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こんなはずじゃ  作者: 莉璃翠


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7/8

透真視点①

俺は、ねねのことを特別だと思ったことなんてなかった。


少なくとも、あの日までは。


同じ事務所で活動しているから、もちろん存在は知っていた。


9人組の女性グループの末っ子。

15歳でデビューして、今では20歳。


ステージに立っているときのねねは、いつも明るくて、周りをよく見ていた。


メンバーと話しているときも、スタッフといるときも、誰かが困っていれば自然に声をかける。


でも、俺が個人的に話すことはほとんどなかった。


会えば挨拶をする。

仕事で一緒になれば少し話す。


それくらいだった。


だから、ねねから見た俺がどういう人間なのかなんて、考えたこともなかった。


たぶん、軽そうな人だと思われていたんだろう。


実際、周りからそう見られていることは知っていた。


女の子に声をかけられることも多い。

一緒にいるところを見られることもある。


でも、俺自身は女の子に興味があるわけじゃなかった。


好意を向けられても、どう返していいのか分からない。


だから、相手が本気になっていると分かれば距離を置いた。


それだけのことだった。


ある日、スマホを見ていると、ねねの名前が目に入った。


記事には、ねねと別の男性アイドルが一緒にいる写真が載っていた。


熱愛を疑うような内容。


もちろん、写真だけで本当に付き合っているのかなんて分からない。


でも、記事を閉じても、なぜか気になった。


別に、俺には関係ない。


そう思った。


それなのに、仕事をしていても頭の片隅から離れなかった。


ねねが誰かと付き合っている。


そう考えたとき、胸の奥が妙にざわついた。


そのとき初めて気づいた。


俺は、ねねのことを思っていた以上に見ていたらしい。


誰と話しているのか。


誰と一緒にいるのか。


楽しそうに笑っているのか。


そんなことまで気になっていた。


でも、それが何なのかは分からなかった。


ただ、一つだけ思った。


誰かに取られるのは嫌だ。


その気持ちだけは、はっきりしていた。


それから、俺はねねに話しかけるようになった。


最初は、本当にちょっとしたことだった。


「ねね、今日このあと帰る?」


「え? はい。帰りますけど……」


「じゃあ、一緒に帰ろう」


ねねは少し驚いた顔をしていた。


当然だと思う。


今までほとんど話していなかった俺が、急に距離を縮めようとしているんだから。


それでも、断られなかった。


帰り道に話してみると、思っていたよりずっと話しやすかった。


好きなものの話。

仕事の話。

最近あったこと。


そんな何気ない話をしているだけなのに、楽しかった。


ねねが笑うと、もっと話したくなった。


次に会ったときも話したくなった。


いつの間にか、ねねの好きな飲み物まで覚えていた。


自分でも少し驚いた。


こんなに誰かのことを気にするなんて、今までなかったから。


それでも、まだ俺は自分の気持ちに名前をつけなかった。


ただ、ねねといる時間が好きだった。


ねねが俺を見る目が、少しずつ変わっていくのも分かった。


最初は警戒されていた。


たぶん、俺のことを軽い人間だと思っていたんだと思う。


だからこそ、少しずつでいいと思った。


無理に距離を縮めるつもりはなかった。


ねねが嫌がることはしたくない。


ただ、俺のことを知ってほしかった。


俺が思っていることを、いつかちゃんと分かってもらえたらいい。


そんなふうに思うようになっていた。


そして、ねねと話すことが当たり前になってきた頃。


俺はようやく認めた。


あの記事を見たときに感じたあの気持ちは、ただの興味なんかじゃなかった。


誰かに取られたくないと思ったのも。


もっと自分を見てほしいと思ったのも。


ねねと話せると嬉しいと思ったのも。


全部、同じ気持ちからだった。


俺は、ねねが好きなんだ。


そう気づいたとき、不思議なくらい納得した。


だから、急に近づいた理由も。


ねねの小さな変化まで気になる理由も。


他の誰かと楽しそうにしていると、少し寂しくなる理由も。


全部、分かった。


でも、すぐに何かを求めるつもりはなかった。


ねねには、ねねの大切なものがある。


グループも。


メンバーも。


ファンも。


それを知っているからこそ、俺は急がないと決めた。


ただ、いつか。


ねね自身が俺のことを見てくれたらいい。


最初は「軽そうな人」でもいい。


そこから少しずつ変わっていけばいい。


そう思いながら、俺は今日もねねに声をかける。


「ねね、今日一緒に帰る?」


少し驚いたあと、ねねが笑う。


「はい」


その返事を聞くだけで、俺は嬉しかった。


まだ、この気持ちをねねに伝えるつもりはない。


今はただ、もう少しだけ。


ねねの隣にいたかった。

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