王の資格
重厚な扉の向こうへ足を踏み入れた瞬間、三人は息をのんだ。
そこは広大な円形の空間だった。
天井は見えないほど高く、無数の黒い結晶が柱のように立ち並んでいる。
その中央には、巨大な深紅の魔核石が静かに脈打っていた。
ドクン……。
ドクン……。
「これが……ゼノスの心臓部。」
さくらが呟く。
「間違いない。」
ネロは魔核石を見据えた。
「あれがゼノスの動力源だ。」
その時、魔核石の前にアベルが姿を現した。
「ようこそ。」
その表情はどこか穏やかだった。
「ここまで来たことは褒めてやる。」
「アベル。」
ネロが一歩前へ出る。
「もう終わりにしよう。」
「終わり?」
アベルは小さく笑う。
「これから始まるんだ。私の世界が。」
アベルは魔核石へ手を置く。
すると、空中に無数の光景が映し出された。
戦争。
飢え。
差別。
奴隷として扱われる人々。
そして、歴代の国王たちが民や始原の炎の継承者を駒のように利用する姿。
さくらは目を見開いた。
「これは……。」
「王国の歴史だ。」
アベルは静かに言う。
「歴史は何度も繰り返された。強者が支配し、弱者が犠牲になる。それを止められた者は、一人もいない。」
映像が消える。
アベルはさくらを見た。
「お前ならどうする?もし王になったら?すべての人を平等に救えるのか?」
さくらは答えに詰まる。
アベルはさらに続けた。
「一人を救えば、別の誰かが犠牲になる。誰も傷つけない世界など存在しない。だから私は決めたんだ。私が王になる。支配する側になり、この世界から争いを消す。」
「違う。」
静かな声が響いた。
ネロだった。
「王とは、人を支配する者ではない。人々を導く者だ。」
アベルは鼻で笑う。
「導くだと?歴代の王はどうだった?結局は支配しただけだ。」
ネロは静かに頷く。
「……その通りだ。」
「だからこそ、同じことを繰り返してはいけない。」
「お前は王を憎みながら、王と同じ道を歩いている。」
その言葉に、アベルの笑みが消えた。
「黙れ。」
「違うか?」
「黙れ!」
アベルが怒声を上げる。
巨大な魔力が心臓部を包み込み、黒い結晶が次々と浮かび上がった。
「私と奴らを一緒にするな!私は世界を救う!そのためなら!誰かを犠牲にしても構わない!」
「それは間違っている!」
今度はさくらが叫んだ。
「犠牲の上にできた世界は、誰も幸せになれない!」
「綺麗事だ。」
「そうかもしれない。」
さくらは紅蓮を握り締める。
「でも、私は諦めない!」
「誰かを救うために、誰かを切り捨てる世界なんて認めない!」
その瞳には迷いがなかった。
ネロはその姿を見て、小さく微笑む。
「……やはり。始原の炎がお前を選んだ理由が分かった。」
アベルはゆっくりと目を閉じる。
「ならば。お前たちの理想が正しいことを力で証明してみろ。」
その瞬間、アベルの魔力が魔核石へ流れ込む。
ドクン!!
ゼノス全体が激しく震え始める。
アベルの体は黒い結晶に包まれ、その姿が変化していく。
「アベル……!」
ネロは息をのむ。
「自分自身を魔核石と融合させる気か!」
「これが私の覚悟だ。」
アベルの声が心臓部に響き渡る。
「私が、この世界そのものになる。」
黒い光が爆発する。
その中心から現れたのは、人の姿を残しながらも全身を黒い結晶に覆われた異形の存在だった。
最終決戦が、ついに始まる。




