嘘で隠した言えない言葉
あれからかなり時間が経ってしまった。
私なりに千紘の誕生日を祝ったり、たまに会話をしたり頑張ってみた。
けど、私には何か引っ掛かることがあって長くは続かなかった。
「ねえ、花奏はさ。私のこと嫌いなの?」
千尋が突然聞いてきた。
「どうして……?」
「結構前に友達から聞いたの。花奏が嫌いって言ってたって」
「…………」
そんなこと言った覚えがなかった。
ただ心当たりはあった。
ーー嫌いになりたくない
もしかしてそれを嫌いと解釈された……?
否定したかった。
でも、私は……。
昔みたいに千紘と仲良くできる気がしないし、昔みたいに胸を張って大好きなんて言えない。
「ごめん、嫌いではないよ。ただ、ずっと気まずくて」
「どうして?」
「……わからない」
嘘をついた。
ほんとはわかってた。
自分勝手な気持ちで千紘を傷つけた。
それを素直に言いたくなかった。
「そっか」
千紘はその一言だけ言った。
責められると思っていた。
「なんで?」ってもっと聞かれると思っていた。
でも、千紘はそれ以上何も聞かなかった。
「じゃあ……もういいや」
「……え?」
「花奏がそう思ってるなら、無理に聞いても仕方ないし」
千紘はそう言って、少し笑った。
「ごめん」
それ以上何も話さなかった。
昔みたいに戻ることはなかった。
それからも部活では普通に話した。
必要最低限の会話しかしなかった。
くだらない話をして笑うこともなくなった。
仲が悪いわけじゃない。
嫌いなわけでもない。
「この間までまた仲良くなったみたいな感じだったのに、また離れたの?」
また友人たちが話しかけてきた。
もういい加減にしてほしい。
放っておいてほしいのに、どうしてここまで私たちに干渉してくるの。
「花奏から千紘に話しかけに行けばいいじゃん」
「そうだよね。千紘ちゃんってどっちかって言ったら受け身だし」
私の人間関係に、どうしてそこまで踏み込んでくるの?
いやだ……。
いやだいやだいやだ。
踏み込んでこないで。
「それでどう?花奏」
「…………」
「花奏?」
「……うん。頑張ってみる」
私はそう言って笑った。
もう、この人たちは私の声を聞いてくれない。
もう言い返す意味なんてない。
ねえ、誰か……。
誰でもいいから私の声を聞いて……。
◇◆◇
それからさらに月日が経った。
千紘とはほぼ話さなくなり、たまに担任に千紘のことを相談したりもしたが、結局何を言わrれても私には響かなかった。
その日は学年集会があり、とても寒い体育館に呼び出された。
いつもと変わらない学習の話などをされ、もう少しで終わると言うところに来た時に、プロジェクターがついた。
「今年は数年ぶりの職業体験をします!場所は遊園地です!自由時間は乗り物乗り放題です!」
先生がそう言った瞬間にほぼ全員が歓声をあげた。
私は特に歓声をあげたりはしなかった。
周りが過激すぎて逆に冷静になってしまった。
「ねえ!一緒の班なろうよ!」
「うん!いいよ!」
職業体験は午前と午後に分かれてやる。
午前に職業体験をした生徒は午後に自由時間がある。
ということは班行動が基本だろう。
私は今年のクラスでも変わらず孤立しているため誰と組めばいいのか少しだけ悩んだ。
教室に戻ると、すぐに班決めが始まった。
私は教室に戻る前に渚と一緒の班になろうと言っていたから、適当にどこかの班に貼り付けばいいかと思っていた。
しかし、状況は絶望的だった。
大きく分けて女子の班は三つできていた。
少し前は仲良くしていたけど話についていけずに離れた人たちの班。
私に千紘と仲直りをしろをしつこく促してきた人たちの班。
そして、茉莉のいる班。
「…………」
私は先生の横で黙り込んで、みんながワイワイしている様子を見ていた。
先生は困ったように私を見ている。
渚は確か、少し前に私が仲良くしてた子達のうちの一人が苦手だったはず。
だからその班はダメだな。
じゃあ、二択になる。
でも残った二つは……。
「ねえ見た?千紘がインスタでめっちゃ可愛い写真投稿してたの!」
「見たみた!めっちゃ可愛かったよね!」
「茉莉ちゃんって絶叫いけるの?」
「ほどほどにねー」
どう転んでも気まずい。
最大でも三人以上で班を作らなければならない。
「先生、二人の半はダメですか?」
「うーん、ダメだね。みんな平等だから……」
先生は申し訳なさそうに言った。
大体の事情を知っている先生は、とても複雑そうで、逆に申し訳なくなった。
「花奏さんはどうしたい?」
どうしたいも、こうしたいも、私が一番わかってない。
黙り込む私を見て、先生は少し考えて口を開いた。
「花奏さん、茉莉さんの班に入らない?」
「……え?」
「たぶん、あそこの班なら当日嫌な思いもしないと思うの。茉莉さんとの話はもちろん私もわかってる。でも、もしかしたらこれがまた仲良くなる機会になるかもしれない」
「……でも」
仲良くなれる保証なんてない。
そう言いかけて、口を閉じた。
また仲良くなる機会。
先生は、きっと私のことを考えて言ってくれている。
茉莉と仲がよかった頃を知っているから。
私が今でも、茉莉との関係に悩んでいることを知っているから。
だからこそ何も言えなかった。
本当は嬉しいはずだった。
もう一度仲良くなれるかもしれない。
昔みたいに、一緒に帰ったり、くだらない話をして笑ったりできるかもしれない。
でも、それと同じくらい怖かった。
もし、また同じことになったら?
もし、今度こそ本当に嫌われてしまったら?
……いや。
そもそも私は何を期待しているんだろう。
茉莉にとって、私はもう昔の友達なのかもしれない。
それなのに私だけがいつまでも昔にしがみついている。
そんな自分を知られるのが怖かった。
「……私が入っても、迷惑じゃないですか?」
気づけば、そんなことを聞いていた。
「迷惑なんかじゃないと思うよ。もちろん、最終的には花奏さんがどうしたいかだけどね」
また、その言葉だ。
私は自分の気持ちがわからない。
いや、本当はわかっているのかもしれない。
ただそれを認めるのが怖いだけで。
目を逸らしているだけなのかもしれない。
「……少し、考えてもいいですか?」
「うん。もちろん」
先生は優しく頷いてくれた。
私はその場を離れ、教室の隅にある自分の席へ向かった。
周りでは、班を決めた人たちが楽しそうにアトラクションを調べていた。
「いいなぁ」
私は小さく呟いた。
誰かと一緒にいたいと、当たり前みたいに言えること。
一緒にいたいと言ってもらえること。
それを疑わずに、素直に喜べること。
私には、どれも少し難しかった。
「……はぁ」
机に突っ伏す。
どうして、こんなことで悩んでいるんだろう。
たかが班決め、たかが職業体験。
たった一日のことなのに。
それでも私にとっては、誰と過ごすかというだけで、こんなにも大きな問題だった。




