最終兵器
ゴオオオオオォォォッ!!
黒い雲を突き破るように、巨大な魔物が姿を現した。
その体は黒い結晶に覆われ、両腕には禍々しい刃のような結晶が伸びている。
胸には、人の頭ほどもある深紅の魔核石が埋め込まれていた。
その姿を見た瞬間、ネロの顔から血の気が引く。
「そんな……。」
「知っているのか?」
ガレスが問いかける。
ネロは苦しそうに頷いた。
「あれは……『ゼノス』。」
「ゼノス?」
「私が黒影を結成する前、王国の宮廷魔導士だった頃に考案した魔導兵器だ。」
さくらは驚きの表情を浮かべる。
「ネロが……?」
「違う!」
ネロは強く首を振った。
「完成させたわけじゃない。」
「あまりにも危険だった。命を犠牲にしなければ動かない兵器だったから、私は自ら設計を封印した。」
「だが……。」
カインがゼノスを見上げる。
「アベルは、それを完成させてしまった。」
アベルは満足そうに笑う。
「完成と言うにはまだ不完全だ。」
「だが、お前たち程度を滅ぼすには十分だろう。」
ゼノスがゆっくりと右腕を振り上げる。
次の瞬間――
ドォォォン!!
結晶の刃が地面を切り裂き、巨大な裂け目が走った。
「危ない!」
さくらは近くにいた騎士を突き飛ばす。
しかし、自分は逃げ切れず、爆風に巻き込まれた。
「きゃあっ!」
「さくら!」
カインが飛び込み、その体を抱えて転がる。
間一髪で直撃を免れた。
「大丈夫か。」
「う、うん……ありがとう。」
その様子を見たアベルは笑みを深める。
「敵を守るとは、らしくないな。」
カインは静かに剣を構えた。
「彼女は敵ではない。」
「……。」
「少なくとも、今この瞬間は。」
ネロはその言葉に目を細める。
そして、さくらへ向き直った。
「聞いてくれ。」
「え?」
「ゼノスには弱点が一つだけある。」
ネロは胸の魔核石を指差した。
「あの魔核石へ大量の魔力を一度に流し込めば、自壊する。」
「じゃあ、それを壊せば!」
「いや。」
ネロは首を振る。
「外から壊すことはできない。」
「なら、どうするの?」
「誰かが内部へ入り、直接魔核石へ魔力を流し込むしかない。」
その言葉に全員が沈黙した。
「そんなことをしたら……。」
リーファルが顔を曇らせる。
ネロは静かに答えた。
「内部に入った者は、おそらく生きて帰れない。」
重苦しい空気が流れる。
その時だった。
「私が行きます。」
静かな声が響く。
全員が振り返る。
カインだった。
「何を言っている!」
ネロが声を荒らげる。
「あなたは止めなければなりません。」
「駄目だ!」
「ネロ様。」
カインは穏やかに微笑んだ。
「あの日、あなたは私を救ってくれました。」
「……。」
「今度は、私があなたの未来を守ります。」
「そんな未来はいらない!」
ネロは思わずカインの胸ぐらをつかむ。
「私はもう、大切な人を失いたくない!」
それは、弟を失って以来、初めて見せたネロの弱さだった。
カインはその手にそっと自分の手を重ねる。
「だからこそです。」
「……。」
「あなたには、生きてください。」
その言葉に、さくらは胸が締めつけられた。
敵として戦ってきた二人。
しかし、その絆は誰よりも深かった。
その時――。
「その役目、私にもやらせて。」
さくらが前へ出た。
「私も行く。」
ネロとカインは同時にさくらを見た。
三人の視線が交わる。
世界の運命を左右する最後の作戦が、今、始まろうとしていた。




