封印の神殿
ネロが古文書を奪った翌朝。
ガレス率いる騎士団は、夜明けとともに王都を出発した。
目的地は――封印の神殿。
建国以前から存在するとされる、誰も近づこうとしない禁断の遺跡だった。
馬を走らせながら、さくらはリーファルに尋ねる。
「封印の神殿って、本当に何があるか分からないんですか?」
「文献はほとんど残っていません。ただ、『王家が代々封印を守り続けてきた』という記録だけがあります。」
「じゃあ、ネロは何を解こうとしているんだろう……。」
誰も答えられなかった。
数時間後。
山脈の奥深く、一行は巨大な石造りの神殿へたどり着く。
何百年もの風雨にさらされているはずなのに、神殿はほとんど崩れていない。
入口には古代文字が刻まれていた。
リーファルは文字をなぞる。
「『封印を破る者は、世界の運命を変える』……。」
ガレスは剣を抜いた。
「嫌な予感しかしないな。」
その時だった。
ギィィ……
重い扉が、ひとりでにゆっくりと開いた。
「勝手に……?」
さくらたちは顔を見合わせる。
「警戒して進むぞ。」
神殿の内部は静まり返っていた。
壁には古代の壁画が描かれている。
そこには、人々が巨大な炎を放つ人物へ祈りを捧げる姿や、黒い霧に包まれた魔物との戦いが刻まれていた。
「この炎……。」
さくらは壁画の人物に目を奪われる。
自分が使う炎と、どこか似ている気がした。
その時――。
ドォン!!
神殿の奥から激しい爆発音が響く。
「この音は……!」
ガレスは険しい表情を浮かべる。
「ネロが先に着いていたか!」
一行は最深部へ向かって駆け出した。
神殿の最奥。
そこでは、巨大な石の扉が半分ほど開いていた。
その前には、黒いローブをまとった男――ネロ・ヴァイスが立っている。
「ネロ!」
さくらが叫ぶ。
ネロはゆっくりと振り返り、小さく笑った。
「遅かったな。」
「何をするつもり!」
「真実を確かめるだけだ。」
ガレスが剣を向ける。
「それ以上封印に近づくな!」
しかし、ネロは動じない。
「お前たちは、王国が何を隠してきたのか知らない。」
「どういう意味だ。」
ネロは静かに石の扉へ手を添えた。
「先代国王だけではない。」
「……?」
「この国の歴代の王たちは、自分たちの都合の悪い歴史を、この封印とともに隠し続けてきた。」
その言葉に、さくらたちは息をのむ。
「その真実を暴けば、この国はもう"正義の王国"ではいられない。」
ネロが魔力を込めると、石の扉がゆっくりと開き始める。
ゴゴゴゴゴ……
扉の隙間から、まばゆい金色の光が漏れ出した。
「止めろ!」
さくらが駆け出した、その瞬間――
神殿全体が激しく揺れ始めた。
そして扉の奥から、どこか懐かしくも威厳のある声が響く。
「始原の炎を継ぐ者よ……。」
その声は、まるでさくらだけに語りかけているかのようだった。
ネロは驚いたように目を見開く。
「まさか……封印が、さくらに反応した……?」
神殿の最深部で、王国が隠し続けた秘密が、ついに動き始めようとしていた。




