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11 文化祭は落とすチャンス 1/7

 六時間目、総合の時間。


 普段なら教卓には当然教師がいるはずだが、今日は違った。


「じゃあ、文化祭の出し物決めていこうと思うんだけど、何かいい案ありますか?」


 花恋が前に立って、みんなを導く役割を担っていた。


 (やっぱこう見ると華があるなぁ~……)


 最近はずっと俺の隣にいたから忘れそうになるが、花恋は誰もが振り返る絶世の美少女。


 授業中、教卓を見てもつまらないなとか早く授業終わらないかなとかしか考えない俺でも、花恋が前に立つだけでずっと前を見ていたくなる。


 それはみんなも同じなようで、花恋のことをぼうっと眺めていた。


 美しいものには皆屈するのだろう。


 その雰囲気を感じとった花恋は、俺たちの方を向いて困った顔を浮かべた。


「もう。ちょっとみんなぼーっとしすぎっ」


 するとみんなは一斉に花恋に射抜かれる。


「「「きゅーん!」」」


 そしてみんな口々に、


「花咲さんが可愛すぎるから悪い」


「花咲さんが先生ならずっと教卓見ていられるのに」


「馬鹿、そしたらお前花咲さんしか見ないだろ」


など話し出す。


 そして一通り花恋に対する褒めちぎりが終わったところで、ひとり、またひとりと文化祭の案を出していった。


「やっぱ文化祭と言ったらフランクフルトだろ!」


「いやいや、お化け屋敷じゃね?」


「縁日とかも楽しそう!」


 各々がやりたい催しを言う中、俺はひとりで行く末を見守っていた。


 (まあ何になっても、俺はこういうの積極的に参加できないからなぁ……)


 そもそも普段から俺はこういう案出しに入るのが苦手だった。


 (それに俺が入ったところで……)


 つい、俺は中学時代を思い出してしまう。


『海野ちょっと怖いよな』


『わかるわかる。壁があるっていうか閉ざしてるっていうか』


『ウチらのことなんて眼中にないって感じだよね〜。群れるのとか嫌いそ〜』


 (……嫌なこと思い出しちまった)


 もともとしゃべるタイプじゃないってのはあったけど、中学時代は俺の根暗な雰囲気や目つきの悪さで嫌厭されることが多かった。


 ぼっちで友達も少なかった俺は失うものも特になかったから、別にそれでもいいと思っていた。


 しかし、そんなある日の放課後。俺は教室でひとりで泣く花恋を見つけたのだ。


 (そんで、ひょんなことから花恋と同じ高校に入学して、嘘でもカレカノになってんだからびっくりだよ)


 俺は教卓の上で頑張ってみんなをまとめる花恋を見る。頑張ってるな、なんてつい彼氏面してしまう。


 そんな花恋は、ただいまチョークを片手に何やら悩んでいた。


「う〜ん……たくさん案は出たはいいんだけど、これだとどれに決めたらいいか悩んじゃうね」


 花恋はみんなの方を向いて「多数決にする?」と提案する。


 すると生徒のうちのひとり、やんちゃ君が突然俺の方を向いてこんな提案をしてくる。


「そうだ、噂の彼氏さんに決めてもらおうぜ」


 鶴の一声とはまさにこのこと。教室の全員が一斉に俺の方へ振り向いた。


「え!?」


 俺は自分でも出したことのないような声が出てしまう。


 やんちゃ君には悪意がなさそうに見える。むしろ、花恋の彼氏なんだから、実は無茶ぶりにも余裕で応じられるんじゃね? のような期待すら混じっているように見えた。


 (いやいやいやいや。無茶ぶりも無茶ぶりだろ。だいたい、俺に文化祭の出し物決めろなんて大役任せていいはずないって)


 するとやんちゃ君の友達のひとりが楽しそうにちゃちゃを入れ始める。


「おーい! 海野! 美彼女が困ってるぞ!」


 ひとりが言い始めるとさらにガヤは増える。


「助けてやれよ〜!」


「ほらー、海野。惚れ直させるチャンスだぞー」


「頑張れ、海野!」


 しまった。完全に想定外だ。


 視線が一気に俺へ集中する。


 (苦手なんだよ……こういうの)


 公の場で発表とかただでさえ嫌なのに、アドリブときた。


 (……それに俺が発言することによって、しらけたり、場が盛り下がったらどうしよう)


 本当なら、今すぐにこの場から去りたい。


 (でも、今の俺は花恋の彼氏なんだ。頑張るアイツに泥を塗るわけにはいかねえ)


 俺は何とか頭から文化祭の知識を振り絞って、それっぽいことを言ってみることにした。


「や、焼きそばとか……?」


 俺は淀みながらも提案してみた。


 心臓はきゅうきゅうと締め付けられている。


 (どうしよう。ミスったか?)


 おっかなびっくりみんなの反応を伺った。誰も何も言わない。実際数秒、体感永遠の空白の時間。


 そんな中一番最初に横槍を入れたやんちゃ君が口を切る。


「……めっちゃ良くね? 焼きそば」


 すると他のクラスメイトもまばらに肯定意見が上がる。


「焼きそばとかすごく文化祭っぽい」


「俺、めっちゃ焼きそば好きなんだよな〜」


「私買い出しやりたーい!」


 途端教室に一体感が生まれた。


 そして花恋が黒板に『焼きそば』と書いて、チョークでにじゅうまるをする。


「じゃあ焼きそばでいいかな? 他になにか案ある?」


 クラスメイトたちは「ないない! 焼きそばで決定!」「焼きそばにしよ!」などの肯定的な意見で溢れていた。


「じゃあ決定だね! てことで、拍手〜!」


 教室中が暖かな拍手に包まれた。花恋は俺の方を向いて口パクで「ありがとう」と言っている。

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