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こんなはずじゃ  作者: 莉璃翠


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2/8

後編

それから少しずつ、私は自分の気持ちを意識するようになった。


透真さんから連絡が来ると嬉しい。


会えれば安心する。


他の女の子と話していると、なぜか気になる。


それでも、それを「好き」とは考えなかった。


考えてしまえば、何かが変わってしまいそうだったから。


そんな私の変化に、最初に気づいたのは8人だった。


ある日の楽屋で、ゆなちゃんが私の顔を覗き込んだ。


「ねね、最近ちょっと変じゃない?」


「そう?」


「うん。なんか、ぼーっとしてる」


みゆちゃんも頷いた。


「前より楽しそうなのに、たまに急に考え込むんだよね」


私は苦笑した。


「疲れてるだけだよ」


そう答えたけれど、みつきちゃんが私を見ながら言った。


「黒川くん?」


心臓が、どくっと鳴った。


「……なんで?」


「やっぱりそうなんだ」


「違うって」


慌てて否定すると、みんなの表情が少し変わった。


「ねね」


ゆなちゃんが静かに言った。


「私たち、黒川くんのことを悪く言いたいわけじゃないよ」


「うん」


「でも、ねねには傷ついてほしくない」


その言葉に、私は黙った。


みんなが心配してくれているのは分かる。


だからこそ、何も言えなかった。


「透真さんは……私には何もしてないよ」


ようやくそう言うと、ゆなちゃんは少しだけ目を伏せた。


「それは分かってる」


「じゃあ……」


「でも、私たちはいろいろ見てきたから」


8人が透真さんを警戒している理由は、私にも少し分かっていた。


女の子との距離が近いと思われること。


近づいてきたと思ったら、いつの間にか離れていること。


私は最初、それだけを見て彼を軽い人だと思っていた。


でも、今は違う。


少なくとも、私が知っている透真さんは、そんな単純な人ではなかった。


「ねねが自分で見て決めたいなら、それでいい」


ゆなちゃんはそう言った。


「ただ、私たちはねねの味方だから」


その言葉が嬉しくて、私は小さく笑った。


「……ありがとう」


それからしばらくして、8人と透真さんが直接話す機会があった。


「黒川くん」


ゆなちゃんの声は、いつもより少し低かった。


透真さんも何となく察したように、足を止める。


「ねねのこと、どういうつもり?」


その場の空気が変わった。


私は何も言えずに立っていた。


「……心配してるんだと思う」


透真さんはそう言った。


「だったら、ねねに近づくのやめてくれる?」


みつきちゃんが続けた。


「女遊びしてるように見える人が、ねねに近づくのは嫌なの」


透真さんは反論しなかった。


しばらく黙ってから、


「そう思われても仕方ないと思ってる」


と答えた。


私は思わず顔を上げた。


「でも、ねねに無理なことをさせるつもりはない」


透真さんは8人をまっすぐ見た。


「ねねが嫌なら、俺は離れる」


その言葉に、私は胸が詰まった。


透真さんは、自分の気持ちを押し通そうとはしなかった。


私がどう思うかを、一番に考えている。


そのことが、なぜか嬉しかった。


それから私は、もっと透真さんを見るようになった。


仕事に向き合う姿。


メンバーへの接し方。


スタッフさんへの態度。


誰かが困っていれば自然に手を差し伸べるところ。


忙しいのに、人の話を最後まで聞くところ。


私が知らなかった顔を、いくつも見つけた。


そして気づけば、私は最初に抱いていた「軽そう」という印象をほとんど思い出さなくなっていた。


ある日、仕事が終わったあと。


私は一人で廊下にいた。


少し疲れていて、壁にもたれていると、透真さんが通りかかった。


「ねね?」


「あ……」


「大丈夫?」


「大丈夫です」


いつものように答えると、透真さんは私の隣に座った。


「無理してるときの大丈夫だ」


「……分かるんですか?」


「分かるよ」


それ以上、何も聞かなかった。


励まそうともしない。


ただ、私が落ち着くまで隣にいてくれた。


その時間が、妙に心地よかった。


「透真さん」


「ん?」


「……どうして、そんなに優しいんですか?」


透真さんは少し考えてから笑った。


「ねねだからじゃない?」


また、そんなことを言う。


でも、今までとは違って聞こえた。


胸の奥が、じんわり熱くなる。


その瞬間、私はようやく気づいた。


どうして、透真さんの言葉がこんなに嬉しいのか。


どうして、他の女の子と話しているだけで気になったのか。


どうして、会えるだけで嬉しかったのか。


私はずっと、その気持ちに名前をつけないようにしていた。


ただの「気になる」。


ただの「仲良くなった」。


そう思おうとしていた。


でも、もう分かってしまった。


私は透真さんと話したい。


透真さんのそばにいたい。


透真さんに、自分を見ていてほしい。


私は隣にいる透真さんを見つめた。


そして、心の中でようやく認めた。


――私、透真さんのことが好きなんだ。


その瞬間、不思議なくらい胸の中が静かになった。


今まで分からなかった気持ちに、やっと名前がついた気がした。


私は何も言わず、ただ隣にいる透真さんを見つめた。


そして、小さく笑った。

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