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炎の奇跡(タイトル仮)  作者: 瑠夏
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白銀の案内人

朝日が雪原を照らし始める。

さくらは深く息を吸い込み、アルディア山脈へ続く獣道へ足を踏み入れた。


「思ったより静か……。」

風の音以外、何も聞こえない。

魔物の気配すら感じなかった。

だが、その静けさがかえって不気味だった。

しばらく歩くと、村で見た目印の岩が現れた。

「ここを越えると、本格的に山の中……。」

さくらが一歩踏み出した、その時だった。


ザクッ。

雪を踏む音が、自分のものとは別に聞こえた。

「誰?」

振り返る。

誰もいない。

「気のせい……?」

再び歩き出す。

ザクッ。

また聞こえた。

今度は右から。

さくらは素早く紅蓮を抜く。

「姿を見せて!」


雪煙の向こうから、小さな影が現れた。

「え……?」

そこにいたのは、一匹の真っ白な狐だった。

体は普通の狐より少し大きい。

尾は二本あり、青い瞳がじっとさくらを見つめている。

「魔物……じゃない?」

狐は警戒する様子もなく、さくらの周りをゆっくり歩く。

「こんにちは。」

さくらがしゃがんで声をかけると、狐は鼻先を近づけて匂いを嗅いだ。


そして――

コツン。

額を軽くさくらの手に当てた。

「ふふっ。」

思わず笑みがこぼれる。

「君、人懐っこいね。」

その瞬間。

狐は山の奥へ走り出した。

しかし数歩進んでは立ち止まり、さくらを振り返る。

「……ついて来いってこと?」

狐は短く鳴いた。

「コン。」

まるで返事をするようだった。

「案内してくれるの?」

さくらが歩き始めると、狐も嬉しそうに雪の上を駆ける。


その姿は、まるでこの山を知り尽くしているようだった。

しばらく進むと、さくらは違和感に気付く。

「あれ?」

来る途中にはなかったはずの崖が、目の前に現れていた。

「村の人が言ってた……。」

『山そのものが生きている。』

『道が変わる。』

もし一人で来ていたら、迷っていたかもしれない。

だが狐は迷うことなく別の細い道へ入っていく。

「ありがとう。」

さくらは狐の後を追った。


昼過ぎ。

二人が谷間へ差しかかった時だった。

ビュオオオオッ!!

突然、猛烈な吹雪が襲う。

「きゃっ!」

視界が一瞬で真っ白になった。

「何も見えない!」

風が強すぎて立っていられない。

「狐さん!」

姿が見えない。


その時――。

コン!

足元から鳴き声が聞こえた。

見ると、狐が雪の中から顔を出している。

そして、口でさくらのマントを軽く引っ張った。

「こっち?」

狐の後について数歩進むと、大きな岩陰が現れる。

吹雪をしのげる天然の洞窟だった。

「助かったぁ……。」

さくらが座り込むと、狐も隣で丸くなる。

「ありがとう。」

頭を撫でると、狐は気持ちよさそうに目を細めた。


その時、さくらの視線が狐の首元で止まる。

「……これ。」

白い毛に隠れて、小さな銀色の首輪が見えた。

そこには古い文字が刻まれている。

『導き手』

「導き手……?」

誰が、この狐に首輪を付けたのだろう。


その疑問が浮かんだ瞬間、洞窟の奥から微かな光が漏れた。

「え?」

よく見ると、奥へ続く細い通路がある。

そして、その壁には誰かが彫ったような紋章が刻まれていた。

それは王家の紋章でも、黒影の紋章でもない。

さくらが一度も見たことのない、翼を広げた鳥を中心に円環が描かれた古代の紋章だった。

狐はその紋章の前で立ち止まり、静かにさくらを見上げる。

まるで――

「ここから先が、本当の入口だ。」

そう伝えているかのように。

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