番外編①
「――私、透真さんのことが好きなんだ。」
そう自覚してから、少しだけ世界が変わった。
透真さんと話すとき、前より緊張する。
名前を呼ばれるだけで嬉しいし、少し目が合っただけでも気になってしまう。
それでも、私は何も言わなかった。
今までと同じように接していたつもりだった。
……たぶん。
「ねね」
「はい?」
「最近、なんか俺のこと避けてない?」
「えっ」
思わず顔を上げる。
透真さんは少し困ったように笑っていた。
「避けてないです」
「ほんと?」
「ほんとです」
「ならいいけど」
そう言って笑う。
その顔を見るだけで、また胸が苦しくなる。
好き。
そう思うたびに、どうしていいのか分からなくなった。
そんな日がしばらく続いたある日の仕事終わり。
帰ろうとしていた私を、透真さんが呼び止めた。
「ねね、少し話せる?」
「はい」
人の少ない場所まで移動する。
透真さんはしばらく何も言わなかった。
いつもならすぐに話し始めるのに。
「……どうしたんですか?」
「うん」
少しだけ息を吐いてから、透真さんが私を見る。
「俺、ねねのことが好き」
頭の中が、一瞬真っ白になった。
「……え」
「ずっと、ちゃんと伝えようと思ってた」
言葉が出てこない。
嬉しい。
嬉しいはずなのに、胸の奥が苦しくなる。
私も好き。
ずっとそう思っていた。
だから、本当ならすぐに「私も」と言いたかった。
でも。
「……待ってください」
透真さんが黙る。
「ごめんなさい」
「謝らなくていいよ」
「違うんです」
私はゆっくり顔を上げた。
「私も……透真さんのこと、好きです」
透真さんの表情が少し変わる。
それを見て、余計に胸が苦しくなった。
「でも、今は……付き合えません」
「……うん」
「私たち、まだグループとの契約が残ってるじゃないですか」
自分だけの気持ちで決めていいことじゃない。
今まで一緒に頑張ってきたメンバーがいる。
応援してくれるファンがいる。
事務所との約束もある。
私は、その全部を大切にしたかった。
「好きだからこそ、ちゃんとしたいんです」
透真さんはしばらく黙っていた。
それから、静かに笑った。
「分かった」
「……いいんですか?」
「うん」
驚いて聞き返すと、透真さんは私を見た。
「ねねがそうしたいなら、俺は待つよ」
その言葉に、胸がいっぱいになる。
急かされなかった。
責められなかった。
ただ、私の気持ちをそのまま受け止めてくれた。
「ありがとうございます」
「こっちこそ」
透真さんが笑う。
「好きって言ってくれて、嬉しかった」
私も、少しだけ笑った。
今すぐ恋人になることはできない。
でも。
私たちの気持ちは、ちゃんと同じ場所にあった。
だから私は、焦らなくていいと思えた。




