第5戦 テニスのレンジャー様(前編)
困顔七花、11歳。
昔から、なぜか皆が私を心配してくる。
そんな私の隣の席に新学期から変な女の子がやってきた。
全身真っ赤なタイツ姿で、顔だけ見ればフランス人形みたいに可愛い子。
ある時は扉を破壊し、ある時は窓ガラスにテープを貼り始め、またある時は学校の廊下をピカピカに磨き上げ、スケートリンクみたいにした。
新学期が始まって三日。
今や学校中で、「なんかヤバい子がいる」と噂になっていた。
―この子とは絶対に関わっちゃいけない。
本能がそう告げていた。
しかし、その子は事あるごとに、
「何か困ってることはない?」
と聞いてくる。
「ないよ〜」
今日で何回目だろう。
笑顔で返すけど、正直かなり面倒だった。
しかし一番面倒なのはクラスの男子達だった。
なぜか昔から私はモテる。
弱々しそうに見えるせいだろうか。
「大丈夫?」
「手伝おうか?」
そんな言葉を、下心丸出しの顔で言ってくる。
そのせいで、
「ああやって困ってるふりして男子たぶらかしてるんだよ」
なんて言う女の子まで現れた。
私は誰かの好きな子を取ったらしく、いつの間にかクラスでハブられていた。
体育の時間。
テニスの授業が始まり、女子同士で二人一組を作れと言われた。
当然、私には組む相手がいない。
すると、隣の紫苑がまた聞いてきた。
「何か困ってることはない?」
「組む相手がいなくて困ってる…かも?」
いつのまにかまっすぐ困ってると伝えることすらできなくなっていた。
しかし、紫苑は目を輝かせた。
「待ってて!!!! 連れてくるわ!!!」
「え……?」
紫苑はなぜか、大輔をドヤ顔で連れてきた。
「先生、組んであげてちょうだい」
「え? 戦時さんが組めばいいんじゃ……」
大輔が困惑する。
「私? 私は私がいるので」
そう言うと、紫苑が二人になっていた。
「「どういうこと!?」」
大輔と七花のツッコミが綺麗に重なる。
紫苑の姿がブレる。
次の瞬間には、左右に紫苑が立っていた。
「ほら、私って天才だから、残像だけで二人になれるのよ」
もちろん紫苑は魔法使いではないので、基本的に物理である。
「戦時さん。それは一人として数えるから、困顔さんと二人でペアを組んでもらえるかな?」
「……それでも、大丈夫なのかしら?」
珍しく不安そうな顔で聞いてくる紫苑。
それを見た七花は、少しだけ胸が痛くなった。
もしかしたら自分に嫌われていると思っているのかもしれない。
いつもまっすぐな紫苑を見て、これまでの態度を少し反省した。
「うん!! 一緒に組もう!」
笑顔で言う七花。
それを見て、紫苑もぱっと笑顔になった。
その様子を見ていた大輔は、友情っていいなぁとしみじみしていた。
しかし。
ピコン♪
『ヒーローポイントを50pt獲得しました』
「っし!」
紫苑が小さくガッツポーズをする。
七花は嬉しさで気づいていないようだったが、大輔はそれに気づき、ため息をつくのであった。
──────
打ち合い練習を終え、紫苑と七花がベンチで休憩していると、女の子2人が近づいてきた。
「七花ちゃん、私たちとテニスやろうよ」
「…え?」
急な誘いに七花は目を丸くする。
「紫苑ちゃん、七花ちゃん借りていい?」
「どうぞ」
紫苑は特に何も考えず答えた。
七花は少し不安そうな顔で、二人についていく。
連れて行かれたのはコートではなく、建物の陰になっている人気のない場所だった。
すると、一人が急に責め立てる。
「あんたさ、佐々部の好きな人取っておいて、何楽しそうにしてんの?」
佐々部というのは、隣にいる女の子のことだ。怒鳴っている方は、いつも佐々部について回っている子分だった。
「取ってないよ……」
「嘘つくなよ」
子分が手を振り上げる。
しかし、
「まぁまぁ」
それを制するように、佐々部が口を開いた。
「許してあげるからさぁ、ここで土下座して?」
ラケットで地面をトントン叩きながら、スマホを取り出す。
どうやら撮影する気らしい。
「なんで私が謝らなきゃいけないの?」
そう言った瞬間、子分に髪を掴まれた。
「いたっ…!!」
頭を押さえつけられ、体勢が崩れる。
そのまま膝から地面に落ち、押さえ込まれそうになった。
「あはははは! いい気味なんだけど! ほら、早く謝ってよ!」
佐々部がスマホを顔の近くに向ける。
その瞬間。
ボンッ!!!
破裂音みたいな打球音が響いた。
子分が吹っ飛び、佐々部のスマホがテニスボールに弾き飛ばされる。
「え……?」
七花が振り向く。
そこには、ラケットを肩に担いだ紫苑が立っていた。
「何か困ってることはない?」
真っ赤なタイツ姿で仁王立ちするその姿は、本物のヒーローのようだった。




