始まりの継承者
神殿全体を揺らす轟音が鳴り響く。
ゴゴゴゴゴ……。
石の扉はゆっくりと開き、その奥から黄金色の光があふれ出した。
さくらは思わず目を細める。
「この光は……。」
その時、再び声が響く。
「始原の炎を継ぐ者よ、こちらへ。」
「私を呼んでる……?」
さくらが一歩踏み出そうとすると、ガレスが腕をつかんだ。
「待て。何があるか分からない。」
しかしリーファルは首を振る。
「違います。あの声は、さくらさんだけに聞こえているようです。」
ネロも静かに二人のやり取りを見つめていた。
「……そうか。」
「何がそうなの?」
ネロは目を閉じ、小さく息をつく。
「私には、その声は聞こえない。」
さくらは警戒しながらも、光の中へ足を踏み入れた。
扉の先は、広い円形の空間だった。
中央には巨大な炎が静かに燃え続けている。
不思議なことに熱さは感じない。
炎の前へ近づくと、一人の女性が姿を現した。
長い銀髪に白い衣。
神殿の壁画に描かれていた人物と同じ姿だった。
「あなたは……。」
女性は優しく微笑む。
「私は初代の炎の継承者、アリア。」
「初代……。」
「始原の炎は、代々一人の継承者へ受け継がれてきました。」
さくらは炎を見つめる。
「じゃあ、この力は……。」
「世界を守るための力です。」
アリアの表情が少し曇る。
「ですが、人の憎しみや欲望に触れれば、世界を滅ぼす炎へ変わってしまいます。」
その言葉に、さくらはネロのことを思い出す。
弟を失い、復讐に生きる男。
もし彼がこの炎を手に入れていたら──。
「私は……。」
さくらは拳を握る。
「誰かを傷つけるためには使わない。」
アリアは静かにうなずいた。
「その想いを忘れないでください。」
その瞬間、始原の炎の一部がさくらの胸へ溶け込んでいく。
眩い光が辺りを包み込んだ。
神殿の外では、ネロが静かに空を見上げていた。
「選ばれたのか……。」
その声に、部下の一人が尋ねる。
「ネロ様、このまま奪わなくてもよろしいのですか?」
ネロは首を横に振る。
「今の彼女では、まだ始原の炎を使いこなせない。」
「では……。」
「時は来る。」
ネロの目には迷いがなかった。
「王国が隠した真実を知れば、彼女も必ず迷う。」
その時こそ、始原の炎は自分の手に渡る。
ネロはそう確信していた。
一方、光の中から戻ってきたさくらを見て、ガレスたちは安堵の表情を浮かべた。
「無事だったか!」
「はい。でも……。」
さくらは神殿の奥を振り返る。
「この炎には、なにか大きな秘密があるような気がします。」
その時、神殿の壁が激しく揺れ始めた。
バキバキッ!
天井に大きな亀裂が走る。
「神殿が崩れる!」
ガレスが叫ぶ。
「全員、脱出だ!」
さくらたちは急いで出口へ向かう。
しかし、崩れ落ちる岩の向こう側から、複数の黒い影が姿を現した。
黒影の団員たちだった。
「逃がすな。」
その先頭には、剣を構えた一人の青年が立っている。
仮面で顔は隠れているが、その放つ気配はこれまでの団員とは比べものにならない。
ネロはその青年に静かに命じた。
「行け、カイン。」
青年は無言のまま剣を抜き、さくらたちへ歩き始めた。
黒影最強の剣士との戦いが、今始まろうとしていた。




