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14 文化祭は落とすチャンス 4/7

 文化祭は二日間行われた。


 一日目、俺と花恋はほとんどシフトに入ってなかった。


 だから、花恋は誘ってくる。


「じゃあ海斗。一緒に周ろっか」


「おう」


 クラスTシャツに身を包んだ俺たちは、並んで廊下を闊歩する。


 その間も視線は絶えない。


「花恋先輩だ……! 今日もめっちゃかわいい……!」


「隣にいるのって彼氏の……確か海野先輩?」


「噂だとパッとしないって聞いたけど、結構かっこよくない……?」


 最近の俺は九条のプロデュースもあって、周りからの評価が確実に良くなっている。


 (ひょっとして、前よりも彼氏彼女にちゃんと見えてるのかもしれねえな……)


 そんなことを考えていると、俺の思考が九条を引き寄せたのか声が聞こえてた。


「あ! かれーん! 焼きそば食べてかなーい?」


「ジュリ!」


 呼ばれた花恋は九条の方へ向かう。


 九条は大きな鉄板を前にして、ジュウジュウと焼きそばを炒めていた。


「ど? 私の料理捌き。かわいーお嫁さんになれっかな?」


「なれるなれる。焼きそば作る姿、結構様になってるよ」


 九条は「でっしょ〜☆」と言って起こし金で焼きそばを混ぜる。


「お。海野も一緒じゃーん! 花恋とふたりで焼きそば食べてかない?」


「いや……俺たち同じクラスじゃん。散々試食もしたし、もうしばらく焼きそばは……」


 俺はやんわり断りを入れようとすると、横から花恋が話に入ってくる。


「いいじゃん。貢献貢献。ジュリ、一パックちょうだい」


「毎度あり〜!」


 九条はパックを取って、焼きそばを盛り付けていく。


 花恋は俺の方を見てウインクをした。


「思い出代ってやつよ」


 その姿にキュンとしてしまう。


 青春なんて経験したことのない俺だったが、なるほど。こういうことにお金を使えば、あとになって素敵な思い出として残るのか。


 こうして俺たちは自分のクラスの焼きそばを買った。


 ベンチを見つけて、早速食べるとする。


「花恋。先食っていいぞ。お腹減ってるだろ」


「ほんと? じゃあお言葉に甘えて」


 花恋は割り箸を綺麗に割って、手を合わせた。

「いただきます」


 箸で焼きそばを持ち上げる。花恋は唇をすぼめてふぅふぅした。風に乗ってソースの濃い良い香りがする。そして花恋はずるりとすすった。


「ん! 美味しい」


 まるで久方ぶりに食べましたかというような反応だ。目を輝かせ、本当に美味しそうにしている。


「飽きるほど食べたのに美味しいかね」


「美味しいわよ。ここ最近で一番美味しい」


 花恋は「海斗も食べてみなさいよ」と焼きそばを渡す。


 俺は素直に受けとった。


 (さて、俺も割り箸を割って食うか……)


 そう思い割り箸を探す。しかし探せど探せど割り箸は見つからない。


「……待って。箸二膳貰い忘れた」


 途端に妙な緊張感が走った。


「私、ジュリに割り箸貰ってくるわ」


 花恋はそう言って再び俺たちのクラスの屋台に走り出そうとする。


 しかし視線の先ではさっきまで空いていた焼きそば屋が突然列を作り始めた。


「今行ったら迷惑よね……」


「だな……」


 花恋は俺の隣にとんぼ返りする。


 俺の膝の上にはパックに入った焼きそば。


 徐々に温かみを失い、味の劣化へ一歩、また一歩と近づいていく。


 花恋は使用済みの割り箸を持っていた。当然、あれを使えば美味しいまま焼きそばを食べることができる。


「ま、まぁ俺は気にしねーけどな! だって花恋は俺の彼女だし!」


「そそそそそそうよね! 私も一切気にしないわ! だって海斗は私の彼氏だし!」


 俺たちは「あはははは!」と棒読みに限りなく近い笑い声をあげたあと、俺は腹を括った。


「……いただきます」


 花恋から割り箸を受け取り、焼きそばを持ち上げる。


 先程よりは冷めてしまっているかもしれないが、まだホカホカと湯気はたっていた。


 そして俺は目をつぶって焼きそばを口へいれる。


 当然、目をつぶる必要なんてなかったが、間接キスを意識しすぎて挙動がおかしなことになっていた。


 もぐもぐと咀嚼。飲み込んだ後、俺は目を開ける。


「……めっちゃ美味い」


 ソースをベースにした甘くて濃い味付けの焼きそば。キャベツのシャキシャキがこれまた食べてる感を演出し、豚肉がゴロリと出てきて良い脂が口内をジャックする。


 そこからは花恋の食べかけということを忘れ、ふたくち、さんくち、とズルズル食べた。


 それを花恋は呆然と見ている。


「ず、随分美味しそうに食べるのね……」


 俺は頷く。「実際上手いしな」


 そして俺は箸と焼きそばを花恋に突き出しながら言った。


「食べるか? 俺が食べたあとだけど」


 後者のセリフを強調して言ったやった。


 もちろん、煽りに乗るのが花恋だ。


「と、当然! 余裕で食べれるわ!」


 花恋は箸と焼きそばを奪って、半ば投げやりに食べる。


 ひとくちめ、花恋は食べたあと「やっぱりすごく美味しいわ……」と零し、そこからは普通にズルズルとすすっていた。


 花恋のやつも、あまりに美味しそうに食べるから俺も焼きそばを食べてくなってしまう。


 そんな食い意地がバレたのか、花恋は俺の方を向いてきた。


 そして箸と焼きそばを俺に渡そうとしたが引っ込めた。一度悪い顔を挟み、再び俺の方へ向き直す。


「あ〜ん」


 焼きそばを箸で持ち上げた状態で、俺の口まで運んできた。俺は心の中で天を仰ぐ。さっき花恋を煽ってしまったせいで、俺は今あーんをさせられそうになっている。


 (ちくしょう、さっき煽らなければこんなことには……! いや、でもここで怖気付いては俺が廃る……! ここはスマートに食べなければ! あ、花恋と目が合った。くっそ〜、花恋可愛すぎるんだよ! なんでこう、コイツは無駄に顔がいいんだ!)


 感情の渋滞。


けれど、俺は意を決して焼きそばへ口を近づける。そして大きな口を開けて焼きそばを咀嚼した。


「う、美味い……」


 花恋は勝ったという顔をしながら言った。


「それなら良かった」


 そんなこんなしているうちに焼きそばはなくなった。

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