譲れない想い
ガァァン!!
炎をまとった紅蓮と、青白い魔力を宿した黒剣が再び激突する。
衝撃で周囲の石畳が砕け散り、激しい風が吹き荒れた。
「はあぁぁっ!」
さくらは渾身の力で剣を振るう。
ガレスとの修行で身につけた剣技を次々と繰り出す。
カインはそれらを受け流しながらも、以前とは違うことに気付いていた。
(迷いが消えた。)
神殿で戦った時のさくらは、炎の力に頼りすぎていた。
しかし今は違う。
剣で相手を見極め、隙を探し、自分の力で勝とうとしている。
「悪くない。」
カインが小さく呟く。
「でも、まだ届かない!」
さくらは炎をさらに強く燃え上がらせた。
「紅蓮・炎翔斬!」
炎が鳥のような形となってカインへ襲いかかる。
だがカインは剣を一閃。
青白い斬撃が炎を真っ二つに切り裂いた。
「そんな……!」
「力だけでは勝てない。」
カインは静かに言う。
「相手を倒したいという気持ちだけでは、剣は鈍る。」
「……!」
「守りたいものを見失うな。」
その言葉に、さくらは思わず動きを止めた。
(守りたいもの……。)
脳裏に浮かぶのは、王都の人々。
アルト村で助けた少女。
ガレスやリーファル。
そして、この世界で出会った仲間たち。
「私は……。」
さくらは紅蓮を握り直す。
「みんなを守るために戦ってる!」
その瞬間、紅蓮の炎がこれまで以上に大きく燃え上がった。
「これなら!」
一気に踏み込み、鋭い一撃を放つ。
カインは受け止める。
しかし――
ギィンッ!
初めてカインの体が大きく後ろへ下がった。
「……。」
仮面の奥の瞳が、わずかに驚きを見せる。
「押した……!」
リーファルが思わず声を上げる。
さくらは追撃しようと駆け出す。
その時だった。
「そこまでだ。」
静かな声が戦場に響く。
ネロだった。
いつの間にか戦場へ姿を現し、二人の間へ歩いてくる。
「ネロ!」
さくらは剣を向ける。
だがネロは構えようともしない。
「カイン。」
「はい。」
「十分だ。」
カインは静かに剣を収めた。
「ですが、まだ……。」
「目的は戦いではない。」
ネロはそう言うと、さくらへ視線を向ける。
「神山さくら。」
「何。」
「お前は変わった。」
「……。」
「以前のお前なら力に頼っていた。だが今は違う。」
ネロは少しだけ穏やかな表情を見せる。
「それでいい。」
「何が言いたいの?」
ネロは答えず、背を向けた。
「次に会う時、私はすべての真実を話そう。」
「真実?」
「その時、お前自身が選べ。」
そう言い残し、ネロは歩き始める。
黒影の団員たちも次々と撤退していく。
カインも去り際に一度だけ立ち止まり、さくらを見た。
「次は、本気で勝ちに来い。」
その言葉を残し、ネロと共に姿を消した。
戦いは終わった。
しかし、さくらの胸には新たな疑問が残る。
「真実を話す……。」
ネロはなぜ自分を敵として倒そうとしないのか。
なぜ何度も試すような戦い方をするのか。
その答えは、もうすぐ明らかになろうとしていた。




