初めての任務
黒影の襲撃から三日。
王都では警備が強化され、騎士団は黒影の行方を追っていた。しかし、有力な手がかりは何一つ見つかっていなかった。
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その朝、さくらは騎士団長ガレスに呼び出される。
「神山さくら。お前に正式な任務を与える。」
机の上には一枚の地図が広げられていた。
「王都の北西にあるグラン森林で、冒険者の失踪事件が相次いでいる。」
「魔物の仕業ですか?」
「それが分からん。調査に向かった部隊も戻ってきていない。」
ガレスは真剣な表情で続けた。
「今回は討伐ではなく、原因究明が目的だ。リーファルと騎士三名が同行する。」
「……分かりました。」
さくらは迷わず頷いた。
異世界に来てから戦いは経験した。
だが、自ら任務として赴くのはこれが初めてだった。
翌日、一行はグラン森林へ足を踏み入れる。
昼間だというのに森の中は薄暗く、不気味な静けさが漂っていた。
「鳥の声もしない……。」
さくらが呟く。
リーファルは地面にしゃがみ込み、折れた枝や足跡を調べ始めた。
「戦闘の跡だ。」
少し進むと、木々がなぎ倒された広場に出た。
そこには折れた剣や砕けた盾が散乱している。
「冒険者たちの装備……。」
その時だった。
ガサッ……
茂みが大きく揺れる。
騎士たちが一斉に武器を構えた。
現れたのは、全身が黒い霧に包まれた巨大な熊だった。
「ブラックベア!」
通常より二回りは大きく、その両目は赤黒く濁っている。
「様子がおかしい……!」
ブラックベアは咆哮を上げると、一直線に突進してきた。
騎士が盾で受け止める。
しかし、その一撃だけで盾は粉々に砕け散った。
「なんて力だ!」
「下がって!」
さくらは前へ飛び出す。
炎をまとった拳でブラックベアの横腹を殴りつける。
ドンッ!!
巨体は吹き飛ぶが、すぐに立ち上がった。
「効いてる……でも倒れない!」
その時、リーファルが叫ぶ。
「胸を見ろ!」
さくらが目を凝らすと、ブラックベアの胸には黒い結晶――魔核石が埋め込まれていた。
「また魔核石……!」
普通の魔物ではない。
誰かが意図的に強化した魔物だった。
ブラックベアは再び突進してくる。
さくらは炎を両手に集め、小さく圧縮する。
「これで……終わり!」
放たれた炎は一本の槍となり、一直線にブラックベアの胸を貫いた。
パリンッ!
魔核石が砕ける。
同時にブラックベアの黒い霧は消え、その巨体は静かに倒れた。
辺りに静寂が戻る。
「魔核石を壊したら、魔物も止まった……。」
リーファルは砕けた結晶を拾い上げる。
「やはり間違いない。魔核石が魔物を異常な状態にしている。」
その直後、森の奥から一本の黒い矢が飛んできた。
ヒュンッ!
矢はリーファルの足元に突き刺さる。
矢には一枚の紙が結び付けられていた。
ガレスが紙を開くと、そこには血のように赤い文字でこう書かれていた。
『始原の炎は、いずれ我らが手に渡る。』
さくらはその言葉を見つめ、静かに拳を握った。
敵は、自分たちの行動を見ている。
そして、黒影との本当の戦いが、今まさに始まろうとしていた。




