透真視点②
ねねと話すようになってから、毎日が少しだけ変わった。
仕事で顔を合わせれば、自然とねねを探すようになった。
今日はいるかな。
忙しそうかな。
ちゃんと休めているかな。
そんなことを考える自分が、少しおかしかった。
今までなら、仕事が終わればそれで終わりだった。
でも、ねねと話すようになってからは違った。
少しでも話せると嬉しい。
帰りが一緒になると、それだけで得をしたような気分になる。
ねねが笑っていると、なんとなく安心する。
そんな日々が続いていた。
ある日、仕事の合間にねねが1人でいるのを見つけた。
「ねね」
声をかけると、振り返ったねねが笑う。
「透真さん。どうしたんですか?」
「いや、いたから」
「それだけですか?」
「うん。それだけ」
ねねは少し不思議そうに俺を見る。
その顔がおかしくて、思わず笑った。
たぶん俺は、ねねが思っている以上に単純だった。
話したいから話しかける。
一緒にいたいから誘う。
笑ってほしいから、くだらない話をする。
ただ、それだけだった。
でも、そんな時間が増えるほど、ねねへの気持ちは大きくなっていった。
一方で、ねねの8人のメンバーから向けられる視線が変わっていったことにも気づいていた。
最初は何も言われなかった。
けれど、ねねと一緒にいるときに少し離れたところから見られていることが増えた。
当然だと思う。
大切な末っ子に、よく分からない男が急に近づいてきたんだから。
俺だって、逆の立場なら警戒する。
だから、避けるつもりはなかった。
ある日、8人に呼び止められた。
「透真くん」
振り返ると、8人が揃っていた。
空気だけで、何を言われるのか分かった。
「ねねのこと、どう思ってるの?」
まっすぐな質問だった。
俺は少し考えてから答えた。
「大切に思ってる」
「それだけ?」
「……好きだよ」
空気が変わった。
誰も驚いた顔を隠さなかった。
でも、俺は誤魔化したくなかった。
ねねのことを本気で好きになった。
だからといって、何かを奪うつもりはない。
ねねには、ねねの大切なものがある。
それを壊してまで自分の気持ちを通したいとは思わなかった。
「ねねは、私たちにとって大事な子だから」
「分かってる」
「もし傷つけたら、許さないから」
「うん」
俺はそれ以上、何も言わなかった。
言い訳をする必要はないと思った。
信じてもらえるかどうかは、これからの自分次第だから。
それからも、ねねとの距離は少しずつ近づいていった。
でも、俺から無理に踏み込むことはしなかった。
ねねが笑ってくれる。
話しかけてくれる。
一緒に帰ってくれる。
それだけで十分だった。
そして、ある日。
いつものようにねねと話していると、ふと目が合った。
ねねはすぐに目を逸らした。
その反応を見て、少しだけ胸が高鳴った。
もしかしたら。
そんな期待が浮かぶ。
でも、まだ何も決めつけない。
ねねの気持ちは、ねね自身のものだから。
俺が勝手に答えを出すものじゃない。
だから、いつも通りに笑った。
「ねね」
「はい?」
「また帰り、一緒に帰ろう」
「……はい」
小さく笑うねねを見て、俺も笑った。
この先どうなるかなんて、まだ分からない。
それでも今は、こうしてねねの隣にいられることが嬉しかった。
そして俺は、少しずつ変わっていくねねの表情を見ながら思っていた。
いつかこの子が、自分の気持ちを自分で見つけられたらいい。
そのときに、俺のことを選んでくれたら。
それだけでいい。
急がなくていい。
俺は、待てるから。




