第118話 滝壺か蛸壺か
どんどん滝の底を目指して泳いでいくノアとヘンリーとティア。エアーメットを装着しているので呼吸は問題ないが耐久性に少々不安は残る。
《二人ともあの辺りがどうやら最深部だ。あそこで探掘を開始するよ》
《わかったわ!》
《了解!》
レアラグロー刃を装着し、一刀目を突き刺してその感触を確かめるノア。
(くぉ〜。やはり固いなぁ〜。ひたすら頑張るしかないか)
水圧もあって探掘力が弱まる中、必死に掘り進めるモグラーノア。等級ブルドーザーの腕前を十分に発揮し、徐々にコツをつかんでいく。
《あ! イフリート、発見したぞ! 超級魔土だ!》
《よっしゃ! どんどん回収しようぜ!》
順調すぎる。超級魔土を手際よく回収しているこの状況があまりにも順調すぎる……
《ティア、ヘンリー。そっちは何も異変はないかな?》
《特に問題ないよ。むしろお兄ちゃんのモグっている前方から魔物が来るんじゃないの? 超級魔土があるくらいだからそれに見合った魔物が》
《まぁ、そうだよね。ちょっと広く浅くモグるからティアたちも前方を意識して置いて》
《了解!》
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴ……
《え? なんの音だ?》
ヘンリーが戸惑う。どこから感じているかよくわからない。聖水が渦を巻き、滝底の魔土が揺れ動く。この滝壺自体が大きく唸りを上げ始めた。
そして突然滝底から大きな吸盤が幾つもつけた長い物体が飛び出してノアを襲う。
軟体で太くて長いそれはまるで鞭がしなるかのような動きで思い切り滝壺内をブンブン振り回している。ノアのエアーメットが破壊された。
「ゴボボォ〜」
呼吸ができずに急遽麓まで泳いで上がっていくノア。ヘンリーとティアも上がろうとしたが、その謎の生物はティアの足をつかんで麓へ上がらせない。
《ふざけるな! くねくね気持ち悪いのよ! ラファイア!》
ティアが強烈な火力を聖水の中で強引に放って謎の物体を焼きはらおうとしたが表面が焦げた程度のダメージで掴まれていた足はまだ解放されない。
その状況を見ていたヘンリーがマナをロングソードに集中させる。
《喰らえ! マナスラッシュ!》
ザシュ!
見事にうねうねと奇妙な動きをした生物を真っ二つにした。
《よし! 上手くいった! あとはノアを――》
《ヘンリー危ない! 後ろ!》
ティアの声に反応して後ろを振り向いたヘンリーに強烈な一撃を与える同じような形状の奇妙な物体。腹に直撃してしまった。
《グッ、グハァ〜!》
これはもしかしてこの軟体な生物と思っていたものは脚なのかとティアは勘付く。
《足が何本もある柔らかい生物。その体の大きさはおそらく……》
ドガ〜ン! 滝底が大きく割れて脚が何本も出てきた。そして巨大な丸い頭のようなものが姿を現す。
《な、何この化け物じみたスケール。 くねくねと気持ち悪いし吸盤ついているし》
《イフリート、ゴールドティア! いくわよ》
ティアのアイテム袋から飛び出て勢いよく円形に広がっていく。
そしてティアが獄炎魔土術を唱えてイフリートとともにゴールデンドロイムに向かって放つ。
その炎を一気に包み込み、突然現れた魔物に向かって突っ込んでいくゴールドティア。そして思い切り胴体にぶつかり、大きく体がめり込んでいく。
《今よ! 爆発!》
ドドドドーン。激しい爆発音とともに周囲の壁が破壊される。巨大な軟体魔物も吹っ飛ばした!
《威力はまあまあね。ゴールドティア! 戻ってきなさい!》
爆芯地から急いで戻ってきたゴールドティア。よくやったと頭を撫でるティア。
一旦滝の麓へ上がる。遅れてヘンリーも上がってきた。
「ブハァ! なんだあれ! 奇妙な動きする巨大生物か」
「すまん、ヘンリー、ティア! あの魔物の情報を僕にも教えてくれ。さっきエアーメット吹っ飛ばされて、急いで麓へ上がったから、あまり把握できていないんだ」
息を荒くしてヘンリーが興奮気味に話す。
「脚が10本あったぞ! 巨大な魔物だった!」
「割とまん丸な形の胴体に同じような脚が10本。そのうち一本はヘンリーがぶった斬ったわ。目とか鼻とか把握できないような、とても奇妙な魔物よ」
「エミラたちはまだ聖水の中に潜っていないよね?」
ノアが念話で確かめた。リリーとエミラはまだ聖なる祠でウサ婆と話をしていて無事だった。改めてあの魔物について話をする。
「アイツもしかして……水中で生きる魔物なのか?」
「でも最初は魔土の中にいたわけでしょ? つまり陸も水の中も大丈夫なんじゃない?」
「確かにそうだね。魔土でできた滝底のさらに奥深くにある超級魔土のマナを吸い込んで潜んでいたからね」
「お兄ちゃんが猛烈なスピードでモグってたから怒ったんじゃない?」
「あり得るね……レアラを強奪されると思ったとか?」
ヘンリーの言葉に説得力が有りすぎて疑問の余地がない。
『確かに魔物からしたら強奪だよな。本当に持って帰るからな』
「イフリート。そんなことはいいから何かいいアイデア無いの?」
ティアから出てきたイフリートに詰め寄るティア。
『アイツ確か幻獣とかじゃなくてSSS級の魔物だったぞ。名前忘れちまったなぁ〜』
《ノア! 皆! 無事なの?》
エミラからの連絡だ。状況を伝えるノアたちにウサ婆が笑いながら答えを教える。
《その魔物の名はクラーケンだがね。ルジェ・シルヴァニアも知らん魔物だがね》
「おぉ! すごい! 僕らは伝説の冒険家を超えたんだ!」
「お兄ちゃん、喜んでいる場合じゃ無いわよ」
まるで軽く水浴びをするかのように滝に打たれながら水面から姿を現すクラーケン。とんでもなく巨大過ぎて滝が小さく見えるくらいだ。
「ヘンリーあの脚をよくぶった斬ったよね。しかも水中で」
「このロングソードのおかげだよ。無事にこいつを倒して、新しい武器が完成するまでの間、借りておくね」
『ちなみにヘンリーとティアの武器はもう完成しているぞ』
「「…………へ?」」
「あ! こら、今言っちゃダメだろイフリート! もう、本当にせっかちなやつだなぁ」
『内緒だったのか? 悪い悪い』
「まぁ、本当はもっと強い敵でお披露目したかったけど、この魔物で試し斬りしてもらうのも悪くないか」
ノアが明らかにクラーケンを軽視していることが信じられないティアとヘンリーだった。




