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第6戦 図書室のあの子(中編)



「私が真犯人を捕まえるわ」



ビシッと決める紫苑。

一瞬の静寂のあと、教頭が怒鳴った。



「何をやってるの!!!!」



パチンッ。


紫苑が指を鳴らす。


吹き飛んでいた扉が、何事もなかったかのように元へ戻った。

いわゆるご都合主義である。



「ほら、ヒーローって遅れて登場するじゃない?」

「出て行きなさい!!!」


「あら、なんで?」

「あなたには関係ないでしょう!」


「えぇ、関係ないわね」



紫苑は教頭から視線を外した。

そして太郎を見る。



「だから聞くわ」



真っ直ぐな瞳だった。



「今、困っていることはない?」



太郎は拳を握りしめた。

唇を噛む。

しばらく俯いていたが、やがて震える声で口を開いた。



「僕は……」



小さな声だった。



「僕はやってないんだ」



顔を上げる。



「本当にやってないのに……なぜか犯人にされそうで……」


「つまり?」


紫苑が促す。


太郎は必死な声で叫んだ。



「助けて欲しい……!!」



紫苑は満面の笑みを浮かべた。



「分かったわ」



ピコン♪


“ヒーローポイントを200pt獲得しました”




「さて」


紫苑は教頭たちへ視線を向ける。



「先生達は、なぜ彼を犯人だと思うのかしら?」

「思うじゃなくて証拠が……」


「あるの?」


紫苑が教頭の言葉を遮った。


「彼が本を破いたという確かな証拠が」



教頭は言葉に詰まり、ぎりりと歯を鳴らした。



「それに」


紫苑は続ける。


「たとえ彼が本にスリスリして、匂いを嗅ぎながらヨダレを垂らして興奮するクソ豚野郎だったとしても」


誰もそこまでは言っていない。


「そんなに本が好きな人間が、本を破るかしら?」


すると理恵先生がおずおずと手を挙げた。



「あの……教頭先生……私も、本好さんはやっていないと思います……」



消え入りそうな声だった。

教頭は露骨に顔をしかめる。



「先生まで……」



深いため息をつくと、太郎を睨んだ。


「いいでしょう」


観念したように言う。


「その代わり、明日までに犯人が見つからなければ、本好さんのお父様にも連絡します」


「そんな……!」



太郎が動揺する。

しかし、紫苑は違った。



「大丈夫よ!」



腕を組み、自信満々に胸を張る。



「必ず私が暴いてみせるわ…!バアちゃんの名にかけて!!」



太郎は普通に不安になった。




◇ ◇ ◇




放課後。



図書室には委員会メンバー数名が集められていた。

テーブルの上には、これまで破られた本がずらりと並んでいる。



「みんな、今日は僕のために集まってくれてありがとう」



ホワイトボードの前に立った太郎が頭を下げた。



「それでは紫苑さん。あとはお願いできますか?」


「えぇ」



紫苑は一歩前へ出る。



「単刀直入に言うわ」



全員が息を呑む。



「犯人はこの中にいる!!」



ビシッ。


紫苑が指差した先は太郎だった。

委員たちの視線が一斉に太郎へ向く。



「僕じゃないからね!?」



「…とりあえず今回の紙破り事件について詳しく教えてちょうだい」



一人の女子が勢いよく手を挙げた。



「はい!委員長のこずえです♡」



なぜか紫苑へウインクする委員長。



「約一年前ですね。本を整理していたら、ページが破られているのを見つけたんです。最後に借りた人へ聞いても、みんな破ってないって言っていて」


「その後は?」


「返却時に確認するようになりました。でも返却された時は無事なのに、数日後には破れていることもあったんです。太郎は慣れているから一人だけど、受付は基本二人で入るので、こっそり破くのは不可能で……だから余計に太郎が疑われたのかもしれません」



「なるほど」



別の女子が弱々しく手を挙げる。


「あの……」


「だれ?」


「五年のゆりこです。あの、私……本当にごめんなさい!私が太郎先輩のことを先生に言いました!!」


「ゆりこちゃん!?」


太郎が驚く。


「なぜ?」


紫苑が尋ねた。


「嘘をついたつもりじゃないんです。太郎先輩が本の匂いを嗅ぎながらハスハスしてるのが気持ち悪いって理恵先生に話したら……それを教頭先生が聞いていて」


「話が大きくなったのね?」


「はい…先輩、ごめんなさい」


「あ、あぁ、大丈夫だよ」



太郎はなるべく平静を装って返した。

しかし、大ダメージだった。



「一年前から何か変わったことは?」



紫苑が尋ねると、次々と手が挙がる。



「私! 髪切りました♡」

「知らないわね。次」

「ぼく、お腹が緩くなりました」

「病院へ行きなさい。次」

「超能力使えます!」

「どうでもいい。次」

「あたし、本を破きました」

「知らんがな。次」



「待って!! 今、犯人いたよね!?」


太郎が叫んだ。

紫苑がキョトンとした顔で呟く。



「あら、本当ね。気付かなかったわ」



少女は慌てて首を振った。


「ち、違います!去年、借りた本を間違えて破いちゃって!ちゃんとその時先生に謝りましたよ!」


「なるほど」



紫苑は破られた本をパラパラとめくりながら話を聞いていた。



「他には?」



その場の全員が顔を見合わせる。

もうないらしい。

しばらく考え込んだあと、委員長が口を開いた。



「あ、日誌を見れば何か分かるかも」



太郎が受付の棚から数冊の日誌を持ってくる。

紫苑は首を傾げた。



「今月の日誌なのに二冊あるの?」

「あぁ。一冊は物語を書く用だよ」


「物語?」


「僕たちの委員会、少し変わっていてさ。一昨年に理恵先生が来てから、毎月テーマを決めてリレー小説を書いてるんだ」


「へぇ」


「結末は理恵先生が書いて仕上げてくれるんだよ。ちなみに先月は魔法使いがテーマで、今月は動物園」



紫苑は先月の日誌を手に取り、パラパラとめくる。

そして数秒で読み終えた。



「これは、面白いわね」



図書委員たちの顔が輝いた。

委員長がキラキラした目で尋ねる。



「本当!?」



「えぇ。魔法使いがテーマなのに、ドレス姿の少女が剣で魔王を倒して、王子様がガラスの靴を持って探し回っている間に魔王をペットにして、最後はヴォルデ○ートが出てくるけれど、そのペットの魔王が倒すの。不気味で面白いわ」


「…褒めてる?」


太郎が怪訝な表情を浮かべた。



「もちろん。気持ち悪いほど自由で素敵よ」



委員たちは嬉しそうに笑った。

紫苑は今度は破られた本へ視線を落とす。



「…妙ね、被害に遭っている本のほとんどが本月圭吾の作品だわ」


「あぁ」


太郎の表情が曇る。

紫苑が机の上の本を手に取ると、爆速で読み進める。


一冊。

また一冊。

さらにもう一冊。

やがて、本月圭吾の作品を開いたまま、くすりと笑った。



「オレンジを“かぼちゃ”色、赤を“トマト”色だなんて、かわいらしいのね。早く走ることを“ロケット花火のように”って、まるで小学生みたい。話の流れも中盤までは幼稚な夢物語のようなのに、終盤になると大人が書いたように現実味がある。そのアンバランスさが、この方の作品の魅力なのかしらね」



一人で納得するように頷く。



「一つだけ気になるのは」



紫苑は破られたページを指差した。



「本月圭吾の小説は、最後のページや奥付まで破られている。でも、それ以外の作品は奥付が無傷なのよね」


「奥付?」



委員長が首を傾げる。



「作者名や出版社が書いてあるページよ」



紫苑は太郎をジロリと見た。



「あなた。何か黙っていることあるわよね」



沈黙。



その場の全員が不審そうな目を太郎へ向けた。

やがて太郎は小さく息を吐く。



「……僕の、父なんだ」


「え?」


「本月圭吾」



図書室が静まり返った。



「「「えええええっ!?」」」



委員会メンバーの叫び声が響く。

紫苑も驚く。


「分かってたんじゃなかったの!?」


太郎も驚く。

紫苑がゴホンと咳払いをした。



「でしょうね。文章が貴方のリレー小説にそっくりだもの。一年前、お父様には何か変化はあったかしら?」


「そういえば……」



太郎は机の上の本を見る。



「その“ウサギとカメ”シリーズが鈴木賞を受賞したかな。それで少しだけ有名になったよ」


「ふぅん」



紫苑はその本を手に取った。



「これだけ少し雰囲気が違うわね」


紫苑が呟くと早口で語り始める太郎。


「たしかにそれだけは僕が生まれる前から父が書いてたシリーズで、他より少し低学年向けかもしれない。ウサギとカメが冒険したり探検したり、探偵になったり、1巻ごとに題材が違って面白いと思うよ。僕は結構好きなんだ」


気持ち悪いぐらいに鼻息が荒かった。


「へぇ」


その時だった。



「あのー、私たち帰ってもいいですか?」


ゆりこが恐る恐る聞く。


「えぇ」


あっさりと了承する紫苑。


委員たちが椅子を戻し、帰ろうとするが



「最後に一つだけ」



紫苑の言葉で足を止めた。



「貴方たち、本好くんのことは好きなのかしら?」



一瞬の沈黙。



「やだなぁ」


ゆりこが笑う。


「当たり前じゃないですか」


他の委員たちも頷いた。



「そっかぁ…ありがと」


太郎は少し照れ臭そうに笑う。

その様子を紫苑は無言で見ていた。



全員が帰ったあと。

図書室には太郎と紫苑だけが残った。



「戦時さん、ここまで付き合ってくれてありがとう。もう、あとは大丈夫だよ……」



太郎が半ば諦めたように呟く。



「えぇ、分かったわ」



紫苑は不敵な笑みを浮かべた。


ぱたり。

静かな音を立てて本を閉じる。


表紙にはこう書かれていた。


『ウサギとカメは恋をする』




.

真剣な回を書いてるとHPが削られる名日田です。

個人的にギャグ全振りの回が大好きなので、

次回完結後、また戻ります!

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