復讐者の過去
王都での戦闘は、さくらたちの勝利で幕を閉じた。
三体の魔核獣はすべて討伐されたものの、黒いローブの男を取り逃がした事実は騎士団に大きな衝撃を与えていた。
騎士団本部では緊急会議が開かれた。
ガレスは机の上に広げられた古い資料を見つめながら口を開いた。
「奴の正体が分かった。」
部屋の空気が張り詰める。
「名はネロ・ヴァイス。」
「ネロ・ヴァイス……。」
リーファルは驚きを隠せなかった。
「十数年前まで王国魔導研究所に所属していた天才魔導士です。特に獣魔使役魔法においては、王国でも並ぶ者はいないと言われていました。」
ガレスは静かにうなずく。
「本来、獣魔使役魔法は魔物を鎮め、人々を守るための魔法だった。だが、ネロはその力を復讐のために使った。」
さくらは資料へ目を向ける。
そこには若き日のネロと、幼い少年が並んで笑う写真があった。
「この子は……?」
「ネロの弟、ルーク・ヴァイスだ。」
ガレスは重々しく語り始める。
「十数年前、先代国王の命令で王国史上最大規模の魔物討伐が行われた。しかし戦いは予想以上に激しく、避難が間に合わなかった村が魔物の襲撃を受けた。」
「その村に、ルークもいたんですね……。」
ガレスは静かに目を閉じた。
「ああ。ネロが帰った時には、弟はすでに命を落としていた。」
部屋に沈黙が流れる。
「ネロは王国へ何度も責任を問うた。だが、王国は討伐成功を優先し、事件を『避けられない犠牲』として処理した。」
さくらは拳を強く握る。
「そんなことって……。」
「やがてネロは王国を見限った。」
ガレスの声がさらに低くなる。
「獣魔使役魔法で魔物を操り、先代国王を襲撃させ、自ら復讐を果たしたのだ。」
リーファルが小さく息をのむ。
「その罪で指名手配され、姿を消した……。」
ガレスは魔核石を見つめる。
「そして今、秘密結社『黒影』を率い、魔核石で魔物を強化して王国を揺るがしている。」
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その頃――
王都から遠く離れた廃城。
玉座に腰掛けるネロ・ヴァイスは、ゆっくりと仮面を外した。
その表情に怒りはない。
あるのは、消えることのない深い悲しみだけだった。
「ルーク……。」
幼い弟・ルークの笑顔が脳裏によみがえる。
「守ると約束したのに……守れなかった。」
ネロは静かに目を開く。
「王国はあの日、弟だけじゃない。多くの命を見捨てた。」
彼は立ち上がり、部下たちを見渡した。
「計画を第二段階へ移す。」
黒影の団員たちは一斉に頭を下げる。
「魔核石の製造を進めろ。そして……始原の炎を持つ神山さくらを必ず確保しろ。」
「承知しました。」
ネロは窓の外に広がる夜空を見つめ、小さくつぶやいた。
「この国の罪は、この国自身に償わせる。」
その決意は、もう誰にも止めることはできなかった。




