13 文化祭は落とすチャンス 3/7
教室で作業をしていると、看板係のイラストが目に入ってきた。
パッと見で、すごく上手そうに見えたから、もう少し近寄って見たいと思った俺。
心に従うままに、看板の前まで来る。
「おお……」
看板には焼きそばを食べる男子生徒と女子生徒が描かれており、どちらもゆるいタッチだが、間違いなく玄人であるのがわかる。
「舞浜さん、めちゃくちゃ絵上手いじゃん」
「へ……?」
舞浜さんは俺の顔を見てぱちくりさせた。
「俺、舞浜さんの絵すごく好きだわ」
「あ、ありがとう……」
そう言って、舞浜さんは自分の描いた看板を見た。俺もその視線につられるように、再び看板のイラストに目をやる。
「つーかこの絵……」
俺は顎を摩りながら言った。
「なんかどっかで見たことあるような……」
今どきの絵柄ではあるものの、どこか懐かしさを感じるイラスト。記憶の隅に隠れて思い出せないが、見れば見るほど俺の中のノスタルジーが刺激される。
俺は絵をまじまじと眺めていると、舞浜さんがあたふたしながら話しかけてきた。
「わ、私実はネットでイラストレーターとして活動してるからもしかしたらそれでかも」
そう言って、舞浜さんはスマホの画面を見せてくる。
MAI @MAI-123& 『VTuberの天沢シュナちゃん描きました!』RP5000 いいね1万
「うわ〜! すっげえ。てか、俺このアカウントフォローしてるんだけど」
今度は俺が舞浜さんにスマホの画面を見せた。
「……! ほんとだ! フォローしてくれてたんだ……嬉しい!」
「俺もMAIさんに直接会うことができてめっちゃ嬉しい……もしMAIさんがコミケに出店する予定なら、絶対行きたいって思ってたし」
「そんなこと言ってくれるなんて……! 海野くんになら全然献本するよ!」
「いやいや、そんな悪いって」
「う、海野くんは最初のファンみたいなものだし……」
「? なんか言ったか?」
「いや! な、なんでもないの……!」
舞浜さんは両手を顔前で振る。
「そうか? なんかあったら教えてくれよ。俺、MAI先生の大ファンだし」
「MAI先生……ふふっ。うん。何かあったら言うね」
こうして俺は舞浜さんの元を後にした。
☆
「海斗せんぱいっ!」
廊下を歩けば志友にあたる。
「ぐわぁ!」
俺の許可取りなんてもちろんなしで、志友は抱きついてきた。
「せんぱぁ〜い♡ やっと会えましたね……♡ 志友本当に寂しくて寂しくて……」
そう言いながら俺の胸にほっぺをすりすりする。
もちろん廊下には他の生徒もいるわけで。
「あれ、花咲さんの彼氏じゃん」
「え。嘘。あれってたぶらかしてる……?」
「花咲さんという彼女がいながら……?」
ヒソヒソとあることないこと言われている。
俺は慌てて志友と対峙した。
「ちょっ、志友! みんな見てるから……!」
無理矢理志友を引き剥がそうとするが、恐ろしい腕力で阻止される。
「私は誰に見られたって構いません……♡ 今はせんぱいが他の子にお熱なようですが、最後に帰ってくるのは志友の懐だってわかっていますから……♡」
「誤解を招く言い方はやめろ……!」
しかし志友は何処吹く風。「そうだ!」となにやら思い出したようで、マイペースに話を続けた。
「海斗せんぱいのクラスは焼きそば作るんですよね!
「なんで知ってるんだよ」
「海斗せんぱいのことならなんでも知ってます♡」
志友は「そんなことより」と続ける。
「海斗せんぱいのシフトは何時ですか? おひとり様何ループまででしょう? たくさん買うので、せんぱいのシフトの時間が終わったら一緒に食べましょーねっ♡」
「たくさんは買わんでいい! 自分が食べられる量を買ってくれ!」
「えー。一緒に食べてくれないんですかぁ〜? いいですよーだ。せんぱいがシフト終わるまで待ってますので」
志友はそう言ったあと、「あとあとぉ! 私のクラスはメイド喫茶やるので来てくださいね♡」と手でハートを作って教えてくれた。
デフォルトハーフツインの後輩が俺に向かってハートを投げかけてくれるのはさすがに可愛いと思ってしまう。
(俺ひとりで行くのは周りの目があるからよくねーなぁ。花恋と行ってみるか……志友は嫌がりそうだけど、花恋は普通に楽しみそう)
俺は「シフト確認してみるな」と志友に伝える。
すると志友は顔を上げて表情を明るくさせた。
「き、来てくれるってことですか……?」
「ああ。まぁその方向で考えてるぞ」
「……!」
すると志友は再び抱きついてくる。
「ありがとうございます♡ せんぱい♡」
「どわぁ!」
懲りずに今度は上半身を使って俺の胸ですりすりする。
いよいよ周りの目が痛いので、俺は志友をそっと引き剥がす。
「じゃあ、俺文化祭の準備があるから……」
「ああ、そうですよね。もし、志友が手伝えそうなことがあったらなんなりと申してくださいっ」
「お前は自分のクラスの準備をやれ!」
ぶーぶー文句を垂れる志友を無視して、俺はこの場から去った。
☆
俺は物品を下から教室へと運んでいた。
「あ、海斗! おかえり」
戻ると、花恋が話しかけてくる。
「ただいま。どうした? 何かあったか?」
すると花恋はとある紙を見せてきた。
「じゃじゃーん! クラスTシャツの案だよ! すごくよくできてると思わない?」
俺は紙を受け取る。確かに俺じゃあどんなに頭を捻っても思いつかないようなオシャレなデザインだった。
「すげえ。めちゃくちゃ良いじゃん。てか、花恋って絵なんて描けたっけ?」
すると花恋は首を振る。
「私じゃないわ」
花恋の背後に隠れてた舞浜さんがひょこっと出てきた。
「……! 舞浜さんか! 通りで……!」
「そ、そうなの。花恋ちゃんが私にぜひ描いて欲しいって言ってくれて」
俺は納得する。
そしたら横から花恋がへへん、と嬉しそうにした。
「私の審美眼かな?」
「お前は何もしてないだろ」
「手厳しいなぁ、海斗は」
外行きの顔で花恋は困った顔をする。その顔も悔しいぐらいかわいい。
すると花恋は舞浜さんが見てない間に『どう? かわいいって思った?』というドヤ顔をしてくる。
なんだか見透かされた気がしてムカつくので、俺は手元のデザインに目を落とした。
「いや、本当にこのデザインすごく良い。俺やっぱ舞浜さんのイラスト好きだなぁ」
俺はぼうっとデザインを眺める。いくらでも眺めてられそうな不思議な魅力があった。
「あと、なんかわかんないけど懐かしいんだよな。ずっと見ていたくなる」
まるで児童に戻ったようだ。昔からこのイラストを見るのが趣味だったような気がしてしまう。
しかし花恋は俺と逆の意見だったようで、ふむふむと感心したように頷く。
「懐かしいかな? 私は結構今風だなって思ったけど。ずっと見ていたくなるっていうのは完全に同意。私もこんな絵描ければな〜」
すると舞浜さんは褒められて恥ずかしいのか、目をぐるぐるさせて言った。
「そそそそんな……! ほ、褒めても何も出てこないよお……」
舞浜さんは「それに……」と続ける。
「花恋ちゃんが絵まで描けるようになったら敵なしだよ」
「えー、そうかなあ? じゃあ麻衣ちゃんに教えてもらおうかな〜?」
「ふえぇ!?」
花恋が舞浜さんの肩に顎を乗せて、舞浜さんのほっぺをつつく。舞浜さんがわかりやすく動揺しているのがかわいかった。
☆
そして二週間後、ついに文化祭前日。
校舎の出入口が文化祭特有の装飾たちで彩られ、俺たちのクラス含め様々な屋台がひしめきあっていた。
「ついに明日が本番か……」
俺は感慨深い気持ちになる。
俺の一言で決まった焼きそば屋。今はこうして形になっている。
「海斗〜。なーに浸ってるのよ」
振り返るとそこにはニヤニヤした花恋が立っていた。
「うるせーな。いいだろ別に」
「悪いなんて誰も言ってないじゃない」
そう言って花恋はケタケタ笑う。俺は視線だけ花恋の方に寄越す。花恋も完成した屋台を眺めていた。
そこで、俺はずっと気になっていたことを聞いてみる。
「ていうか、俺たちって文化祭一緒に回るのか……?」
すると花恋は驚いた顔をして俺のことを見た。
「え? 回るつもりでいたんだけど……だって彼女だし」
花恋は自分で「彼女」と言ったあと、はっとした顔をした。
「い、いや! 海斗が他の人と回るなら全然いいのよ!? だって、彼女じゃないわけだし……! そんな海斗を縛るような……!」
花恋は必死に言葉を並べる。
その最中、俺は全てを聞き終える前に誘う。
「……一緒に回ろうぜ」
「……!」
花恋はしゃべりをピタリと止める。
そこで俺のターンだと思ってしまい、かっこつけた顔で宣戦布告してしまう。
「文化祭なんて落とす絶好のチャンスじゃねえか。逃す訳にはいかねーよ」
俺は口端を厭にあげてみせた。
すると花恋も同じように笑う。「なるほど、そういうわけね」
「だったら私も負けるわけにはいかないわ。文化祭で最高にかわいい私を見せて、海斗を落としてみせる」
「楽しみにしてるよ」
そう言って、俺は再び焼きそば屋台に視線を移した。




