第28話 完成! ノア工房
「おい! 大丈夫か〜」
吹っ飛んだ騎士達も周りにいたロイや他の騎士達もまだ何か起こったのか理解できていない。
「リリカ! いきなりこっちにウインドをぶっ放すなよ!」
「違うわ! 説明しにくいけど、違うのよ!」
ただマナを流して魔土から風を出したと言うにしても、リリカ自身がまだ状況整理できていない。駆け寄るロイにとりあえず事情を説明する。
「なんだと……リリアナ王女のマナが?」
「も、申し訳ございません……」
「い、いえいえ! 王女は気にしないでください! むしろ喜ばしい事ですよ。きっと」
そう言ってロイはリリカに任せて再び王国騎士の訓練へと戻る。
(リリアナ王女の流したマナの量があまりに多かった。そして一気にマナを流したから魔土が暴発した……ということね。こんな事、初めてだわ。あまりにも風属性が強すぎるってことかしら。相性が良すぎて暴発……か)
リリカは光と闇と聖属性の魔素を多く含む魔土も用意して、同じようにリリアナにマナを流すように指示をする。聖属性には一般的な反応があり、他は無反応だった。
「リリアナ王女。まず、王女が持つマナの質に関してですが、どうやら風と聖の属性をお持ちのようです。聖属性は相性が良さそうですが、風に関してはちょっと相性が良すぎる様に思います。もう暫く様子を見て判断しますが、まず第一歩はクリアということで」
喜ぶリリアナとティア。そしてリリカは少々不安に感じていた。
巨大な力を持つ才能は良いとして、それをうまく制御できるかどうかも魔土術士には必要な能力だからだ。その点においてティアは完璧だ。火、水、風の属性を自由に操れている。果たしてリリアナ王女はどうなのか……
こうして初日の魔土術訓練は終わった。
そしてロイ達はまだ慣れない自分たちの家で夕食を摂る事に。メイド達が豪華な食事を運んでくれる。リリカはとても嬉しそうだ。自分で準備をしないで食べる夕食ほどありがたい事はない。
「ノアは今日、何をしていたんだ? ずっと図書の間で読書か?」
ロイがなんて事ない普通の会話をする。
「うん。午前中はずっと図書の間にいたね。午後はミラ王女と一緒にモグラーギルドと冒険者ギルドに行ってパーティ申請してきたよ」
「「ブハッ!!」」
ロイとリリカがびっくりして吹き出す。なんて事ない普通の会話ではなくなった。
「お、おいノア。もう王女様を連れ出したのか? しかもギルドにパーティー登録って……いくら何でもそれは少し早過ぎだろ」
リリカが何回も頷く。そんな二人の表情を見て、ノアが慌てて弁明する。
「いや、違うんだよ。僕は一人でコンクーリに行こうとしたんだ。ボイドさんに用があってね。そしたらそれがミラ王女にバレちゃって。私も連れて行けってしつこくて……」
ノアが嘘をついていないのは二人にもわかった。しかしミラ王女のフットワークの軽さが気になる。
「ヘンドリックさんがよく許可出したよな。王女だぞ」
「変装して『エミラ』としてコンクーリの街を堂々と歩いてたよ。ヘンドリックさんも変装してた。むしろヘンドリックさんの方がノリノリで、パーティメンバーに入ろうとしてた。ミラ王女に断られていたけど」
「そ、そうか……じゃぁ、もう……なんでもありだな」
「あ、そう言えば……モグラーギルドに行った時、ボイドさんが父さんに伝言があるって。えっと、確か……『ロイの仮説は正しい。おそらく実証できるだろう』だって」
「なんだって! 本当か!」
びっくりしながら頷くノア。
「……これは大きな一歩だ」
「もしかして、あのダンジョン踏破の後に話してくれた事?」
「そうだ。 近い将来、人族は人工的に超級魔土<レアラ>を造り出せるかもしれないぞ」
「すごいね! それができればヒューマニア王国はもっと発展するよ!」
男達のロマン溢れる会話に全く興味を持たないリリカとティアは明日リリアナ王女と一緒に王都リトルガイアへ買い物にいく話で夢中になっていた。
こうしてロイ一家の新たな生活が無事スタートし、数日が過ぎた。
* * *
王宮敷地内でモグラーギルドの鍛治職人たちとノアが集まって真剣に話をしている。そうノアの鍛冶場を作っているのだ。ノアはてっきり王宮にも鍛冶場があると思っていたが、当然そんなものは無かった。そこで国王に許可を取り、ノアだけが使うコンパクトな鍛冶場を新設する事にした。
図書の間で関連書籍を読みながらアイデアを膨らませていく。そしてまとまったところでギルドの職人達に手伝ってもらい建設を開始した。
ノアのアイデアを聞き、職人達が驚く。そして作業を始めて僅か数日でそれは完成した。
「ノアできたぞ! こんな感じでいいのか?」
鍛治職人のゴーボがノアに確認する。
「ありがとう、ゴーボ親方! 完璧です!」
こうして出来上がった立派なハイソイラ製の平屋の建物。革新的鍛治スペースは職人も唸る技術が詰め込まれており、その隣にアイデアを練る作業スペースが配置されている。休憩スペースからはノアが大好きな樹木の庭園が見えるように窓も設置されるなど、正にノアにとって理想の場所だ。
興味津々だったミラ王女が見に来てボソッと呟く。
「まさにノア工房ね」
無事に建物の名前が決まった。
「ここなら私たちが話し合うのにちょうどいい広さね。庭園も隣だし、とても心地よいわ!」
「え、あの、ミラ王女? 話し合うって……?」
「うん。とても気に入ったわ! ここを私たちの拠点としましょう!」
「……え? きょ、拠点? いや、僕はここを一人で……」
「ん? 何かしら?」
「あ……いや……なんでもありません」
笑顔の中に王家独特の圧力を感じ、拒否することができないノアだった。




