第5戦 テニスのレンジャー様(後編)
「タイム!!タイム!!」
七花はそう言うと紫苑に駆け寄り、テニスのルールを簡単に説明した。
「私が知ってるテニヌとは随分違うようね……」
「テニスだからね!?」
タイムを終え、七花はベンチへ戻る。
「じゃあ今度は私の番よ!カメ○メ波!」
紫苑がサーブを放つ。
ものすごい速さで打ち込まれたボールは相手コートで大きく跳ね上がり、そのまま佐々部の顔面へ襲いかかった。
「ツイストサーブ!?」
子分が驚きの声を上げる。
避けきれず、佐々部の顔にボールが直撃した。
“佐々部15 - 紫苑15”
「やるじゃない」
そう言いながらも佐々部は鼻血を拭う。
「あんた弱いね」
紫苑にそう挑発され、佐々部の表情が真剣なものへ変わった。
「勝者は私よ」
佐々部がサーブを放つ。
それは着地してもほとんど跳ねず、凄まじい勢いで地面を滑った。
「タン○イザーサーブきたーーー!!!」
子分がテンション高く叫ぶ。
しかし紫苑はラケットを地面に擦らせながら平然と打ち返した。
高く浮いたボールに佐々部が跳び上がる。
空中で体を縮め、そのまま全力で叩き込んだ。
“佐々部30 - 紫苑15”
「にゃろう……」
紫苑は悔しそうに唇を尖らせる。
「きゃーーー!! 佐々部様ーーー!!」
いつの間にか大勢のギャラリーが集まっていた。
「佐々部! 佐々部! 佐々部! 佐々部!」
「勝つのは佐々部! 勝つのは佐々部!」
ファサッ。
佐々部が上着を脱ぎ捨てる。
その瞬間、辺りが静まり返った。
「私よ」
たった一言。
それだけで再び黄色い歓声が沸き起こる。
(なにこれ……)
七花は困惑していた。
一方その頃、紫苑はなぜかラケットを空へ掲げていた。
「おらに元気をわけてくれ」
「さっきから違う作品混ざってない!?」
七花は思わずツッコむ。
だが、一応手は掲げておいた。
そして紫苑がサーブを放つ。
しかしそれはただの打球ではなかった。
ボールと一緒に、なにか別のエネルギーまで放たれている。
ボンッ!!!
衝撃波で佐々部が尻もちをつく。
着地したボールは破裂し、地面を大きく抉っていた。
“佐々部30 - 紫苑30”
「…卑怯者!!!!」
子分が叫ぶと、周囲も一斉にブーイングを始めた。
パチンッ。
立ち上がった佐々部が指を鳴らす。
「その程度?」
その一言で大歓声が巻き起こる。
しかし七花は気づいていた。
佐々部の脚が、小刻みに震えていることに。
佐々部は深呼吸をすると、再びタン○イザーサーブを打ち込む。
紫苑が綺麗に返球し、激しいラリーが始まった。
途中、紫苑が二人になったり、佐々部が巨大化したりしていたが、七花はもう気にしないことにした。
「そろそろね」
佐々部が呟いた瞬間、紫苑の視界が闇に包まれる。紫苑は音だけを頼りに正確に打ち返した。
しばらくすると。
その音すら消えた。
握っていたラケットが、ぽとりと手から落ちる。
“佐々部40 - 紫苑30”
歓声が沸き起こる。
だが紫苑にはもう何も聞こえていなかった。
手足の感覚も消え、その場に崩れ落ちる。
「テニスってこんなに辛いものだったかしら……」
紫苑が呟く。
なお、本日始めたばかりである。
その時だった。
紫苑の脳裏に記憶が駆け巡る。
厳しい修行の日々。
忘れかけていた感情。
さくらんぼの種を100m飛ばせた時の、あの快感。
楽しい!!!!!
紫苑から眩い光が放たれ、勢いよく立ち上がる。その瞬間、空気が変わった。
「テニスって楽しいじゃん?」
放たれたサーブは、速すぎて誰にも見えなかった。
トンッ、と音だけが響く。
静寂。
“佐々部40 - 紫苑40”
「なに……今の……」
佐々部が動揺する。
今度は佐々部がサーブを打つが、紫苑はキラキラした笑顔のまま見えない速度で返球する。
“佐々部40 - 紫苑A”
佐々部がその場に立ち尽くす。
「こんなの……」
悔しげに呟く。
静まり返っていた中、子分が叫んだ。
「佐々部がんばれーーー!!!!」
その声をきっかけに観客たちも次々と声を張り上げる。
「佐々部! 佐々部! 佐々部! 佐々部!」
「勝つのは佐々部! 勝つのは佐々部!」
それを聞いた佐々部は、ハッと目を見開き、ふっと微笑んだ。
「私について来な」
大歓声が巻き起こる。
紫苑が超高速のサーブを放つ。
佐々部はそれを見極め、ラケットを振り抜いた。
「うぉおおおおおおおおお!!!」
凄まじい衝撃。
両手で押さえ込みながら、なんとか打ち返す。
紫苑も即座に返球するが、その打球はネット脇のワイヤーに当たり、ボールが真っ二つに裂けた。
「……佐々部」
「勝たんか!!!佐々部ぇ!!!」
子分が叫ぶ。
「王者に…死角はない!!!!」
佐々部はそう言うと、二つに分かれたボールをそれぞれ打ち返した。
紫苑が高く跳び上がる。
宙に浮いた二つのボール。
その一点を全力で叩き込んだ。
ドンッ!!!
“ゲームアンドマッチ!勝者、戦時紫苑!!”
七花がベンチから駆け寄る。
「やった!!!! やったね!!!! 紫苑ちゃん!!!!」
「おめでとう。戦時紫苑」
佐々部が歩み寄り、静かに手を差し出す。
紫苑もその手を握り返す。
「紫苑、機会があればまた対戦しましょう。そうね、今度は楽しむテニスで」
「えぇ」
歓声が沸き起こる。
そこには互いを認め合った者同士の清々しい空気が流れていた。
次の瞬間。
「じゃあ、ちょっとそこに座ってくれるかしら」
どこからともなくバリカンを取り出す紫苑。
「いま良い空気だったよね!?」
七花のツッコミなど気に留めず、容赦なく佐々部の頭を剃っていく。当の本人は潔く俯いていた。
「……紫苑ちゃん、助けてくれてありがとう」
ピコン♪と紫苑のベルトが鳴る。
「ふっ…正義は必ず勝つのよ」
気分良さげにドナドナの口笛を吹きながら、バリカンで髪の毛を剃る紫苑。その光景はどうみても悪役にみえるのであった。
「へぇ、やるじゃん」
遠くから紫苑を見つめ微笑む謎の影。
その後。
紫苑の悪評は"やばい子"からクラスメイトの髪をモヒカンにした“やべー奴”にグレードアップした。
そして、ごく一部。
ひそかに紫苑のファンクラブが立ち上がっていた。
もっとも本人は何も気づいていない。
『そう、これは戦隊村出身の超絶エリート少女が、天才テニスプレイヤー…否、天才的赤レンジャーに成長するまでの物語である』




