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こんなはずじゃ  作者: 莉璃翠


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3/8

番外編①

「――私、透真さんのことが好きなんだ。」


そう自覚してから、少しだけ世界が変わった。


透真さんと話すとき、前より緊張する。


名前を呼ばれるだけで嬉しいし、少し目が合っただけでも気になってしまう。


それでも、私は何も言わなかった。


今までと同じように接していたつもりだった。


……たぶん。


「ねね」


「はい?」


「最近、なんか俺のこと避けてない?」


「えっ」


思わず顔を上げる。


透真さんは少し困ったように笑っていた。


「避けてないです」


「ほんと?」


「ほんとです」


「ならいいけど」


そう言って笑う。


その顔を見るだけで、また胸が苦しくなる。


好き。


そう思うたびに、どうしていいのか分からなくなった。


そんな日がしばらく続いたある日の仕事終わり。


帰ろうとしていた私を、透真さんが呼び止めた。


「ねね、少し話せる?」


「はい」


人の少ない場所まで移動する。


透真さんはしばらく何も言わなかった。


いつもならすぐに話し始めるのに。


「……どうしたんですか?」


「うん」


少しだけ息を吐いてから、透真さんが私を見る。


「俺、ねねのことが好き」


頭の中が、一瞬真っ白になった。


「……え」


「ずっと、ちゃんと伝えようと思ってた」


言葉が出てこない。


嬉しい。


嬉しいはずなのに、胸の奥が苦しくなる。


私も好き。


ずっとそう思っていた。


だから、本当ならすぐに「私も」と言いたかった。


でも。


「……待ってください」


透真さんが黙る。


「ごめんなさい」


「謝らなくていいよ」


「違うんです」


私はゆっくり顔を上げた。


「私も……透真さんのこと、好きです」


透真さんの表情が少し変わる。


それを見て、余計に胸が苦しくなった。


「でも、今は……付き合えません」


「……うん」


「私たち、まだグループとの契約が残ってるじゃないですか」


自分だけの気持ちで決めていいことじゃない。


今まで一緒に頑張ってきたメンバーがいる。


応援してくれるファンがいる。


事務所との約束もある。


私は、その全部を大切にしたかった。


「好きだからこそ、ちゃんとしたいんです」


透真さんはしばらく黙っていた。


それから、静かに笑った。


「分かった」


「……いいんですか?」


「うん」


驚いて聞き返すと、透真さんは私を見た。


「ねねがそうしたいなら、俺は待つよ」


その言葉に、胸がいっぱいになる。


急かされなかった。


責められなかった。


ただ、私の気持ちをそのまま受け止めてくれた。


「ありがとうございます」


「こっちこそ」


透真さんが笑う。


「好きって言ってくれて、嬉しかった」


私も、少しだけ笑った。


今すぐ恋人になることはできない。


でも。


私たちの気持ちは、ちゃんと同じ場所にあった。


だから私は、焦らなくていいと思えた。

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