見えざる導き手
雪が降り積もる、とある山の頂。
誰も足を踏み入れたことのない古い神殿の屋上で、一人の人物が静かに空を見上げていた。
白い外套が風に揺れる。
その素顔は深く被ったフードに隠れ、年齢も性別も分からない。
ただ、その黄金色の瞳だけが、はるか遠くのファンドルト王国を見つめていた。
「……終わったか。」
穏やかな声が静寂に溶ける。
その足元には、一枚の紙が落ちていた。
つい先日、さくらへ届けられた手紙と同じ筆跡。
「少し急がせてしまったかな。」
そう呟くと、小さく笑う。
「でも、あの子ならきっと来る。」
神殿の奥には、巨大な石碑が並んでいた。
そこには、この世界の歴史とは異なる文字が刻まれている。
その人物は石碑へ静かに手を添えた。
すると、青白い光が浮かび上がる。
そこに映し出されたのは――神山さくら。
初めて異世界へ現れた日。
始原の炎に選ばれた瞬間。
ネロ、カイン、アベルとの出会い。
まるで、そのすべてを最初から見守っていたかのように、映像は次々と流れていく。
「予想より早かった。始原の炎も完全に目覚めた。……ネロも、よく役目を果たしてくれた。」
その口ぶりは、まるでネロさえ計画の一部だったかのようだった。
やがて映像は止まり、一枚の古い地図が浮かび上がる。
その中央には、ファンドルト王国。
そして、その周囲には六つの印が描かれていた。
アルディア山脈。
深海都市。
砂漠の神殿。
天空樹。
竜の眠る谷。
そして、最後の一つだけは黒く塗り潰されていた。
「まだ五つ。最後には、あそこへ辿り着いてもらわないと困る。」
その人物は静かに地図を見つめる。
「世界を救うためには。始原の炎だけでは足りない。」
意味深な言葉だけを残し、視線を夜空へ向けた。
その頃、王都では。
旅支度を終えたさくらが、アルディア山脈への道を歩き始めていた。
その姿を遠くから見守るように、一羽の白い鳥が空を舞う。
神殿の人物は、その鳥を通してさくらを見つめ、静かに微笑んだ。
「少しずつでいい。真実へ近づいておいで。神山さくら。君をこの世界へ招いた理由を知る、その日まで。」
その言葉は誰にも届かない。
世界の裏側で、一人の存在が静かに次の一手を打っていた。




