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家族に捧げられた私、悪魔の教祖様に気に入られて囲われました  作者: 絹ごし春雨


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5/11

5話

 ルミナが“美しさ”を得てから、数日。


 伯爵家の空気は、一変していた。


「お嬢様……本当にお美しい」


「先日の夜会でも、皆様が見惚れておりました」


 使用人たちは口々に称賛する。


 その視線は、かつてとはまるで違う。


(当然よね)


 ルミナは鏡の前で、ゆっくりと微笑む。


 角度も、表情も、すべてが完璧だった。


 視線を集めることが、こんなにも心地いいなんて。


「……でも」


 ふと、指先で頬に触れる。


 ほんの一瞬だけ。


 違和感のようなものがよぎった気がした。


(……気のせい、よね)


 すぐに消える。


 代わりに残るのは、満たされた感覚だけ。


「ルミナ」


 父の声がする。


「今日も、教祖様のもとへ行く」


 振り返ると、そこには以前よりも明らかに“焦り”を帯びた父がいた。


「お父様も、願われるのですか?」


「ああ」


 迷いはない。


 むしろ、確信に満ちている。


「この機を逃すわけにはいかん」


 その目は、ルミナと同じ光を宿していた。


 ――欲望に満ちた光。


 再び訪れた、あの広間。


 熱気は、以前よりも増している。


「救いを……」

「どうか、私にも……」


 変わらない光景。


 ただ一つ違うのは、その中心にいる存在への“信仰”が、より深くなっていること。


「ようこそ」


 壇上の男が、静かに微笑む。


「本日も、多くの願いが集まっております」


 その声だけで、人々は安堵する。


 絶対的な存在。


 疑う余地すら、与えられない。


「前へ」


 父が呼ばれる。


 堂々とした足取りで進み出る。


「お名前を」


「――グラント伯爵」


 誇らしげに名乗る。


 その肩書きが、すでに物足りないもののように感じながら。


「どのような救いをお望みですか」


 問われる。


 父は、一瞬も迷わなかった。


「更なる地位を」


 ざわめきが広がる。


「我が家を、より高みへ」


 声に、熱がこもる。


「伯爵では足りぬ」


「私は――選ばれる側でありたい」


 言葉が、次々と溢れる。


「誰もが従う地位を。揺るがぬ権力を」


「すべてを手に入れたい」


 最後に、強く言い切る。


「それが、私の望みだ」


 沈黙。


 そして。


「……素晴らしい」


 教祖は、ゆっくりと頷いた。


「非常に、純粋な願いです」


 その言葉に、父の顔が歪むほどの喜びが浮かぶ。


「では」


 手が差し出される。


「お受け取りください」


 父は迷わず、その手を取った。


 瞬間。


 空気が変わる。


 何かが、流れ込む。


「……っ」


 父の目が見開かれる。


 理解している。


 “与えられている”と。


「これで……!」


 震える声。


 歓喜に満ちた表情。


 数日後。


 その願いは、現実となった。


「――グラント侯爵」


 その名が、正式に告げられる。


 異例の昇格。


 誰もが驚き、誰もが恐れた。


「素晴らしいですわ、お父様!」


 ルミナが駆け寄る。


 その笑顔は、以前よりもさらに眩しい。


「当然だ」


 父は満足げに頷く。


「我々は“選ばれた”のだ」


 その言葉に、疑いはない。


 ――だが。


「……ねえ、お父様」


 ルミナが、ふと呟く。


「最近、私を見る人……減っていません?」


 一瞬。


 空気が、わずかに揺れる。


「何を言っている」


 父は即座に否定する。


「お前は美しい。誰もが見ている」


「……そう、よね」


 笑う。


 でも。


 どこか、引っかかる。


 以前ほどの“熱”を感じない瞬間がある。


 ほんの、わずかだけ。


 一方で。


 父の周囲では。


「……急な昇格だな」


「裏で何が……」


 囁きが広がり始めていた。


 羨望と、疑念。


 そして――敵意。


 それでも。


 父は気づかない。


 いや、気づこうとしない。


 すでに。


 手に入れたものを、疑えなくなっているから。


 遠くで。


「ええ、順調です」


 イシュヴァルは静かに呟く。


 穏やかな微笑のまま。


「願いは、すべて叶えられている」


 その通りだ。


 何一つ、嘘はない。


「だからこそ」


 目を細める。


「美しいのです」


 崩れていく過程すら。


 最初から含まれていたかのように。

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