ゼノスの心臓部
眩い光が消えた瞬間――。
さくらたちは固い床へ降り立った。
「ここは……。」
周囲は薄暗く、黒い結晶が無数に壁や天井を覆っている。
まるで巨大な生き物の体内だった。
奥からは、規則正しい鼓動のような音が響いてくる。
ドクン……。
ドクン……。
「これがゼノスの内部……。」
さくらは思わず息をのんだ。
ネロは周囲を見回し、表情を曇らせる。
「私の設計とは違う。」
「違う?」
「ああ。通路の構造も魔力の流れも書き換えられている。」
カインは剣を構えた。
「つまり、アベルが内部を改造したということですね。」
「その通りだ。」
ネロは静かに頷く。
「ここから先は、私にも何が待っているか分からない。」
三人は慎重に奥へ進む。
歩くたびに床の結晶が赤黒く脈打ち、不気味な音を響かせる。
「気味が悪い……。」
さくらが小さく呟いた、その時。
カチッ。
どこかで何かが作動する音がした。
「止まれ!」
ネロが叫ぶ。
次の瞬間、床一面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「しまった!」
黒い鎖が地面から飛び出し、三人へ襲いかかった。
カインは素早く剣で鎖を斬り払う。
さくらも炎で焼き払うが、鎖は次々と再生していく。
「斬っても再生する!」
「魔力で動いている!」
ネロは魔法陣を見つめた。
「核を壊せば止まる!」
「どこ!?」
「中央だ!」
さくらは炎をまとい、一気に駆け出す。
「紅蓮・炎牙!」
炎の一撃が魔法陣の中心を貫いた。
バキィン!!
魔法陣は砕け、黒い鎖も音を立てて崩れ落ちる。
「ふぅ……。」
だが、安心する暇はなかった。
通路の奥から拍手が響く。
「見事だ。」
三人は一斉に振り向く。
そこには一人の男が立っていた。
灰色のローブ。
黒い仮面。
アベルだった。
「アベル!」
ネロが剣を抜く。
しかしアベルは動じない。
「そう焦るな。」
「ここへ来ることも、最初の罠を突破することも予想済みだ。」
「何が目的だ。」
ネロが低く問いかける。
アベルはゆっくりと歩き始める。
「ネロ。お前は昔、こう言ったな。」
『力は人を守るために使うものだ。』
「私は今でもそう思っている。」
ネロは迷わず答えた。
「だが私は違う。」
アベルは立ち止まる。
「王を見て気付いた。」
「支配される者は、いつか必ず切り捨てられる。」
「……。」
「だったら、支配する側になればいい。」
「それが、お前の答えか。」
「そうだ。」
アベルは両手を広げる。
「人は自由を与えられるから争う。」
「ならば私が世界のすべてを管理すれば、争いは終わる。」
さくらは一歩前へ出た。
「そんなの平和じゃない!命令されるだけの世界なんて、誰も幸せになれない!」
アベルは静かに笑う。
「そう思うのは、お前がまだ人間を信じているからだ。」
「……。」
「私は違う。」
その声には、長年積み重ねてきた失望が滲んでいた。
「人は必ず裏切る。だから、誰かが支配しなければならない。」
ネロは剣を構え直す。
「だから私は、お前を止める。」
カインも隣に並ぶ。
「あなたの理想には従えません。」
さくらは紅蓮を抜き放った。
「私は、自分たちで未来を選べる世界を守る!」
アベルは満足そうに三人を見渡した。
「いい答えだ。」
「ならば証明してみせろ。」
その瞬間、ゼノス全体が大きく揺れた。
ドクン――!!
鼓動が一段と大きく鳴り響く。
アベルの背後で巨大な扉がゆっくりと開いていく。
「心臓部へ来い。」
「そこで、お前たちの信念ごと叩き潰してやる。」
そう言い残すと、アベルは扉の奥へ姿を消した。
三人は互いに視線を交わす。
決戦の舞台は、ゼノス最深部へと移ろうとしていた。




