第5戦 テニスのレンジャー様(中編)
「何か困ってることはない?」
振り向くと、そこには紫苑がいた。
「紫苑ちゃん……」
七花の髪はボサボサに乱れ、目には涙が滲んでいる。
その隣では、気絶した子分を揺さぶりながら、佐々部が怒鳴っていた。
「なんだよ! お前に関係ねぇだろ!!」
「ええ、関係ないわね」
真顔で即答する紫苑。
あまりに迷いのない返事に、佐々部が一瞬がっくり肩を落とす。
紫苑はそのまま七花の前まで歩いてきた。
「だから聞いてるのよ。何か困ってることはない?」
真っ直ぐ七花を見つめ手を差し伸べる。
七花はその顔を見上げ、おそるおそる手を取った。
「……困ってる」
小さな声で呟く。
「あんだって!?」
まるで耳の遠いおじさんのような顔で聞き返す紫苑。
「困ってる!!!」
七花が叫ぶと、紫苑は満足そうに頷き、そのまま彼女を引っ張り起こした。
「分かったわ」
紫苑は満面の笑みを浮かべる。
ピコン♪
“ヒーローポイントを200pt獲得しました”
ベルトから機械音声が鳴り響いた。
「なに友達ごっこしてんだよ!!!」
佐々部が苛立った声を上げる。
「素人相手に暴力を振るう必要はないわ」
紫苑は片手に担いでいたラケットを、佐々部へ向けた。
「テニスで勝負しましょう」
佐々部は鼻で笑う。
「ふっ、いいわ。あんたらが負けたら、二人とも土下座してもらうからね?」
すると紫苑も、対抗するように鼻で笑った。
「ええ。その代わり、私たちが勝ったら貴方たちの髪をモヒカンにするわ。いいかしら?」
「いいわけねぇだろ!!!」
佐々部は怒鳴ったあと、少し考え込み、嫌な笑みを浮かべる。
「分かったよ。あんたらが負けたときもモヒカンにするなら、その勝負受けて立とうじゃない」
そういうと紫苑たちは、佐々部がビンタして起こした子分も連れてコートへ向かった。
「紫苑ちゃん……テニスやったことあるの?」
七花が不安そうに尋ねる。
「ないわ」
即答だった。
「えっ!大丈夫なの!?」
「テニ○の王子様で勉強したわ。大丈夫よ、私失敗しないので」
「なんか違うドラマ見てない!?」
七花は不安げな顔でベンチから見守る。
対して佐々部の子分は「いけいけー!!!」と、やたら元気に応援していた。
コートについた佐々部が、得意げにラケットを肩へ担ぐ。
「サーブは私から1回ごとに交代、1ゲーム取った方の勝ちよ。それでもいいわね?」
「えぇ」
紫苑は落ち着いて答える。
おそらく何も理解していない。
「あんたに、町内会テニスクラブ準優勝の実力を見せてあげるわ」
ドヤ顔で胸を張る佐々部。
それってすごいのかな、と七花は微妙な顔をした。
「戦隊村さくらんぼ飛ばし大会10年連続優勝してるわ」
紫苑も負けじと胸を張る。
全然関係ないのでは、と七花は思った。
「やるわね」
なぜか佐々部には効いていた。
「じゃあいくわよ!!!!」
佐々部のサーブが放たれる。
だが次の瞬間、紫苑はバウンド前のボールを思い切り叩き込んだ。
ボールは佐々部の顔の横を一直線に突き抜ける。
「まだまだだね」
紫苑はラケットを佐々部へ突きつけ、不敵に見下ろす。
「ダメに決まってるじゃない!!!!」
佐々部が怒鳴るが、
紫苑は「はて?」という顔をした。
ベンチでは七花が頭を抱えている。
“佐々部15 − 紫苑0”
七花は静かに悟った。
── 明日からモヒカンになるかもしれない。
『次回 テニスのレンジャー様
紫苑はじめての敗北!? 見てくれよな⭐︎』




