16 文化祭は落とすチャンス 6/7
文化祭開園まで残り一時間。
近くのスーパーは三件。
「まわり切れるかしら……」
花恋は頭を抱えた。マップを確認すると、確かに付近には三軒のスーパーがある。
しかし、どれも高校を中心に円を描いたような、ほとんど等距離の場所にあった。
俺はその一件一件のスーパーの特徴をマップで確認する。そしてその中のひとつにアタリをつけた。
「花恋。俺に良い案がある」
「良い案……?」
花恋は縋るような目で俺を見る。俺はそれに答えるように、ひとつのスーパーをズームした。
「このスーパーだけ普通のスーパーじゃない。いわゆる業務スーパーだ。ここでならおそらく他のスーパーよりは一括で麺が手に入りやすいと思われる」
花恋は顔を上げた。
「つまり、スーパーのハシゴをしなくて済むから時間短縮になるってわけね……!」
俺は頷く。「そういうことだ」
「てわけで、もうひと走りするぞ! 花恋!」
「着いてくわ! 海斗!」
俺たちは一目散に駆け出した。
まずは駐輪場へ向かう。俺は自転車通学だった。
「後ろに乗れ、花恋!」
「じ、自転車の二人乗りはダメなんだよ……!」
「うるせえ! そうも言ってらんないだろ!」
「で、でも……そしたら完璧美少女花咲花恋の名前が……」
そうか。花恋は俺と違って今まで積み上げたものがある。
だったら。
「じゃあその時は全部俺のせいにしろ!」
「え……?」
「お前はその時迷わず言え。『こいつに脅されました』ってな!」
俺は親指で自分を指さす。
俺なら失うものはない。白い目には慣れている。
(もし、冷たい視線が刺さっても、花恋のためだったら構わないしな)
「ほら! 急ぐぞ!」
俺は花恋の腕を引っ張る。
「……っ!」
花恋は少し驚いた顔をして後ろに乗った。
「俺の腰に腕を回せ!」
「でも、そしたら海斗が危ないわよ……!」
「いいから! お前が危ない目に合うよりずっといい!」
「うっ……あ、ありがとう……」
花恋は俺の腰に腕を回す。
「しっかり掴まってろよ……!」
俺の合図で花恋はぎゅっと腕の力を強めた。
☆
業務スーパーは開店直後だというのに、そこそこ混雑していた。
中でも客は制服姿の人がやたら目につく。
「そっか……近隣校も軒並み文化祭なのか……」
俺は少し焦っていた。なぜなら、焼きそばは文化祭の定番。つまり、麺が足りなくなって買いに来た近隣高校が複数いるのではないかと踏んでいるからだ。
そして、俺の読みはあたってしまった。
「……っ。結構ギリギリの量ね」
花恋は陳列してある焼きそばの麺の量を見てぼやく。
たしかにギリギリだ。しかも良く見積もって。
実際のところはこの量でも足りないだろう。
これじゃあ持って午前中だ。
(野菜や肉でかさ増しするか……? そしたら予算がオーバーしちまう……)
基本的に食べ物はグラムあたりの値段は炭水化物が安い傾向にある。
(ただでさえ、廃棄物の麺で原価が高くなってる……抑えるとこは抑えたい……)
俺は辺りを見回す。野菜コーナーにあるもやしと目が合った。
「もやしを増やしてみるか……? そしたら量的には何とかなる……はず……」
自分で提案しておいて、無理があることはわかっていた。
だから当然花恋も首を横に振る。
「だとしてもかさ増しには限界があるわ……これじゃあお客さんに全然買わせてあげられない……!」
花恋は目に涙を浮かべる。
「クラスのみんなにも……顔向けできない……私に任せてって言ったのに……」
花恋は小刻みに肩を震わせる。詰みを察してしまったのだろう。
しかし、俺はまだ諦めていなかった。
(いやまてよ。麺以外の炭水化物でどうにかなるんじゃないか……? 米買ってそば飯にする手があるが、米を炊く時間なんてないし……)
俺はパンコーナーを見る。
「焼きそばパン……」
閃いてしまった。
「花恋! パンだ! コッペパンを買うぞ!」
俺が狙いを定めたのはひと袋にたくさんのコッペパンが入っている商品。不揃いだからか、値段も安い。
花恋は顔を上げた。
「そしたら別店舗にわざわざ足を運ぶ必要がなくなるってことね……!」
「そうだ! それにパンで焼きそばを挟むから、焼きそば自体の消費量も少なくなる!」
解決の糸口が見つかったからか、花恋の顔色が確実に良くなった。
「おい、安心するにはまだはやいぞ」
「海斗もニヤついてるわよ」
「うっせ」
俺たちは少しの麺と大量のコッペパンの会計を済ませ、急いで学校へ運んだ。
散々っぱら走って息も絶え絶えな俺たち。
それでも、この高揚感を一秒でも早くクラスのみんなに伝えたかった。
教室の前までくる。俺はドアを開けた。
「みんな、待たせたな……!」
クラスメイトは一斉に振り返る。
お通夜ムードから一変、全員が晴れやかな笑顔となった。




