雪原への道
王都を旅立ってから五日。
さくらは北へ続く街道を歩いていた。
道の両側には緑豊かな森が広がっていた景色も、北へ進むにつれて少しずつ姿を変えていく。
木々には雪が積もり、冷たい風が頬をかすめた。
「寒い……。」
マントをぎゅっと握りしめながら、小さく身震いする。
「もうすぐアルディア山脈か。」
手紙を取り出し、もう一度読み返す。
『古代遺跡が目覚めた。』
『世界の真実が眠る。』
差出人の名前は、やはり書かれていない。
「一体、誰なんだろう……。」
その人物は、黒影の紋章を知っていた。
しかも、自分のことまで知っているような書き方だった。
考えれば考えるほど謎は深まる。
「まずは本人を見つけないとね。」
そう呟き、再び歩き始めた。
夕暮れ頃。
さくらは山麓にある小さな村へたどり着いた。
雪に囲まれたその村は、石造りの家々が並び、煙突から白い煙が立ち上っている。
「あったかそう……。」
宿屋へ入ると、暖炉の火がぱちぱちと音を立てていた。
「いらっしゃい。」
年配の女性が笑顔で迎える。
「旅の人かい?」
「はい。アルディア山脈へ向かう途中なんです。」
その瞬間、宿屋の中が静まり返った。
食事をしていた人たちまで、手を止めてさくらを見る。
「……え?」
女性は困ったように笑った。
「あんた、本気で行くつもりなのかい?」
「はい。何かあるんですか?」
老人の一人が重い口を開く。
「山へ入った者は……帰ってこん。」
「帰ってこない?」
「昔からじゃ。魔物だけじゃない。山そのものが、生きておるようだと。」
別の男性も頷く。
「道が変わる。吹雪が急に起きる。昨日まであった崖が消えていたこともある。」
さくらは眉をひそめた。
「そんなこと……。」
「信じるかどうかは自由だ。」
老人は静かに言う。
「だが、アルディア山脈には近づくな。」
「命が惜しいならな。」
その夜。
宿の窓から山を見上げる。
月明かりに照らされたアルディア山脈は、どこか神秘的でありながら、不気味な雰囲気をまとっていた。
「本当に、あそこに世界の真実が……。」
その時だった。
チリン――。
どこからか鈴の音が聞こえた。
「?」
さくらは窓を開け、外を見る。
しかし、誰もいない。
雪が静かに降り続けるだけだった。
「気のせい……かな。」
窓を閉めようとした、その瞬間。
山の頂で、小さな光が一瞬だけ輝いた。
まるで誰かが、こちらを見ているかのように。
さくらは思わず息をのむ。
「……待ってる。」
なぜか、そんな気がした。
翌朝。
まだ薄暗い中、さくらは宿を後にする。
「気を付けるんだよ!」
宿の女将が見送る。
「はい!」
さくらは笑顔で手を振り返した。
雪を踏みしめながら、一歩ずつアルディア山脈へ近づいていく。
その先で待ち受ける運命を、まだ知らないまま――。




