15 文化祭は落とすチャンス 5/7
「いらっしゃいませ♡ 海斗ご主人様っ♡ と、花咲先輩お嬢様」
焼きそばを食べ終えた俺たちは、志友のクラスへお邪魔する。
志友は可愛らしいメイド服に身を包んで、俺たちを向かい入れる。
花恋はそんな志友を見てきらきらと瞳を輝かせる。
「かわい〜!」
「はあ……ありがとうございます……」
どこか不満気な志友を気にせず、花恋はぐいぐいと迫る。
「志友ちゃん、すごくかわいいね! 一緒に写真撮ってもらってもいいかな?」
「え」
「海斗、撮って!」
そう言って俺にスマホを預ける。
花恋は志友に身体を寄せてウキウキとしていた。
一方志友はどこか腑に落ちない様子で口を開く。
「……ポーズは何にしますか」
「じゃあハートで!」
こうしてふたりは手でハートポーズをつくる。
ふたりとも顔がかわいいので、正直かなり眼福だった。それは周りの生徒も同じなようで、みんなふたりの様子を見ている。
「うわ。美少女二人組〜」
「めっちゃかわいいね。間にいる男子羨ましい」
「どっちが男子生徒の彼女? あ、花咲先輩なんだ」
当人たちはヒソヒソ噂話をしているつもりなのだろうが、俺にはめちゃくちゃ聞こえていた。
なんだか気まずくて、この状況を打破しいうと俺はカメラを構える。
「じゃあ撮るぞ。さん、に、いち……」
カシャ、とカメラの音声が鳴る。
花恋は「ありがとう〜!」と俺と志友にお礼を言う。
そしてそのまま、花恋はオーダーを頼む。
「じゃあ、オムライスにしようかな! ケチャップで落書きもして欲しい!」
「……わかりました。オムライスですね」
志友は注文用紙に『オムライス×2』と書きなぐり、キッチンへ伝える。そして待つこと十分。オムライスを持って志友がやってきた。
「お待たせしました〜♡ オムライスです♡」
なお、俺の方しか見ていない。志友のメイドポケットにはケチャップが入っていた。それを取り出して、俺のオムライスに落書きをしていく。
「せんぱいっ、私のセンスに任せてください♡」
こうしてオムライスに^ ̳ᴗ ̫ ᴗ ̳^♡が描かれた。
これがまたなかなか上手である。
そして花恋にはハートを投げやりに描き(花恋は可愛いと喜んでいた)、志友はメイドさんの常套句を口にする。
「じゃあいきますよっ♡ 美味しくなあれ♡ 萌え萌えきゅ〜んっ♡」
手でハートを作って芝居がかった動きをする志友。あざとい、というやつなのだろうが、これがまた悔しいぐらいにかわいい。
「ちなみに、せんぱいには手とり足とりオプションがついてますっ♡ あーんもしますし、この後一緒に文化祭もまわれちゃいますよ♡」
「お前はシフトをこなせ……!」
「ええん……嫌ですう! せんぱいとようやく会えたのにこの数分で引き剥がされるなんて……! 気分はさながら織姫と彦星ですよお……!」
とかなんとか志友は抗議していたが、教室にはどんどんお客さんが入ってくる。
「甘奈さーん、こっちおねがーい!」
「志友〜! なにしてんのー!」
クラスメイトにも手を求められている。
そして最終的には志友の友達であろう人が志友の首根っこをつかんだ。
「はーい。志友行くよ〜」
「あーん! 海斗せんぱ〜い!」
志友はジタバタと暴れているが、連行されて行く。
俺達は顔を見合せて、何事もなかったかのようにオムライスを食べ始めた。
☆
こうして一日が終わる。
俺と花恋は教室へ戻った。
するとどうしてか教室から不穏な雰囲気が漂っている。
俺だけが感じ取ったのかと思ったが、花恋も訝しげな表情を浮かべて教室を伺っていた。
嫌な予感が増幅するごとに、俺たちは足取りが速くなる。
そして教室へ入った。
「みんな、どうしたの?」
「おい、大丈夫か?」
俺たちは示しを合わせたわけではないのに、開口一番状況把握をしようとする。
教室には半分ほどのクラスメイトがいた。
「あ……花恋ちゃんと海野くん……」
ひとりの女子生徒が反応する。目が合った彼女は青ざめながら話す。
「明日使う用の麺が……全部廃棄しないといけなくなっちゃったの」
「ちょっと待て。どういうことだ?」
俺はすかさず質問する。
すると女子生徒は事のあらましを話し出す。
「……材料の買い出し後、明日使う分をそのまま出しっぱなしにして、麺を冷蔵庫の中に入れ忘れたの」
俺と花恋はおそらく同じような顔をしていただろう。
(これは……なかなか大変なことになってしまったな……)
冷蔵品を一晩常温で外に置くというのが、どれほどまずいことか高校生の俺たちなら理解できる。
このままだと、焼きそばを提供することができない。
教室は曇天になる一方だ。
「ごめん、花咲……」
「花恋ちゃんごめんね……」
食品管理係のメンツが口々に謝る。深く反省している様子だった。
「謝らないで。それよりも、この後どうするか考えよ」
花恋は優しくなだめて、一旦この場を収める。
だが、誰がどう考えても絶望的な状況であることは変わらなかった。
空気がどんどん重くなっていく。
そんな中で、花恋は一歩前へ出た。
「私に任せて。どうにかしてみせるから」
そう言って花恋は教室を飛び出した。
「あ、ちょっ、おい! 待てって!」
俺はその後をすぐに追う。
「どうするんだよ! なにか策は考えてあるのか!?」
「とりあえず、付近のスーパー周るしかないでしょ! こうなっちゃったら、考える時間も最早タイムロスよ!」
花恋は猛ダッシュしながら言う。俺は花恋の手首を掴んだ。
「ちょっと待て! そしたら一度冷静になって考えようぜ!」
俺はポケットからスマホを取り出す。
「一旦スーパーを調べるぞ! 全くの無策は返って遠回りになる……!」
「わ、わかったわ……」
こうして俺たちは一度立ち止まり、作戦を練ることにした。




