選択の炎
ゼノスの心臓部が悲鳴を上げるように揺れていた。
黒い結晶が次々とひび割れ、空間そのものが歪み始める。
ドクン!! ドクン!!
「まずい……!」
ネロの声が遠くから響く。
「魔核石が暴走している!」
さくらは目の前で崩れ落ちるアベルを見下ろした。
「どうして……。」
アベルはかすかに笑う。
「こうなるのも……想定内だ。」
「何を……!」
「私はもう止まれない。」
その声は、怒りではなく諦めに近かった。
「支配でも救済でもない。ただ……証明したかっただけだ。この世界が、誰かに導かれなければ壊れることを。」
さくらは強く拳を握る。
「違う。」
「あなたは間違ってる!」
アベルはゆっくりと目を閉じる。
「なら……止めてみろ。」
その瞬間、ゼノス全体が大きく軋んだ。
空間の奥で、深紅の魔核石がひび割れ始める。
「もう持たない……!」
ネロの声が焦りを帯びる。
「さくら! 魔核石へ始原の炎を流し込め!」
「でも!」
「今しかない!」
その時、奥の通路から足音が響く。
「さくら!」
カインだった。
肩からは血が流れている。
だが、その瞳はまだ死んでいない。
「倒してきました。」
「……!」
「最後の守護兵は、倒しました。」
さくらは息をのむ。
「カイン……!」
「急いでください。」
カインは剣を杖のようにして立つ。
「ここはもう限界です。」
ゼノスの崩壊は加速していた。
壁が崩れ、空間に亀裂が走る。
「ネロ様も……もう時間がありません。」
遠くで、爆発音が響く。
ネロとアベルの戦いも限界に近い。
アベルは床に倒れたまま、かすれた声で言う。
「いいか……さくら。」
「……。」
「お前が選べ。この世界を……壊すか。それとも……背負うか。」
さくらは紅蓮を握り直した。
金色の炎が静かに揺れる。
「私は……。」
一瞬だけ目を閉じる。
思い出すのは、戦ってきた日々。
ネロの背中。
カインの言葉。
ガレスの教え。
リーファルの支え。
そして、怯えながらも前に進んできた自分。
目を開く。
その瞳には迷いはなかった。
「私は、この世界を壊さない。誰かに決められる未来じゃなくて。みんなで選ぶ未来にする!」
紅蓮が、黄金の炎に包まれる。
「始原の炎――完全解放。」
さくらは魔核石へ向かって駆け出した。
その背後で、アベルが小さく笑う。
「……そうか。」
「それがお前の答えか。」
崩れゆく世界の中心で、最後の選択の炎が放たれようとしていた。




