↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/20

設定資料集臭いですね、そう思いませんか

 改めまして、明けましておめでとうございます。本年もこっそりよろしくお願い致します。えー、お休みが大晦日の夕方から元旦当日のみというわーかーほりっくぶりを遺憾なく発揮しまくっております、作者のsanです。皆様におかれましてはさぞかしお餅を食べ過ぎちゃって体重増えてたりしてらっしゃいませんか。ちくしょううらやましい。

 何とかお正月中(四日はまだお正月ですよね!?)にもっかい更新できました。


 さて、使用上の注意ですがまず年の始めだってのにお話は暗いです。あと会話もなく、ずらずらと文字が並びます。

 ですので、体力気力共に有り余って気が向いた時にでも読んで頂けたらどうかと思います。





 

 当たり前の事だが、この世界の住人にとって自分たちが現在進行形で生活を営み、目に見えて手に触れられる全ての事象が現実世界である。

 それがMMORPGに類するオンラインゲームと見分けがつかないほど酷似しており、それどころかそれこそが始祖である、などとは思いもよらないがひとつの事実であったりもする。

 より正確に言うならば、ゲームに存在した世界設定やシステム等を雛形として創造主である<星>が生み出した新しいひとつの現実世界、となるわけだが。

 こちらも現実世界のひとつである以上、前世の地球と同じように歳月を経て現在に至っている。ゲームが元だからといってある日突然に世界が生まれて人間が闊歩しだした、などという事にはならない。進化論の全てがまったく正しいかどうかはさて置くとして、惑星上に生命が誕生して気の遠くなるほどの時間をかけた結果としての現在が存在するわけなのだから。


 <湖岸の蛇姫>という二つ名は後世になってつけられたものであると言われている。それは<蛇姫>だけにではなく、魔術を操り人知を越えた存在とされる魔獣にヒトが畏敬の念を以て名づけたのだという。万物の大元である魔力から生まれ落ちた最初の生命であり、<精霊>の暴力的な側面を象徴する存在として。

 名をもって封じる行為であるそれは、この現実世界でヒトが歴史を積み重ねた末に生み出したものであるはずなのだが、ゲーム制作に携わったデザイナー達が缶コーヒーを片手に深夜の会議で「カッコイイ名前何かある?」なんてゆるく名付けられたという一面もまた事実だったりするから面白い。


 話がややそれたがゲーム設定として生まれた<蛇姫>ではなく、現実世界としての<蛇姫>には起点となるべき最初の一人が当然ながら存在する。

 約八百年ほどの昔、内海南西部沿岸の群島圏を支配していたスキュラ族の中で上位種アーク・スキュラの姫スカルペリは、この世界の海に似た深い翡翠色の髪をもつ快活な少女であった。奔放でややお転婆のきらいはあるものの、聡明な姫の下スキュラ一族は発展を続けて最盛期には南西部沿岸に一大拠点を築くにまでに隆盛した。

 島という島にスキュラの高床式の水上家屋と色とりどりの天幕が張られその数は千を越えるほどで、夜になると灯火の群れが水辺に乱舞してその美しさに言葉を失うほどであったそうだ。

 

 当初ヒトの所領といえば大陸南東の沿岸の一部地域であったのだが、この時代になると北は亜人の盟主であるオークと戦い、西は徐々にではあるが秘境を支配下に治めようと勢力を伸ばしつつあった。ヒト族が一大勢力を築き上げたスキュラ達と出会うのはごく自然で避けられない事実であったのだ。

 この頃はオークに代表される魔神の眷属を除くそれ以外の知的な亜人やモンスターとも今ほどヒトは敵対的でなく、スキュラ一族との遭遇も少なくとも外見上は友好的に始まった。西方域を取り込みたいという欲求を表向きは飲み込んで、使者を送り友好的かつ紳士的に交流を開始させたのである。

 慎ましやかに自然と共にあるスキュラ達の方でも、ヒトの華やかな文化や特に産業に興味があったのである。

 停滞の先には衰退あるのみ。

 何事も長短入り混じるものだが、ヒトの持つ特性――進取の気性に富み、貪欲なまでの向上心が生み出すその産業や文化といった恩恵を取り込もうと、そうスカルペリが一族を説得して回ったお陰もあって両種族の交流は日を追うにつれて盛んになっていったのだった。


 そんな折、スキュラの姫スカルペリは何度目かのキャラバン――交易商たちに拝謁した際に、伴われていたヒト族の青年戦士サルーと出会う事になる。

 

 赤い巻き毛が印象的な長身の青年に、スキュラの姫が心を奪われるのに要した時間はほんの僅かだった。

 その好青年然とした容姿もさることながら、キャラバンに随伴して得た広い見聞と巧みな話術にスキュラの姫として半ば籠の鳥だった彼女は好奇心を刺激され、それを取っ掛りに結果として心を許してしまったのだった。

 周囲にはいずれの陣営であろうとも眉をひそめる者が少なかったとはいえないが、これを公然の契機として両種族間で友誼を結べればよしとすべし、そんな声が日を追って大きくなっており、そんな後押しも功を奏したか二人の仲は急速に親密になったいったのである。


 しかし、残念ながらこの話は種を越えた二人の恋物語としては完結していない。

 このサルーという青年には唯一にして最大の、命取りとも言うべき欠点が存在した。彼は「三度の飯より博打好き」だったのである。

 若くしてパン職人としてまずまずの地位も評判も得た彼だったが、この博打好きが災いして店を追われ、ひいてはパン職人の組合からも締め出されていた。全ては自業自得なのであるが、希望を失い職と住処を転々としたサルーはそれに懲りた風もなく、やってはいけない相手と賭け事をし借金をしたのである。

 

 身の危険を感じるほどの苛烈な取立てと追い込みに恐怖した彼は、西方巡回のキャラバンの護衛に潜り込む事を決意する。

 現在もそうであるが、当時は今以上に西方進出――新天地開拓の熱にうかれていた時代である。毎日何百という数の隊商や物資隊、それにその護衛役であるスレイヤーズやエクスプローラーズが「一歩でも西を!あわよくばもう一歩!」を合言葉に東を発して列をなしていたのだ。

 そのため恒常的に人手は不足しており、前世どころか現在のこの世界のヒトから見ても信じられないほどに信用の薄い人物を護衛として雇っていたりもする。関わらざるべき組織から追われた青年一人が、素性を隠して転がり込む先としては絶好の隠れ蓑だったのである。


 スカルペリの邑にサルーが逗留してふた月ほど、ついに組織の人間がサルーを訪れた。キャラバンのいち護衛として目立たずにいればこうはならなかったのかも知れない。迂闊というには可哀想だが、スキュラの姫と恋仲となったばかりに噂として人の口の登ってしまい露見してしまったのである。

 元々はパン職人として純朴だけが取り柄の気の小さい青年である。ならず者の恫喝に耐える事ができようはずもなく、つい出来心で我が身可愛さに矛先をそらそうとスキュラの姫だけがもつ<聖杯>の力を口走ったのだった。

 今も昔も癒しの術は高難易度、あえて言うなら当時は<蛇姫>の存在が一般化していない時代だ。癒しの術などという、彼らが信奉する女神の奇跡にも等しいその力の存在をにわかには受け入れられなかった。だが、青年の説明が熱を帯びると組織の男たちの目つきが少しづつ変わっていったのである。


 こうして、ついに悲劇は訪れる。

 夜半すぎに愛しの青年に呼び出されたスキュラの姫スカルペリは、翌朝になっても戻らない事を心配した身内によって発見された。

 枯れ枝に留まる無数のカラスやハゲタカに見守られるように、邑のはずれにある枯木に横たわる彼女を見つけた時、言葉を失って卒倒するものが出たという。

 両目をえぐられ、癒しの力の象徴である両手首を切り落とされ、腹をさかれた無残な姿で。首にかけられていたスキュラの姫の印にして、海神の巫女の証でもある<巫女の首飾り>も紛失した状態で彼女は無造作に転がされていた。 

 生前海のような翡翠色だった美しい髪は、自身の血で赤黒く凝り固まって彼女の腕や脇腹に糊付けされたようにべったりと張り付いており、身内の手によって何度も洗い清められて見送られたそうである。


 サルーのその後はようとして知れていない。スカルペリが惨殺されたと同じ頃、忽然と姿を消していた彼は当然のように主犯格としてスキュラ一族から執拗に捜索されたが、ついにその身を最後まで補足される事はなかったのである。


 この事件を契機にヒトとスキュラの蜜月期間は終わりを告げる。西へと進出したいヒト、仇となったヒトに寸土すら分け与えてなるものかと抵抗するスキュラとの間に小競り合いは絶えず、人死が出ると復讐が復讐を呼び争いの火は拡大の一途を辿った。

 そしてスカルペリの死から百年と経たずして、スキュラ族はこの大陸からその全てがヒトの手によって駆逐されたのである。

 以後スキュラの姫<湖岸の蛇姫>は、何人もの転生者の魂を受け入れる魔獣の器として代を重ねこの世界に関わり続ける事となる。

 

 




 魔獣となってからの<蛇姫>のほぼ九割は短命に終わっている。迷信ない交ぜでありスカルペリがそのはしりであるが、その身体に特別な薬効があるだの首飾りに代表されるドロップ品が高額だのの理由で狩られ続けたためだ。

 歴代の<蛇姫>で長命なのは、はじまりの姫スカルペリを入れると三名になる。


 そのうちの一人、腰まで届く黄金色の髪が自慢のナズリーンは、魔獣ではなくヒトの側に身を置くことで自らを守ろうと考えた。

 スカルペリのように自分を守ってくれる一族が滅亡した時代の彼女は、仇敵でもあるが生きるためにはヒトに頼らざるを得ない、そう結論づけたのである。


 大陸南方の少数部族のリーダー達による合議制――実際はこの頃より形骸化しており国連のように有力な氏族の声の比重が大であったようだ、そのマッセナ連邦の一領主に彼女は庇護を求めようと考えた。

 きっかけとして先ず点在する貧しい村々の、無学だが善良な村民に取り入る事から始めた。言葉が通じない事が終生障害であったようだが、身振り手振りを交えて辛抱強く時間をかけて接触を持ち続けたようである。漁を手伝い、マーメイドやその他脅威となりうるモンスター等から漁師を守る。それは少しづつではあるが着実に成果をあげ、ひとつの村、またひとつとナズリーンは受け入れてもらえるようになっていった。

 それだけが理由で魔獣である彼女が受け入れられたわけではない。<癒しの力>というヒトにとっては規格外の能力が占めるウェイトが大きかったというのも真実だ。医科学が発展していない世界で貧しい者たちにとっては賊や魔物よりも恐ろしいのが傷病だ。その脅威を取り除く事ができる彼女の存在が神格化されるのも当然であった。

 さらに言えば日々の糧を得るために一日の時間の殆どを割く必要のある彼らはろくな教育を受けておらず、ナズリーンの正体を推察する事ができないどころか、はっきりと事態を把握できているものがいなかった、という事も理由に挙げられた。彼らにとっては風変わりだが友好的で極めて有用な亜人のひとり、その程度の認識で迎え入れられており、ナズリーン自身それをいちいち否定してまわる事もしなかったのである。

 

 さて魔獣の最大の課題である能力の行使に対する対価であるが、これについては彼女も苦慮した形跡が見受けられる。牛馬や山で狩られた野豚や鹿を要求する所から始めて、最終的には生き血を供物の形で受け取っていたようである。

 野蛮で残酷でないかと思えるが、前世でも古い時代において生贄を捧げるというものは祭礼における一般的な行為であった。捧げられるシナモノに程度の差はあれどだが、時代が遡れば遡っただけ残虐性は増していく傾向にある。

 だが、せっかく得た信頼を失うわけにもいかない。ヒトの命そのものを求める事はしておらず、その点で常時軽い飢餓感には苛まれ過ごしていたようだ。 


 癒しの術を操り人々を救う変わった亜人がいる。そんな風聞が広がってひと月余り経った頃。ついにマッセナ連邦内で最大氏族アブラーンの王、ガビノーの使者が訪れた。

 まだ幼いガビノーの子マルローが熱病に冒されておりそれを治癒して欲しい、使者の口からそう聞かされてナズリーンは内心小躍りしたいのをねじ伏せて快諾すると、あくまでも表面上は恭しくガビノーの御前に頭をたれてみせたのであった。


 ナズリーンの癒しの力に驚き、またその美貌にも嘆息を漏らしたガビノーの胸中に様々な類の欲望が鎌首をもたげた。

 この亜人を手放すわけにはいかない。国のためにも、自身の野心のためにも。そう決断を下した王は時には謝礼の名目で贈り物をし、時には言葉巧みに彼女を誘い、最後には所領の片隅にある館へ半ば軟禁したのである。尤もこれについてはナズリーンの目論見通りであったので、それ自体に不満を抱いてはいなかったようだ。 


 傷病のため子供が成人に達する事が難く、また五十年も生きれば長寿と言われる世界にあってナズリーンの癒しの恩恵を受けた王ガビノーは、寄る年波を物ともせず精力的に勤め上げた結果、マッセナ連邦において氏族アブラーンこそ最大なりと評されるまでに至るのである。


 そしてナズリーンがガビノーに迎え入れられて七年目、幼かったマルローも今年十五を数える早春の折。初老の王はその野望の終を見届けることなく力尽きることになる。連邦の同志部族の王を招いた狩猟祭で、茂みから飛び出した野うさぎに乗馬が驚き、その際の落馬がために受けた傷で命を落としたのである。

 傍にナズリーンが控えていればどうということはないのだが、狩猟場は彼女の住む邸宅とはアブラーン領内において対角線上のはるかな距離があったのである。この距離が災いして治癒が間に合わなかった、というわけだ。


 さてここまでは強大なガビノーの後ろ盾もあって悠々自適な人質生活を送っていたナズリーンだが、これを機に一気に旗色が悪くなりだした。

 後継であるマルローはまだ十五歳であり、最大氏族をまとめ上げる手腕も人望も持ち合わせていない。となるとその後見人にガビノーの妹婿であるギレリモが就いて欲しい所だが、このギレリモという男は出自がアブラーンではなく、さらに言うとガビノーが冷遇していた連邦で最南西になる青銅の円柱都市に拠点をおく氏族マルリーノの長の筋だったのである。

 千載一遇の好機ととったギレリモは、出自氏族マルリーノを始め前王の下で冷遇されていた氏族をまとめあげて、ガビノーの妹である妻に暇を出すと傲然と反旗を翻したのである。

 こうして正嫡のマルローか、実力者であるギレリモかで連邦内の他氏族を巻き込んで二派に分かれて争うことになったのである。 

 

 結論を先に言えば戦いはわずか半年と経ずしてマルロー側の敗北に終わる。理由はいくつかあるが、前王ガビノーの過ぎた身内重用に代表される蓄積された鬱憤であったり、純粋に十五歳の子供に自分たちの未来は託せないという至極真っ当な判断であったりもする。

 敗れた前王の子マルローはその生涯を辺境に幽閉されて過ごし、二十二の若さで流行病で夭逝する事になった。

 

 実権を握ったギレリモは当初ナズリーンの有用性を考え、ガビノーほどではないにしろ緩やかな軟禁状態を継続させていたのだが、彼が後継争いで強力な後ろ盾となってくれたある勢力がそれをよしとさせなかった。

 光の女神を唯一の神であると崇める教会勢力が、ナズリーンの処遇を巡って声高に新しい王を非難したのである。


 この世界は善の女神と悪の魔神の対立という実にシンプルな勧善懲悪の構図が成り立っており、この宗教感がそのまま人々の人生観あるいは死生感を決定づけるほどの信仰となっている。信仰の対象は光の女神ただひとつで、宗教もまたイコールなのである。

 いつの世でもどの世界でも聖職者というのは王侯貴族に次ぐ既得権益保持者であったりする。ただでさえ政教分離が進んでいない世界では絶大な力を有するというのに、この世界においては唯一信仰宗教を背景に聖職者は時として王権に影響を及ぼすほどに強力であった。


 <癒しの力>は善なる光の女神の奇跡にこそ相応しいもの。またそうでなくてはならず、亜人崩れになどそれを行われては教会の権威が失墜する。ゆえにこれを容認できるはずがない。

 光か、そうでないものか。女神か、魔神か。善か、悪か。ふたつのうちどちらかしかありえず、ヒト以外は全て後者であるべきなのだ。

 であるから、異形の亜人など魔神の眷属に他ならず、なれば件の亜人の操る術は邪教の奸智の産物であり、これに庇護を与えようなどと涜神の極みである。先代の父子王がどのような末路を辿ったかお忘れであるか。あれこそが女神様が手ずから神罰をくだされた良い証左であろう。


 このように考え至った聖職者たちは教会の力を全面に押し出して、ギレリモにナズリーンの排除を迫ったのである。


 かくて<蛇姫>ナズリーンはどちらつかずの軟禁状態から開放されることになる。長年軟禁状態であった邸宅を後にし、馬車で向かった先は千人近い群衆とギレリモや聖職者たちが見守る広場であり、火刑台へと続く最後の道であった。

 暴れるナズリーンを殴りつけ人間の胴回りほどもある丸太に縛り付けた衛視は、この世で善の女神の代弁者である聖職者の命に応じて松明を投じた。生きながらにして灰になるまで猛火に舐め尽くされたナズリーンの呪詛が、長らく人々の耳にこびりついたという。


 余談になるがギレリモはこの数年の後、川魚の料理にあたり呆気なく倒れる事になる。急な事で後継者も定まっておらず、相次ぐ後継者争いで疲弊したマッセナ連邦は没落の一途を辿ることになり、さらに東にあるヒトの国々に幾度となく属国としての苦渋を舐めさせられるようになるのである。

 また彼の出自氏族である氏族マルリーノは、拠点である青銅の円柱都市を三匹の魔獣に襲撃され、都市もろとも砂の海に沈んで滅亡している。

 全くの偶然であろうが、連邦の人々は黄金色の髪をもつ<蛇姫>の呪いだとまことしやかに噂したものである。


 その他歴代の<蛇姫>のどれもが負けず劣らず悲劇としか言えないような最後を迎えていた。オレは辛うじて難を逃れたが、誕生した直後を襲われ命を落としている者も数多くいた。

 また最初の襲撃を生き延びた者ですらそのほとんどが、二年ないし三年程度でなんらかの形で殺されている。

 さらに言えば自ら命を絶った者も多い。その理由のほとんどが、<蛇姫>を取り巻く環境と積み重ねた歴史を知ったがために絶望に囚われたたせいである。

  

 スカルペリの絶望。ナズリーンの怨嗟。<蛇姫>の歴史は血と負の感情が渦巻いている。

  

 オレは――オレは正直に言ってどうしたらいいのかわからなかった。

 鼻の奥がつんとして口元を抑えて涙を零す。人間として当たり前に涙を流す行為はできるが、果たしてそこから先はどうすればいいのかがわからない。

 彼女らに同情すればいいのか。彼女らに成り代わって復讐を遂げればいいのか。それともただ悲しいと泣くだけでいいのか。

 <蛇姫>たちのあらゆる感情が誘蛾灯に誘われるようにオレめがけてなだれ込んできていた。

  

 凄まじい負荷に脳が悲鳴をあげ、頭を抱え込んで蹲ったオレの肩に、その時白い小さな手がそえられた。

 触れた手からじわりと体の中に向けて広がる感情は、今までの<蛇姫>のものとはどこか違う僅かだが暖かさを感じられるもの。


 暖かな小さな手にオレは自身の手を重ねて、涙と鼻水を拭う事も忘れて手の主を振り仰いだ。


 白く丸い幼さを残した顔の三方を亜麻色の髪に囲まれた少女。

 歴代で最も長い年月を生き抜きいた<蛇姫>。

 

 成瀬 夕里 こと先代の<湖岸の蛇姫>ユーリがそこにいた。




週明けにお仕事の関係で僻地に飛ばされるために次更新は恐らく十五日すぎになると思います。

その際にはまたよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。