炎の覚醒
巨大な魔物は低いうなり声を上げながら、一歩ずつアルト村へ近づいていく。
ズシン……。
ズシン……。
その一歩ごとに地面が揺れ、家々がきしむ。
「住民の避難を急げ!」
ガレスの指示で騎士たちが村人を誘導する。
リーファルは弓を構え、巨大な魔物へ矢を放つ。
しかし──
カンッ!
矢は皮膚に当たった瞬間、弾き返された。
「傷一つ付かない……!」
さくらは炎剣・紅蓮を握りしめる。
「私が行く!」
地面を蹴り、一気に魔物の懐へ飛び込む。
「はあぁぁっ!」
炎をまとった斬撃が魔物の脚を切り裂く。
だが、傷は浅い。
「そんな……!」
直後、魔物の拳が振り下ろされる。
「危ない!」
リーファルが叫ぶ。
さくらは横へ飛んでかわしたものの、衝撃で吹き飛ばされ、地面を転がった。
「くっ……。」
立ち上がろうとしたその時、視界の端に一人の少女が映る。
避難の途中で転び、その場から動けなくなっていた。
巨大な魔物の足が少女へ迫る。
「お姉ちゃん……!」
少女の泣き声が響く。
「まずい!」
騎士たちも間に合わない。
その瞬間、さくらの胸に強い想いが込み上げた。
(守りたい。)
(もう誰にも、大切な人を失わせたくない。)
次の瞬間、体の奥から膨大な熱があふれ出す。
ゴォォォォッ!!
赤かった炎が黄金色へと変わり、さくらの全身を包み込んだ。
「これは……!」
炎は翼のように背中から広がり、周囲の空気を震わせる。
ガレスが目を見開く。
「始原の炎が……覚醒した……!」
さくらは一瞬で少女の前へ移動し、巨大な拳を片手で受け止めた。
ドォン!!
衝撃で地面が砕ける。
それでも、さくらは一歩も動かなかった。
「絶対に……守る!」
黄金の炎が腕を駆け巡る。
そのまま魔物を押し返し、大きく跳び上がる。
「炎皇砲――終焉ノ焔!」
両手から放たれた黄金の炎は巨大な柱となり、魔物を飲み込んだ。
轟音とともに空まで炎が立ち昇る。
やがて炎が消えると、巨大な魔物の姿は跡形もなく消え去っていた。
その場に残っていたのは、砕け散った巨大な魔核石だけだった。
静寂が訪れる。
誰も言葉を発することができない。
リーファルが静かにつぶやく。
「これが……始原の炎……。」
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一方その頃──。
遠く離れた丘の上から戦いを見ていたネロは、小さく目を閉じた。
「やはりそうか。」
彼は悲しげに微笑む。
「その力なら、この世界を変えられるかもしれない。」
しかし、その表情はすぐに険しくなる。
「だが、まだ足りない。」
そう言うと、ネロは部下へ命じた。
「次の準備を進めろ。」
「例の封印を解くのですね。」
「ああ。」
ネロは夜空を見上げる。
「王国が隠し続けてきた"真実"を暴く時が来た。」
その言葉とともに、黒い霧が彼の姿を包み込んだ。
新たな戦いは、王国の歴史そのものを揺るがそうとしていた。




