託された炎
「私も行く。」
さくらは真っ直ぐネロとカインを見つめた。
「一人で犠牲になるなんて、絶対に認めない。」
「さくら……。」
ネロは静かに首を横に振る。
「これは私たちの問題だ。」
「違う。」
さくらは一歩前へ踏み出した。
「始原の炎は、この世界を守るための力なんでしょ?」
「……。」
「だったら、これは私の戦いでもある。」
その言葉に、ネロは何も返せなかった。
ゼノスは咆哮を上げながら王都へ向かって歩き始める。
「急がないと街が!」
ガレスは騎士たちへ命令を飛ばす。
「総員、時間を稼げ!」
「リーファルは住民の避難を!」
「了解!」
騎士団は次々とゼノスへ挑む。
しかし――
ガァァン!!
剣は結晶の装甲に弾かれ、ほとんど傷一つ付けられない。
「硬すぎる!」
「このままじゃ止められない!」
ネロは地面に魔法陣を描き始める。
「ゼノスの内部へ入る方法は一つ。」
「胸の魔核石が露出した瞬間に、転移魔法で飛び込む。」
「そんなことができるの?」
「一度だけなら。」
ネロは額に汗を浮かべながら答えた。
「だが、転移できるのは二人までだ。」
「二人……。」
カインは迷わず言った。
「私とネロ様で行きます。」
「駄目。」
さくらが即座に否定する。
「私も行く。」
「危険だ。」
「だからって、二人だけに任せられない!」
三人が言い合う中、ガレスが口を開いた。
「ならば私が――」
「駄目です。」
ネロが遮る。
「ゼノスの内部には強大な魔力が渦巻いている。普通の人間では数分も耐えられない。始原の炎を持つさくらと、高い魔力を持つ私たちだからこそ行ける。」
ガレスは悔しそうに拳を握る。
「……分かった。」
その頃。
丘の上ではアベルが退屈そうに戦いを眺めていた。
「終わりか?ネロ。結局、お前は誰も救えない。」
アベルは右手を振り上げる。
ゼノスの胸が赤黒く輝き始めた。
「まずい!」
ネロの表情が変わる。
「あれは魔力砲だ!」
胸の魔核石に膨大な魔力が集まっていく。
狙いは――王都。
「あんなものを撃たれたら……。」
リーファルが青ざめる。
街ごと消し飛ぶ。
「時間がない!」
ネロは転移魔法陣を完成させた。
「胸の魔核石が開いた瞬間に飛び込む!」
「分かった!」
さくらとカインが頷く。
三人は同時に駆け出した。
ゼノスも咆哮を上げる。
そして――
胸の装甲がゆっくりと開き始めた。
「今だ!」
ネロが魔法陣へ手をかざす。
眩い光が三人を包み込む。
次の瞬間。
さくら、ネロ、カインの姿は戦場から消えていた。
一方、丘の上。
その光景を見ていたアベルは、不敵な笑みを浮かべる。
「やはり、そう来るか。」
その表情には焦りがまったくない。
むしろ、三人がゼノスの内部へ入ることを最初から予想していたかのようだった。
「待っていたぞ。」
アベルは静かに呟く。
「この瞬間を。」
ゼノスの内部で、本当の罠が動き始めようとしていた。




