三人の誓い
白霧の丘は、異様な静けさに包まれていた。
ネロとアベル。
かつて同じ志を抱いた二人が、静かに向かい合う。
アベルが口元を歪める。
「まさか、お前が王国の人間と手を組むとは思わなかった。」
「手を組んだ覚えはない。」
ネロは冷静に答える。
「今は利害が一致しているだけだ。」
「相変わらず真面目だな。」
アベルは小さく笑う。
「だから、お前は何も変えられなかった。」
カインが一歩前へ出る。
「アベル。」
「……。」
「もうやめろ。」
「やめる?」
アベルはカインを見て鼻で笑った。
「お前は昔から変わらない。」
「ネロの後ろをついて歩くだけの男だ。」
「……。」
「自分の意思はないのか?」
その言葉にも、カインは怒らなかった。
「ある。」
短く答える。
「私の意思で、ネロ様を支えると決めた。」
アベルはため息をつく。
「昔のお前なら、もう少し面白い男だった。」
さくらは三人の様子を見つめていた。
「昔、一体何があったの?」
ネロは目を閉じる。
「黒影を作った頃の話だ。」
「……。」
「私たちの目的は復讐ではなかった。」
「え?」
「王国が隠した真実を暴き、不当に苦しむ人々を救うこと。それが黒影の始まりだった。」
カインも静かに頷く。
「私たちは誰も傷つけたくありませんでした。でも…。」
ネロはアベルを見る。
「アベルだけは違った。」
アベルは笑みを浮かべたまま答える。
「真実を暴くだけでは世界は変わらない。恐怖で支配しなければ、人はまた同じ過ちを繰り返す。だから私は力を求めた。」
ネロは首を横に振る。
「だから袂を分かった。」
「そして、お前は私の研究を盗んだ。」
「借りただけだ。」
「違う。」
ネロの声が初めて強くなる。
「命を弄ぶために使われた時点で、それは私の研究ではない。」
アベルは肩をすくめる。
「まあいい。」
「今日は昔話をしに来たわけじゃない。」
彼が右手を掲げる。
すると、丘を埋め尽くしていた黒い結晶兵たちが一斉に動き出した。
「私の新しい軍勢だ。」
「人間でも魔物でもない。」
「痛みも恐怖も知らない、完全な兵士。」
ガレスが剣を構える。
「全軍、迎え撃て!」
騎士たちが前へ飛び出す。
その瞬間、結晶兵たちも一斉に襲いかかった。
激しい戦いが始まる。
「さくら!」
ネロが叫ぶ。
「結晶兵は胸の核を破壊しろ!」
「分かった!」
紅蓮を構え、さくらは敵へ飛び込む。
炎の斬撃で一体を倒す。
しかし、その隙に別の結晶兵が背後から迫る。
「危ない!」
カインが割って入り、その一撃を受け止めた。
「ありがとう!」
「礼は後だ。」
二人は背中合わせに立つ。
敵だった二人が、今は互いを信じて戦っている。
その光景を見たアベルは、不敵に笑った。
「面白い。」
「ならば、もっと絶望させてやろう。」
アベルは巨大な魔法陣を展開する。
空が黒い雲に覆われ、雷鳴が轟く。
魔法陣の中心から、これまでとは比べものにならないほど巨大な影が姿を現し始めた。
「これは……。」
ネロの表情が凍りつく。
「あれを完成させたのか……!」
巨大な影が咆哮を上げる。
その姿を見たネロは、かすかに震える声で呟いた。
「最悪だ……。」
それは、かつてネロ自身が「危険すぎる」と判断し、設計図ごと封印したはずの最終兵器だった。




