番外編②
契約が終わるまで、残り2年。
透真さんに気持ちを伝えてからも、私たちは何も変わらなかった。
仕事では今まで通り。
2人きりになれば、少しだけ特別な空気になる。
でも、あの日に約束した。
焦らないこと。
だから私は、今まで以上にグループのことを大切にした。
8人のメンバーと過ごす時間。
ステージに立つ時間。
ファンのみんなの声。
全部が大切だった。
透真さんも、何も急かさなかった。
時々一緒に帰ったり、少し話したり。
それだけだった。
でも、その距離感が心地よかった。
そして、2年が過ぎた。
22歳になった私は、契約満了の日を迎えていた。
最後の仕事を終え、9人で事務所を出る。
「なんか、不思議だね」
ゆなが言った。
「15歳からだもんね」
「本当に長かった」
みんなで笑う。
寂しさはあった。
この場所で過ごした7年間は、私にとって大切な時間だった。
でも、私たちはもう決めていた。
「これからも、9人でやろう」
「うん」
「もちろん」
「今さら離れるとか無理でしょ」
みんなの声を聞いて、私も笑った。
「私も、みんなと続けたい」
それが私の答えだった。
9人で新しい事務所を作る。
これからは、自分たちで決めて、自分たちで歩いていく。
事務所を出たあと、私はスマホを取り出した。
連絡先を開く。
黒川透真。
短いメッセージを打った。
『契約、終わりました』
すぐに返信が来た。
『お疲れさま』
そのあと、もう1通。
『会える?』
胸が少しだけ高鳴った。
『はい』
待ち合わせた場所に行くと、透真さんがいた。
「お疲れさま」
「ありがとうございます」
「7年間、本当にお疲れさま」
その言葉を聞いた瞬間、いろんな思いが込み上げてきた。
「透真さんも」
「俺はまだ契約中だけどね」
「そうでした」
思わず笑う。
少し話したあと、透真さんが私を見る。
「ねね」
「はい」
「前に言ったこと、覚えてる?」
私は頷いた。
忘れるはずがなかった。
「……覚えてます」
「俺は、今も同じ気持ちだよ」
胸がいっぱいになる。
あの日から、ずっと待っていてくれた。
急かすこともなく。
無理に答えを求めることもなく。
ただ、私が自分のタイミングで決めるのを待ってくれた。
「私も」
声が少し震えた。
「私も、ずっと好きでした」
透真さんが笑った。
「じゃあ……今度は、待たなくてもいい?」
私も笑う。
「はい」
その言葉だけで、十分だった。
私はようやく、透真さんの隣に立つことを選べた。
仕事も。
グループも。
ファンのみんなも。
そして、自分の気持ちも。
どれかを諦めるんじゃなくて、全部を大切にしながら進んでいく。
「これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
そう言って笑い合った。
長い間、胸の中にしまっていた気持ちが、ようやく形になった。
私たちは、その日から付き合うことになった。




