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家族に捧げられた私、悪魔の教祖様に気に入られて囲われました  作者: 絹ごし春雨


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7/11

7話

 ――足りない。


 その感覚は、日に日に強くなっていた。


「……どうして」


 ルミナは鏡の前で、何度目か分からない問いを零す。


 美しい。


 それは間違いない。


 夜会でも、街でも、誰もが振り返る。


 けれど。


(前より、弱い)


 最初に得たあの“熱”が、持続しない。


 視線は集まる。


 でも、すぐに離れる。


 囁きはある。


 でも、長くは続かない。


 まるで。


 “もっと求めなければ保てない”みたいに。


「……違う」


 首を振る。


 そんなはずはない。


 私は、選ばれたのだから。


「ルミナ様、本日のご予定は――」


「いいわ」


 遮る。


「外出するわ。あそこへ」


 使用人が、息を呑む。


「……教団へ、でございますか」


「ええ」


 迷いはなかった。


(もう一度、確かめる)


 あの人なら。


 あの教祖なら。


 きっと。


 広間は、以前よりもさらに熱を帯びていた。


「救いを……」

「選ばれたい……」


 縋る声。


 渇いた欲望。


 すべてが混ざり合っている。


 その中心に。


 変わらず、彼はいた。


「ようこそ」


 穏やかな微笑。


 すべてを受け入れるような声音。


 ルミナの胸が、高鳴る。


(この人は、分かってくれる)


 自分がどれほど“特別”かを。


「ルミナ様」


 名前を呼ばれる。


 それだけで、満たされる。


 けれど同時に――


(もっと)


 足りない。


「本日は、どのようなご用件で」


 問われる。


 ルミナは、一瞬だけ躊躇して――すぐに飲み込んだ。


「……私」


 声が震える。


 でも止まらない。


「まだ、足りないのです」


 ざわめきが広がる。


「美しいはずなのに」


「愛されているはずなのに」


「でも――」


 言葉が溢れる。


「もっと欲しい」


 その瞬間。


 空気が、わずかに変わった。


 けれどルミナは気づかない。


「誰よりも」


「ずっと」


「ずっと愛され続けたいのです」


 言い切る。


 もう、止められない。


 沈黙。


 そして。


「……なるほど」


 教祖は、静かに頷いた。


 否定はしない。


 拒絶もしない。


 それが、何よりも心地いい。


「愛されることは、尊いことです」


 優しく、肯定される。


 それだけで救われる。


「ですが」


 一拍。


 ほんのわずかな間。


「それを“維持する”には、相応の形が必要になります」


「……形?」


「ええ」


 微笑みは変わらない。


 けれど、どこか深い。


「与えられたものを、どう扱うか」


「それが、そのまま結果となる」


 意味は、よく分からない。


 でも。


「……構いません」


 ルミナは即答する。


「どんな形でも」


 その言葉に。


 教祖の目が、わずかに細まった。


「承知いたしました」


 静かに、手が伸びる。


 逃げる理由は、どこにもない。


 むしろ――


(欲しい)


 もっと。


 もっと。


 満たされたい。


 指先が、再び頬に触れる。


「貴女の願い」


 低く、甘い声。


「確かに、受け取りました」


 その瞬間。


 熱が、さらに深く流れ込む。


「……っ」


 体の奥が震える。


 最初の時より、強い。


 濃い。


 満たされる。


(これ……これよ)


 求めていたもの。


 もっと、もっと。


「どうか」


 最後に、囁かれる。


「その愛を、大切に」


 意味を考えない。


 考えたくない。


 ただ、満たされる感覚に身を委ねる。


 その頃。


「……次は、私だ」


 父もまた、動き出していた。


 すでに一度、願いは叶っている。


 だが。


(まだ足りん)


 地位は得た。


 だが、完全ではない。


 疑念が残る。


 従わない者がいる。


 ならば。


(すべてを掌握すればいい)


 欲は、さらに膨らむ。


 一方で。


「セシリア様」


 穏やかな声。


 振り返ると、イシュヴァルがいた。


「本日は、少しお疲れのように見えます」


「……そう、でしょうか」


 首を傾げる。


 自覚はなかった。


「少しだけ」


 手を取られる。


 自然に。


 当たり前のように。


「こちらへ」


 導かれるまま、歩く。


 静かな部屋。


 柔らかな光。


「ここで、少し休まれてください」


 椅子に座らされる。


 距離が近い。


 でも、落ち着く。


「……どうして、こんなに」


 ぽつりと零れる。


「優しくしてくださるのですか」


 ずっと、疑問だったこと。


 イシュヴァルは、わずかに微笑む。


「簡単なことです」


 指先が、そっと髪に触れる。


「貴女が、何も求めないからです」


「……え」


「欲がない方は、歪まない」


 静かな声。


「ですから、そのままでいていただきたい」


 その言葉に。


 胸が、静かに満たされる。


 ルミナとは違う。


 求めなくても、与えられる。


 その意味を、まだ完全には理解していないまま。


 遠くで。


「……これで、揃いました」


 イシュヴァルは静かに呟く。


 ルミナの“加速した欲”。


 父の“拡張された支配欲”。


 すべてが、予定通り。


「さて」


 わずかに、笑みが深くなる。


「どこまで美しく崩れるか」


 その視線は、冷たくも優しい。


 すべてを見届ける者のものだった。

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