。


「中でも推しは——」


 俺たちは顔を見合せて、互いを指さす。


「「みらくるちゃん!」」


 まさかのここでもハモり、俺たちは思いが高まった。


「マママママママジで!? 舞浜さんもみらくるちゃん推し!?」


「本当! 私みらくるちゃん最推しなの! 清楚ギャルって言うのかな? あの見た目とおちゃらけた感じ、その上で誰よりもピュアで主人公に一途なのがもう……っ!」


「くわあああああああ! わかる! わかるぞ! なり好きはみんなピュアだけど、その中でも実は一番のピュア! 最新話見たか? あれはガチ恋するぜ!」


「そうなの! あの見た目で元彼が一人もいない、そしてそれがコンプレックスに思ってるところとかもう、かわいい! ってなっちゃう……!」


 俺は「わかるわかる!」と激しく同意した。


「あー、俺ってばどうして舞浜さんともっと早くしゃべっておかなかったんだー! 高校生活三分の一、損しちゃったぞ!」


「私もだよ! こんなに近くにここまで趣味が合う人がいるなんて……!」


 こうして俺たちは目的地までの道のりで話題が尽きることはなかった。


 そして到着したアニメイト。


 サイン本が手に入るか否かが頭を過ぎり、一瞬にして俺たちはオタク戦闘モードとなる。


「行くぞ……舞浜さん……」


「うん……」


 そして俺たちは早足で書籍コーナーに向かった。

 

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