黒衣の使者
西門での戦いから一夜明けた。
王都には平穏が戻ったように見えたが、城内の空気は重かった。
会議室では、ガレスやリーファルをはじめ、王国の幹部たちが円卓を囲んでいる。
机の中央には、オーガロードから回収された魔核石が置かれていた。
「調査の結果はどうだ。」
ガレスが口を開く。
魔法研究員は首を横に振った。
「解析不能です。これほど濃い魔力を持つ魔核石は記録にありません。」
「製造者も不明か……。」
その時、一人の兵士が慌てて部屋へ飛び込んできた。
「報告します! 王都南部の見張り塔が何者かに襲撃されました!」
「被害は?」
「衛兵数名が負傷。しかし、犯人は一人だけだったとのことです。」
「一人だと?」
ガレスとリーファルは顔を見合わせる。
たった一人で見張り塔を襲撃するなど、並の実力では不可能だった。
ガレスやリーファルが会議をしている頃、さくらは王都の市場を歩いていた。
初めて見る異世界の食べ物や道具に目を奪われながらも、どこか胸騒ぎを感じていた。
「……誰かに見られてる?」
足を止める。
周囲には買い物客しかいない。
気のせいだと思い歩き出した、その瞬間――
「その炎……やはり君だったか。」
聞き覚えのない声。
振り返ると、黒いローブをまとった男が路地裏に立っていた。
顔は仮面で隠され、その姿からは不気味な威圧感が漂っている。
「あなたは……。」
男は静かに笑った。
「神山さくら。始原の炎を宿す者。」
その言葉に、さくらの表情が固まる。
「どうして私の名前を……。」
「知っているさ。その炎を持つ者を、我々は長年探し続けてきた。」
男はゆっくりと剣を抜く。
黒い刀身からは禍々しい魔力があふれ出していた。
「まずは、その力が本物か確かめよう。」
次の瞬間。
男は一瞬でさくらの目の前まで踏み込み、剣を振り下ろす。
キィン!!
さくらはとっさに炎の壁を作り、攻撃を受け止めた。
衝撃で石畳が砕ける。
「この人……強い!」
男は炎の壁を見つめ、静かに笑う。
「いい反応だ。だが、まだ未熟だな。」
そう言い残すと、男は黒い煙に包まれ、その場から姿を消した。
残されたのは、地面に突き刺さった一枚の黒い紋章だけ。
騒ぎを聞きつけ駆けつけたリーファルは紋章を見るなり表情を変えた。
「まさか……!」
「知っているの?」
リーファルはゆっくりとうなずく。
「これは『黒影』の紋章だ。数十年前に滅んだはずの秘密結社……。」
その言葉を聞いたさくらは、静かに拳を握る。
敵は魔物だけではない。
自分の力を知る者たちが、すでに動き始めていた。




