最後の仲間
黒い光が消えた時、そこに立っていたのは、もはや人間とは呼べない姿のアベルだった。
全身を黒い結晶が覆い、右腕は巨大な結晶の刃へと変わっている。
しかし、その瞳だけは昔と変わらないままだった。
「これが……私の理想だ。」
アベルの声がゼノスの心臓部に響く。
「世界を支配する王の姿。」
ネロは剣を構えながら、小さく首を振る。
「違う。」
「……。」
「その姿は王ではない。」
「力に飲み込まれた、一人の人間だ。」
アベルの表情が歪む。
「力に飲み込まれただと?」
「そうだ。」
ネロは一歩前へ出た。
「お前は昔、誰よりも人の命を大切にしていた。村で傷ついた子どもを助けるため、自分の食料まで分け与えたこともあった。貧しい獣人の集落へ薬を届けるため、何日も眠らずに走り続けたこともあった。そんなお前だったから、私は黒影を一緒に作った。」
さくらは驚いた。
「アベルが……。」
カインも静かに頷く。
「あの頃のアベルは、誰よりも優しい人でした。」
アベルは拳を震わせる。
「黙れ……。」
「忘れたのか?」
ネロは続ける。
「黒影を作った夜、お前は言った。」
『誰も泣かない世界を作ろう。』
「違う!」
アベルが怒鳴る。
「だから私は変わったんだ!優しさだけじゃ誰も救えなかった!国王は笑っていた!民は苦しみ続けた!俺たちは何も変えられなかった!」
怒りと悲しみが入り混じった叫びだった。
ネロはその言葉を静かに受け止める。
「……ああ。私は弱かった。お前を止められなかった。黒影の仲間としても、友としても。」
ネロは剣を下ろした。
「だから、今度こそ終わらせる。お前を殺すためじゃない。お前を止めるために。」
アベルは苦しそうに笑った。
「今さら遅い。私はもう戻れない。」
その瞬間、巨大な結晶の刃を振り下ろす。
「ネロ様!」
カインが飛び出し、黒い長剣で受け止める。
ガァァン!!
凄まじい衝撃が走る。
床が砕け、カインは数メートル吹き飛ばされた。
「カイン!」
さくらが駆け寄る。
「大丈夫?」
「……まだ戦えます。」
肩の傷は開き、血が流れている。
それでもカインは立ち上がった。
ネロはそんなカインを見て、静かに笑う。
「昔から無茶ばかりだ。」
「ネロ様が教えたんですよ。」
「仲間は命を懸けて守るものだと。」
その言葉に、ネロは苦笑した。
「そうだったな。」
そして、さくらの方を向く。
「さくら。」
「はい。」
「これから先は、お前が中心になれ。」
「え?」
「私はアベルを引きつける。カインがお前を心臓部まで導く。そこで始原の炎を魔核石へ流し込め。それしかゼノスを止める方法はない。」
さくらは頷いた。
「分かった。」
ネロは剣を構える。
その表情には迷いがなかった。
「アベル。最後にもう一度だけ言う。お前は今でも、私の仲間だ。」
アベルの瞳がわずかに揺れる。
しかし次の瞬間、その迷いを振り払うように咆哮を上げた。
「ならば、仲間だったお前の手で……私を超えてみせろ!」
心臓部を揺るがす衝撃とともに、ネロはアベルへ駆け出した。
かつて同じ夢を見た二人の、最後の戦いが始まる。




