第4戦 学校へ行こう(後編)
「校長ーーー!!!!」
大輔の悲鳴が校長室に響き渡る。
床に沈む校長は白目を剥き、ぷるぷると震えていた。しかし紫苑には大輔の声など届いていなかった。
「っしゃ!」
卓球でスマッシュを決めた直後のような爽やかな笑顔で、ガッツポーズをしている。
ピコン♪
“ヒーローポイントを50pt喪失しました”
「ど、どうして……」
紫苑がその場に崩れ落ち、絶望した顔で大輔の方を見た。
「そ…それ!校長だからね!?ポイントどころか校長の寿命を減らしてるから!!!」
「校長…?」
紫苑は改めて校長をじっと見つめた。
数秒後。何事もなかったかのように膝についた埃を払い、すっと立ち上がる。
「私ったらごめんあそばせ。はじめまして、戦時紫苑と申します」
綺麗なお辞儀と共に微笑む紫苑。
しかし珍しく、その目だけは少し泳いでいた。
「ほ、ほふぅ……」
意識を取り戻した校長は、青ざめた顔で紫苑を見上げると、返事らしき吐息を漏らした。
「では本題です。本日は校長先生にお願いがあって参りました」
「ほふぅ……」
何事もなく進めようとする紫苑。
「ちょっと待って!本題に行けないよ!校長もう“ほふぅ”しか喋れてないから!」
大輔は慌てて紫苑を止めると、死にかけた顔の校長を抱き上げた。お姫様抱っこで。
「と、とにかく保健室へ……!」
「ほふぅ……?」
心なしか校長の頬が赤いような気がするが、大輔は気づかないふりをした。
「待ってくださるかしら。ここは私を信じて」
紫苑が真剣な目で言う。
「信じられるか!!」
反射的に叫び返しながらも、大輔は紫苑の真剣な目を見て動きを止めた。
決して、腕の中の校長がほんのり頬を染めていたのが怖くなったわけではない。
大輔はそっと校長を床へ下ろした。
紫苑は静かに屈み込み、校長の顔を覗き込む。
「……まだ息があるわ」
凛々しい顔で、当たり前のことを言った。
次の瞬間。
バチンッ!!!!
紫苑の手が、校長の背中へ全力で叩き込まれた。
とても綺麗な平手打ちだった。
「なんで!!!!???」
「昔、父が言っていたわ。壊れた家電は叩けば直ると」
紫苑はどこか遠い目をした。
「家電じゃないよ!!!」
しかし、その直後。
「ゴ、ゴハッ!!」
校長の口から、喉に詰まっていた飴玉が飛び出した。次第に顔色を取り戻し、校長はゆっくり立ち上がる。
「いやいや、助かったわい」
にこやかに笑いながらも、しっかり急所は手で押さえていた。余程、痛かったのだろう。
「どういたしまして」
紫苑は得意げに胸を張る。
そんな彼女を見て、大輔は何か言いたそうな顔をした。
だが。
ピコン♪
“ヒーローポイントを100pt獲得しました”
「っし、プラマイプラスね」
小さくガッツポーズをする紫苑。
(あ、プラスなんだ……)
大輔は心の中でだけ突っ込んだ。
その横で、校長が穏やかな笑みを浮かべる。
「君が転校生かね」
「ええ」
「元気があって大変よろしい」
よろしい気が全然しない大輔。
「最近の若者は大人しくてのう。ドアを爆破して挨拶に来た生徒は久々じゃ」
「前にもいたの!?」
思わず声に出た大輔のツッコミが校長室に響く。
しかし校長は気にした様子もなく、どこか懐かしそうに目を細めた。
「君は、あの子によく似ておるな。紫苑くん」
暖かい目を向ける校長。
「いえ。私は唯一無二ですので」
即答で断る紫苑。
校長は小さく笑うと椅子へ向かい腰掛ける。
そして両手を組み、口元の前へ。妙に威圧感のあるポーズだった。
「それで紫苑くん。お願いというのは?」
「はい。校則に不満があります。逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…と思い、こちらへ来ました」
(シ○ジ……!?)
大輔は心の中で突っ込んでいた。
「申してみよ」
(校長もノリ始めてない……?)
紫苑は大輔から受け取ったプリントを広げる。
「“健康的な生活を心がける”とは、具体的に何を指すのでしょうか?」
「そうじゃな。早寝早起き、ご飯をしっかり食べ、よく外で遊び、よく寝ることじゃ」
「何時に寝て何時に起きれば健康的ですか?ご飯はどのくらいでしょう?雨の日でも外遊びは必要ですか?」
紫苑はルールには厳しかった。
なぜならヒロポに関わるからである。
「そ、それはじゃな……」
そこから質問攻めが続き、気づけば校長は見るからにやつれていた。ついに一時間目開始のチャイムが鳴る。
「では放課後、続きをお伺いしに参りますわ」
「いや!!大丈夫じゃ!!もう紫苑くんは校則なくてよい!!!!!」
いや、それはダメだろうと大輔は思いつつその光景を眺めていた。校長は必死だった。
「いえ!」
しかし紫苑は目を輝かせる。
「そういうわけにはいきません!放課後また来ます!ごきげんよう!」
変なところだけ優等生である。
そう言い残し、紫苑は颯爽と校長室を後にした。
続いて退室しようとした大輔の耳に。
「そんなぁ……」
校長の情けない声が届く。
その日の放課後。
校長室の灯りは、夜遅くまで消えなかったという。
『これは戦隊村出身の超絶エリート少女が、モンスタースチューデント…否、天才的赤レンジャーへと成長する物語である』




