黒幕の影
「はあああぁぁっ!!」
さくらは炎剣・紅蓮を振り下ろす。
「終わりだ!」
その隣で、カインも黒い長剣を一閃した。
二つの斬撃が同時に魔核石へ叩き込まれる。
ガァァァァン!!
耳をつんざく轟音とともに、紫色の魔核石に大きな亀裂が走った。
「まだだ!」
ガレスが跳び上がる。
「これで決める!」
渾身の一撃が魔核石を直撃する。
バキィィン!!
魔核石は粉々に砕け散り、巨大な魔物は苦しそうな咆哮を上げた。
「グオオオオォォ……!」
黒い結晶は次々と崩れ落ち、その巨体は光の粒となって消えていく。
静寂が戻った。
「……終わった。」
さくらが息をつく。
しかし、ネロだけは魔物がいた場所をじっと見つめていた。
「違う……。」
「ネロ?」
ネロは地面にしゃがみ込み、砕けた魔核石の欠片を拾い上げる。
その表情が険しくなる。
「やはり。」
「何か分かったの?」
ネロは欠片をさくらへ見せた。
「見ろ。」
よく見ると、魔核石には細かな文字が刻まれていた。
「文字……?」
リーファルが目を凝らす。
「魔法陣のようにも見えます。」
ネロは首を横に振る。
「違う。」
「え?」
「これは私の魔法ではない。」
その言葉に、その場の全員が息をのんだ。
「私が研究していた魔核石は、こんな術式ではない。」
「つまり……。」
ガレスが低い声で尋ねる。
「誰かがお前の研究を盗み、さらに改良したということか。」
「ああ。」
ネロは静かに頷いた。
「しかも、私以上の技術で。」
カインの表情も険しくなる。
「そんなことができる者が……。」
ネロは空を見上げた。
「いる。」
「誰なの?」
さくらが尋ねる。
ネロは少しだけ迷い、やがて口を開いた。
「王国直属の宮廷魔導士だった男。」
「宮廷魔導士?」
「名は――」
その瞬間だった。
ヒュンッ!
一本の黒い槍が、ものすごい速さでネロへ飛んできた。
「ネロ様!」
カインが飛び出す。
ガキィン!!
黒い槍を剣で弾き飛ばす。
「誰だ!」
ガレスが叫ぶ。
丘の上。
濃い霧の向こうに、一人の人影が立っていた。
全身を灰色のローブで包み、顔は仮面で隠されている。
「……ネロ。」
不気味な声が響く。
「余計なことを話すな。」
「やはり、お前か。」
ネロの表情から笑みが消える。
「アベル。」
その名を聞いた瞬間、カインは目を見開いた。
「まさか……生きていたのか。」
アベルは仮面の奥で小さく笑う。
「久しぶりだな、ネロ。」
「……。」
「それにカインも。相変わらずネロの犬をやっているようだな。」
カインは静かに剣を構える。
「その呼び方はやめろ。」
ネロは一歩前へ出た。
「お前は……五年前に姿を消したはずだ。」
「消えた?」
アベルは肩をすくめる。
「違うな。」
「黒影を見限ったんだ。」
その言葉に、さくらたちは驚く。
「黒影を……?」
ガレスが眉をひそめる。
ネロは静かに説明した。
「アベルは、かつて黒影の幹部だった。」
「えっ!?」
さくらは目を見開く。
「黒影が結成された頃からの仲間だ。」
「私とカイン、そしてアベル。三人で王国の真実を暴こうとしていた。」
カインが苦しそうに目を伏せる。
「あの頃のアベルは、今とは違いました。」
アベルは笑みを浮かべる。
「だが、お前たちは甘かった。」
「……。」
「王国を潰すだけでは何も変わらない。」
「だから私は考えた。世界そのものを作り変えればいい、と。」
ネロは拳を握り締める。
「そのために魔核石の研究を盗んだのか。」
「ああ。」
アベルは何の迷いもなく答えた。
「お前の研究は実に素晴らしかった。少し手を加えるだけで、人も魔物も自由に操れる。」
その言葉に、ネロは怒りをあらわにした。
「私は命を操るために研究したんじゃない!」
「知っている。」
アベルは冷たく笑う。
「だから、お前では使いこなせなかった。」
そう言うと、アベルの背後に巨大な黒い魔法陣が展開される。
「私は黒影を捨てた。今の私は、誰にも従わない。この世界の支配者になるためにな。」
魔法陣から無数の黒い結晶兵が現れ、白霧の丘を埋め尽くしていく。
ネロは静かに剣を抜いた。
「……アベル。」
その声には怒りではなく、かつて仲間だった者を止めなければならないという悲しみが込められていた。
「今度こそ、お前を止める。」
ついに姿を現した、すべての元凶。
ネロでも王国でもない、本当の黒幕との戦いが幕を開けようとしていた。




