忘れられた神殿
吹雪はまだ洞窟の外で唸りを上げていた。
だが、洞窟の奥は不思議なほど暖かい。
「……行ってみよう。」
さくらが紋章へ手を伸ばす。
すると、首元で揺れていた始原の炎の紋章が淡く輝いた。
同時に、洞窟の壁に刻まれた古代の紋章も光を放つ。
ゴゴゴゴゴ……
低い音とともに岩壁が左右へ開き、隠されていた通路が姿を現した。
「隠し通路……。」
さくらは驚きながらも、一歩ずつ奥へ進む。
白い狐も迷うことなく先を歩いていく。
通路の壁には、数え切れないほどの壁画が描かれていた。
人間。
エルフ。
獣人。
そして、翼を持つ見知らぬ種族。
「この人たちは……。」
さらに奥へ進むと、一枚の壁画の前でさくらは足を止める。
そこには、一人の人物が描かれていた。
片手に黄金の炎を宿し、もう一方の手を天へ掲げている。
その周囲には六つの光が浮かんでいた。
「始原の炎……?」
さくらは思わず呟く。
壁画の人物が持つ炎は、自分が使う始原の炎とよく似ていた。
「でも……六つの光って何だろう。」
その時だった。
コン。
白い狐が壁の一角を前足で叩く。
「そこ?」
さくらが近づくと、小さな石版がはめ込まれている。
石版には古代文字が刻まれていた。
不思議なことに、その文字は自然と頭の中へ意味が流れ込んでくる。
『炎だけでは世界は救えない。』
『六つの力が再び集う時、閉ざされた空は開かれる。』
『導き手は、その者を最初の神殿へ導け。』
「六つの力……。」
さくらは、以前ネロが話していたことを思い出す。
ゼノスの内部で見た地図。
そこにも六つの印が描かれていた。
「あれと関係があるの……?」
さらに奥へ進むと、通路は突然開けた。
巨大な地下空間だった。
中央には、長い年月を感じさせる神殿が静かに佇んでいる。
天井には大きな穴が開き、そこから差し込む光が神殿だけを照らしていた。
「こんな場所が……。」
さくらは息を呑む。
王国の歴史書にも載っていないはずの神殿。
ここが、手紙に書かれていた古代遺跡なのだろう。
白い狐は神殿の階段を登り、大きな扉の前で座った。
その青い瞳が、さくらをまっすぐ見つめる。
「ここに入れってこと?」
狐は静かに頷くように目を細めた。
さくらはゆっくりと扉へ手を伸ばす。
その瞬間――
「よく来たね。」
突然、穏やかな声が神殿の中から響いた。
さくらは反射的に紅蓮を抜く。
「誰!?」
返事はない。
だが、その声には敵意がまったく感じられなかった。
「君を待っていた。始原の炎に選ばれた――神山さくら。」
さくらの鼓動が速くなる。
この声は初めて聞くはずなのに、どこか懐かしさを感じた。
そして、神殿の奥では一人の人物の影が、静かに立ち上がっていた。
その姿は逆光に包まれ、まだ顔も名前も分からない。
しかし、その人物こそ――
さくらをこの世界へ転生させ、長い間その旅路を見守り続けてきた存在だった。




