招待状
黒影との戦いから五日。
王都には再び静けさが戻っていた。
壊れた城壁の修復も進み、人々は少しずつ日常を取り戻し始めている。
しかし、さくらの心は晴れなかった。
訓練場で剣を振りながらも、頭の中にはネロの言葉が繰り返し浮かんでいた。
『次に会う時、私はすべての真実を話そう。』
「……何を考えてるんだろう。」
「珍しく集中できていませんね。」
リーファルが苦笑しながら近づいてきた。
「考えても答えは出ません。」
「分かってる。でも……。」
その時、一人の兵士が慌てて駆け込んできた。
「団長! 大変です!」
ガレスが振り返る。
「どうした。」
「王城の正門に、これが置かれていました。」
兵士が差し出したのは、一通の黒い封筒だった。
封には黒影の紋章が刻まれている。
ガレスは慎重に封を切り、中の手紙を読み始めた。
読み進めるにつれ、その表情は険しくなっていく。
「……これは。」
「何が書いてあるんですか?」
さくらが尋ねる。
ガレスは手紙を読み上げた。
『神山さくらへ。』
『約束通り、お前に真実を話す時が来た。』
『三日後、王都北方にある"白霧の丘"へ一人で来い。』
『私は争うつもりはない。』
『来るかどうかは、お前が決めろ。』
──ネロ・ヴァイス
部屋が静まり返る。
「罠だ。」
ガレスは即座に言った。
「行かせるわけにはいかない。」
リーファルも頷く。
「黒影の本拠地へ誘い込むつもりかもしれません。」
しかし、さくらは手紙を見つめたまま動かなかった。
「あの人……。」
「さくら。」
「今まで何度も私を倒せる場面があったのに、殺そうとはしなかった。」
ガレスもそれは認めざるを得なかった。
神殿でも、王都でも。
ネロもカインも、本気で命を奪いには来ていない。
「でも危険だ。」
「分かっています。」
さくらは静かに答えた。
「それでも、このままじゃ何も分からない。」
その瞳には迷いよりも、真実を知りたいという強い意志が宿っていた。
その頃、白霧の丘。
ネロとカインは丘の上に立ち、王都を見下ろしていた。
「本当に来るでしょうか。」
カインが尋ねる。
ネロは小さく笑う。
「来る。」
「なぜ、そう言い切れるのですか。」
「彼女は知ろうとする人間だからだ。」
ネロは遠くの空を見上げる。
「そして……。」
「?」
「この真実は、もう私一人で抱え続けるには重すぎる。」
カインは何も言わず、ネロの隣に立った。
幼い頃から知るその背中は、以前よりずっと小さく見えた。
復讐だけを望んでいたはずのネロは、今は何を目指しているのか。
その答えは、三日後の白霧の丘で明らかになろうとしていた。




