始原の炎
三人のアベルが、ゆっくりとさくらを取り囲む。
「どれが本物……?」
さくらは紅蓮を構えたまま、三人の動きを見つめる。
どのアベルからも、まったく同じ魔力が感じられる。
見分けがつかない。
「無駄だ。」
三人が同時に口を開く。
「ゼノスと融合した今、私は心臓部そのもの。」
「本物を探そうとするほど、お前は時間を失う。」
ゼノスが大きく揺れる。
ドクン!!
王都へ放たれる魔力がさらに強くなっていく。
「時間が……ない。」
さくらは覚悟を決め、駆け出した。
「紅蓮・炎翔斬!」
炎の斬撃が一人のアベルを貫く。
しかし、その体は霧のように消え、すぐに再生した。
「そんな……!」
「言っただろう。」
「私はゼノスそのものだ。」
今度は三人が同時に魔法を放つ。
黒い雷が四方八方から降り注ぐ。
「くっ!」
さくらは炎で防ぐが、防ぎきれず吹き飛ばされた。
壁に激突し、紅蓮が手から離れそうになる。
「まだ終わらない……。」
震える手で剣を握り直す。
その時、胸の奥から温かな光があふれ始めた。
炎が、これまでにないほど穏やかな金色へと変わる。
「この炎は……?」
どこからともなく、優しい声が聞こえた。
『恐れる必要はありません。』
「誰……?」
『その炎は、怒りのための力ではありません。』
『守りたいと願う者の心に応える炎です。』
さくらの周りに、淡い金色の炎が舞い始める。
『だから、信じなさい。』
『あなた自身を。』
その瞬間、紅蓮がまばゆい光を放った。
黒かった刀身は、金色の紋様が浮かび上がり、新たな姿へと変わる。
ネロが禁書で語っていた、始原の炎の真の姿だった。
「これが……本当の力。」
三人のアベルが同時に襲いかかる。
「終わりだ!」
しかし、さくらは静かに目を閉じた。
「違う。」
炎が一気にあふれ出す。
「私は、一人じゃない。」
ネロの言葉。
カインの覚悟。
ガレスやリーファル、王都で出会った人々。
みんなの想いが、自分を支えてくれている。
「だから負けない!」
金色の炎が心臓部全体を包み込む。
「始原解放――『焔天』!!」
轟音とともに放たれた炎は、三人のアベルを一瞬で飲み込んだ。
「なっ……!」
分身が次々と消えていく。
最後に残った一人が、苦しそうに膝をついた。
「始原の炎が……ここまで……。」
さくらは紅蓮を構え直す。
目の前にいるのは、最後の一人。
「アベル。あなたは間違ってる。でも……あなたが世界を変えたいと思った気持ちは、本物だったんだよね。」
アベルは苦しそうに笑った。
「……甘いな。」
「そうかもしれない。」
さくらはゆっくりと歩み寄る。
「それでも私は、人を信じる。」
その言葉を聞いたアベルは、ほんの一瞬だけ目を閉じた。
「ネロも……昔、同じことを言っていた。」
その時、心臓部全体が激しく揺れ始める。
ドクン!! ドクン!!
ゼノスが暴走を始めた。
「しまった!」
ネロの声が遠くから響く。
「魔核石が限界だ!」
アベルは崩れ落ちながら、静かに呟く。
「……もう、止まらない。」
ゼノスの崩壊まで、残された時間はわずかだった。




