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家族に捧げられた私、悪魔の教祖様に気に入られて囲われました  作者: 絹ごし春雨


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4/11

4話

 広間は、熱に満ちていた。


「救いを……」

「どうか、私にも……」


 縋る声が、あちこちから上がる。


 壇上に立つ男は、それを静かに見下ろしていた。


 黒い衣。穏やかな微笑。


 すべてを受け入れるような、優しい眼差し。


「ご安心ください」


 その一言で、場が静まる。


「願いは、必ず届きます」


 救われる、と誰もが思った。


 ――ルミナも、その一人だった。


(やっと……)


 胸の奥が、熱を帯びる。


 隣で父が、小さく頷いた。


「行きなさい、ルミナ」


「はい……お父様」


 震える足で、前へ出る。


 視線が集まる。


 でも怖くない。


 むしろ、心地いい。


(見られてる……)


 ずっと欲しかったもの。


 それが、ここにある。


 壇の前に立つと、男――教祖が、ゆっくりと視線を落とした。


「お名前を」


 優しい声。


「ルミナ、と申します」


「ルミナ様」


 名前を呼ばれる。


 それだけで、胸が満たされる。


「どのような救いをお望みですか」


 問われる。


 迷いはなかった。


「……美しく、なりたいのです」


 ざわめきが起きる。


 けれど、止められない。


「誰よりも、美しく」


 言葉が止まらない。


「誰からも愛されて。羨まれて」


「選ばれる存在に――」


 そこで、息を吸う。


「なりたいのです」


 言い切った。


 沈黙。


 ほんの一瞬だけ、空気が止まる。


 やがて。


「……素晴らしい願いです」


 教祖は、静かに微笑んだ。


 否定されない。


 それだけで、すべてが肯定された気がした。


「では」


 ゆっくりと、手が差し出される。


「こちらへ」


 誘われるまま、一歩近づく。


 距離が、消える。


「少しだけ、触れます」


 断りを入れる声音。


 けれど拒否など考えられなかった。


 指先が、頬に触れる。


 ひやりとした感触。


「……あ」


 息が漏れる。


 何かが、流れ込んでくる。


「貴女の願い」


 耳元で、囁かれる。


「確かに受け取りました」


 その瞬間。


 体の奥で、何かが弾けた。


 熱が、巡る。


 満たされていく。


(これ……)


 分かる。


 変わっている。


 自分が、自分じゃなくなっていく。


 でも。


(気持ちいい……)


 抗う理由が、どこにもない。


「どうか」


 最後に、静かな声が落ちる。


「その美しさを、大切に」


 意味を考える余裕はなかった。


 ただ、すべてが満たされた気がして。


 その日から。


 ルミナは、変わった。


「……綺麗」


 鏡に映る自分に、思わず見惚れる。


 肌は透き通るようで、瞳は輝き、仕草ひとつで視線を集める。


「お嬢様……まるで別人のようでございます」


 使用人が、息を呑む。


 その反応が、心地いい。


「そうでしょう?」


 微笑むだけで、相手の頬が赤くなる。


(これよ)


 これが欲しかった。


 視線。羨望。愛。


 すべてが、こちらに向く。


「素晴らしい……!」


 父もまた、満足そうに頷いた。


「さすがは教祖様だ」


 その目には、完全な信仰が宿っている。


「次は、私の番だな……」


 ぽつりと漏れたその言葉に、ルミナはふと違和感を覚える。


(……次?)


 一瞬だけ。


 ほんのわずかに、胸の奥がざわついた。


 けれど。


「お姉様なんて、もう必要ないわね」


 そう口にした瞬間、その違和感は消えた。


 代わりに広がるのは、満足感。


 自分が“上に立った”という確信。


 誰も気づかない。


 その美しさが、


 どのような形で完成されているのかを。


 遠く。


 それを見ている影がひとつ。


「……ええ、順調です」


 イシュヴァルは、静かに微笑む。


 まるで、最初から結末を知っているかのように。


「とても、美しい」


 その言葉は。


 賞賛であり――


 終わりの予告でもあった。

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