第3話 事件というのは突然起こるものであり、解決もまた突然である
3話です。良ければ読んでいってください!
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更衣室でレゾックはボロボロになった制服を脱ぎ捨て新品の制服に着替えながら、扉の向こうにいるフィア先生と話していた。
「まさかレゾックさんが勝っちゃうなんてね~。先生ビックリしたよ~」
「はは、ありがとうございます」
レゾックとミツキの闘いに勝ったのはレゾックだった。
ミツキの上空からの攻撃をレゾックは紙一重のところで避けた。
そしてミツキが次の行動をする前に首筋に剣を突きつけたのだ。
「それにしても、あの後もうちょい暴れるものかと思ったけどやけに素直だったな」
剣を突きつけられたミツキは潔く敗けを認めた。
そして一言『次は勝つ』とだけ言い残して、教室に戻っていったのだ。
強気な性格とばかり思っていたため潔く引き下がったことがレゾックには驚きだった。
「う~ん、ミツキさんは良くも悪くも真面目だと思うんだよね~。面接のときもザ真面目って感じだったからね~」
「面接かー、そーいや俺は面接も実技もしてねぇな」
「レゾックさんの実力が認められたから推薦されたんだよ~。だから面接も実技する必要がないんです~」
「そーゆーもんなのか…」
レゾックはシャツのボタンを閉め上着を羽織り、扉を開けた。
「わ~サイズぴったりだね~よかった~」
「あの、この服はどうすれば」
「私が預かっておくよ~。レゾックさんはもう帰っていいよ」
「帰るってまだ何もしてないじゃないですか」
レゾックはボロボロになった制服を渡し、質問した。
「今日は顔合わせだけだからね~。もう皆帰ってると思うよ。入学式終わった後にしてたと思うんだけど…そういえばレゾックさんはいなかったね~」
フィア先生は制服を脇に抱えると手を振り、歩いていった。
だがすぐさま踵を返しレゾックの方を向いた。
「あっ、レゾックさん寮に帰る前に寄り道してもいいけど事件は起こさないでね~」
そう言うと今度こそフィア先生は歩いていった。
******
教室に置いてある荷物を取りに、『1-1』の扉を開けると一人の生徒が机に突っ伏していた。
その生徒は寝ているのかピクリとも動かず寝息をたてていた。
起こさないようにゆっくりと隣の席にある鞄に手を伸ばした時、突然その生徒の身体がビクンッと動いた。
「うお!」
レゾックが驚きの声を上げるとゆっくりとその生徒は顔を上げた。
「ん~誰~?」
眠たそうに目を擦りながら、レゾックを見つめる瞳は透き通った琥珀色だった。
「レイラ…だったか?なんでこんな所で寝てるんだ?」
「ひゃぃあ!」
レゾックが声をかけるとレイラは独特な声をあげ飛び上がった。
「レレレ、レゾックくん?!どど、どどどどうしたの?!」
「荷物取りにきたんだ。レイラもこんな所で寝てると風邪引くぞ、まだまだ寒いんだからな。じゃあな」
レゾックが荷物を取り教室を出ようとすると、レイラがレゾックの服を引っ張った。
「まっ…待って!」
レイラは何かを決心するように胸の前で拳を握った。
「あの…さっきはご免なさい!レゾックくんの言うことも聞かずに勝手なこと言って…」
レイラは頭を深々と下げたまま動こうとはしなかった。
「大丈夫だって、そんなに謝らなくても。誰だってあの状況をみたら勘違いするさ。レイラが悪い訳じゃないって」
「本当にいいの?怒ってない?」
「あぁ全然怒ってないさ。怒る理由がないからな」
レゾックは笑顔で答えた。
それを見たレイラは緊張が解けたのか崩れるように椅子に座った。
「それじゃあまた明日な」
「あ…あの!」
帰ろうとするレゾックをレイラは呼び止めた。
「今から暇…かな…?」
「一応暇…だが。どうしてだ?」
「良ければ一緒に街をまわりませんか?迷惑かけちゃったし、何か奢らせて下さい」
『何故に敬語?』と思いながらレゾックは返答した。
「迷惑なんてかけられた覚えないから大丈夫だって」
「お願いします!」
「いや、だから…」
「お・ね・が・い・し・ま・す!」
拒否などさせてもらえない程の圧でつめよってくるレイラにレゾックは一歩また一歩と後退すると窓際まで追い詰められた。
「わかったわかったよ。行く行くからやめてくれ、怖いから」
折れたレゾックを見たレイラは笑顔になると子どものように跳び跳ねた。
「やったー!それじゃあ早く行こ!善は急げ、だよ!」
「えっ、ちょっ…まっ…」
レゾックの手を握るとレイラは自分の荷物を取り教室を飛び出していった。
******
ユルクシア騎士学校の近くには学校に通う者のための寮と一般の人も利用し日々にぎわっている繁華街がある。
今レゾックはレイラに連れられて、繁華街に来ていた。
「すごい人だな…」
右も左も前も後ろも見渡す限り人で溢れていた。
「レゾックくんもしかして来るの初めて?だったら案内するよ」
「そうか、それじゃあ頼もうかな」
「任せて!」
レイラは親指を立てニカッと笑った。
「それじゃあレッツゴー!」
すっかりレゾックに対する恐怖が消えた様子のレイラは元気に歩いていった。
その後ろをレゾックもはぐれないようについていった。
暫く歩くとレイラは露店の前で止まり、後ろで手を組み振り返った。
「ねぇレゾックくんお腹空いてない?」
「いや、別に空いてはいないな」
「そうなんだ、お腹空いてるんだね。わかりましたワタシが奢りましょう!」
『人の話聞いてねぇな…』
レイラは店員に話しかけるとなにやら食べ物を持って戻ってきた。
「はいどうぞ」
「ありがと……なんだこれ?」
渡された食べ物らしき物はレゾックにとって初めて見るものだった。
力を入れれば簡単に壊れてしまうと思われる円錐状の狐色の物体の上に白くて丸く冷気を放った物体が乗っている。
氷に似たモノなのかと考えていると、同じモノを持ったレイラが丸い物体をかじった。
「ん~冷た~い、おいし~!」
美味しそうに食べるレイラを見てレゾックも丸い物体をかじってみた。
すると、口のなかいっぱいに甘さと冷たさが広がった。
「うまっ?!」
「アイスクリームって言うんだよ。ちなみにワタシの好物です」
「へー」
興味なさそうに返事をするレゾックにレイラは頬を膨らませていた。
「もうちょっと興味持ってくれてもいーじゃーないでーすかー。まぁいいけどねー、次いっこー!」
人混みの中をレイラたちはアイスクリームを食べながら奥へと進んでいった。
「そういえばレゾックくんあの後ミツキちゃんと会った?」
「いや会ってないな」
「ミツキちゃん泣きそうになるくらい悔しがってたんだよ。ちゃんと話し合っておかないとこれから先苦労するよ?」
「泣きそうって…そういうことは言わないほうがいいと思うぞ。相手のためにも自分のためにも」
軽く注意したレゾックだったがその言葉はレイラに届いていないのか、レイラは人混みの奥のほうに顔を向けていた。
「なにしてるんだろ」
レゾックたちのいる少し先でなにやら他とは違う人だかりができているのが見えた。
「事件でもあったんじゃないか?」
「行ってみる?」
「あぁ」
二人は群がっている人がいる場所に行き、その一人に何が起きているのかを聞いた。
「あの、なにかあったんですか?」
レイラが質問をすると男は人だかりの中心にある店を指差した。
「あの店に君たちの学校の生徒がいるんだよ。なにやら騒ぎを起こしているらしいんだ。すまないね、詳しいことはしらないんだ」
「いえ、ありがとうございます」
レイラは軽く頭を下げた。
「どうする、行ってみるか?」
「うん、行ってみよう」
二人は人混みを掻き分け店の前までたどり着いた。
扉を開け中に入ると品のない大きな笑い声が聞こえてきた。
「おい女ァ、酒が足りねェぞォ!もっと持ってこいやァ!」
声を荒げている男を中心に三人、計四人が丸型の大きなテーブルに座っていた。そして辺りには食器や瓶が散らばっていた。
他にも客はいるのだが、全員目に見える場所に傷を負い隅で横たわっていた。
男たちの一人がレゾックたちに気づくと肩で風を切りながら近づいてきた。
「おうおうおう、なんだこっち見やがってなんか文句アンのかアァン?」
男はレゾックの眼前に立つとレゾックを睨み付けた。
「店内で騒ぎを起きていると聞きましてね、確かめにきたんですよ」
レゾックは物怖じすることなく答えた。
その態度が気にくわなかったのか男は手に持っていた瓶を地面に叩きつけた。
「うっせぇんだよカスが、俺らは楽しく飯食ってんだ邪魔すんじゃねぇ」
吐く息は酒臭く随分と酔いが回っているようだった。
「あぁわかった、悪かったな出ていくよ」
店員には申し訳ないが、店内で暴れて被害を出すよりは衛兵を連れてきて対処してもらうほうが穏便に済むと判断し、店を出ようとした。
だが、男がレゾックの肩を掴んだ。
「待てよ、俺らの邪魔したんだ一発殴らせろや」
男は拳を握るとレゾックを殴ろうとした。そんな様子を見てレイラは慌てて二人の間に入った。
「待って!暴力は駄目!」
割り入ってきたレイラを男は頭から足先まで眺めると、今度はレイラの腕を掴んだ。その拍子に手に持っていたアイスクリームが床に落ちてしまった。
「ちょっと離してよ!やだ!」
「いい女じゃねぇか、こっち来いよ。そしたらその男は見逃してやるよ」
男は無理矢理レイラを他の男たちのいる所へ連れていこうとした。
このままレイラには我慢してもらえば騒ぎは大きくはならない。だが自分に優しくしてくれた人を見捨てられるほど出来た人間ではなかった。
「その手、離せよ」
レゾックは剣を召喚し、男に突きつけた。
「アァン?」
レゾックの行動を目にした後ろの男たちは立ち上がるとレゾックの元へ歩んできた。
その中のリーダー格の男がレゾックの前に立つとナイフを取り出した。
「テメェ自分が何してるかわかってんだろうな」
「そっちこそなにしてるか、わかってんのか?」
二人は互いに睨みあい一触即発の状態だった。
そんな状態のなか入り口の扉を開け誰かが入ってきた。
「アーもしかして取り込み中だったか?」
制服を着た少年。その姿にレゾックは見覚えがあった。その少年は『1-1』のクラスメイトだった。
「店で騒いでる奴がいるって聞いたんだけどどっち」
「んだテメェ邪魔すんじゃねぇよ、取り込み中だ」
男はナイフをちらつかせながらレゾックから少年に標的を変えた。
「推薦生がさっそく問題を起こしたのかと思ったがどうやら違ったようだ」
「無視すんじゃねぇ!」
男はナイフで少年の顔を切りつけた。だが―――――
「なッ………?!」
少年の顔は傷ついておらず、逆に切りつけたナイフの刃が欠けていた。
「痛いじゃあないか」
少年は男の腕を片手で掴むといともたやすく店の外へと放り出した。
そして、店の外へ出た。
「くッ……テメェらぁコイツをヤレェ!」
「チッ、こんな女要らねぇよ。邪魔だどけよ!」
リーダー格の男が他の男たちに命令すると、男たちは少年を取り囲んだ。
レイラを掴んでいた男もレイラをレゾックに押し付けると外へと出ていった。
「大丈夫か?」
「うん、ワタシは大丈夫。それよりフォックスくんが…」
レイラは心配そうに見ていたが、レゾックはフォックスと呼ばれた少年の心配はしていなかった。
「安心していいと思う。アイツは強い。俺たちの出る幕はないだろうな」
群衆のリングの中での4対1。しかも男たちは手に凶器を持っている。
フォックスが不利に見えるが、怖じ気づく様子もなかった。
「どうしたかかってこい」
その言葉がスタートの合図かのように、男たちはフォックスに攻撃を開始した。
三人による左右背後からナイフによる攻撃にフォックスは防御する姿勢を見せず、逆に光景体勢をとった。
無防備な身体への刺突。その全てがフォックスの身体へと突き刺さったかに見えた。だが――――
「まず一人」
どれもフォックスの身体に刺さってはいなかった。
フォックスは拳を握ると右側にいた男の顔面に放った。すると男の顔面にめり込み男は群衆の中へと飛んでいった。
「ナッ―――!テメェ!」
背後の男が掴みかかろうとしたが、フォックスがその手を掴むと一本背負いをして地面に叩きつけた。
その威力は凄まじく男は地面に仰向けになったまま白目をむいていた。
そしてすぐさま残りの男に向くと鳩尾にパンチを放った。
男は声を上げることもなく膝から崩れ落ちていった。
「さぁどうするまだやるか」
リーダー格の男は言葉を発しなかったがその表情は怒りをあらわにしていた。
暫くの沈黙の後、男は店の中へと戻っていった。
「邪魔だ殺すぞ!」
レゾックたちを退けテーブルの傍らに置いてあった剣を手に取るとフォックスの元へと戻った。
「クソが…殺す」
男は剣を抜き叫びながらフォックスに斬りかかった。
付加魔法された状態で全力で振り下ろされた剣はフォックスの頭に直撃した。
群衆から悲鳴が上がった。
レイラも小さく悲鳴を上げ口を手で押さえていた。
だが心配する必要はなかった。
フォックスは何事もなかったかの様にそこに立っていた。一切の傷を負わずに。
「騎士とは民を守り民の見本となるべき存在だ。貴様たちに騎士になる資格はない」
フォックスは右手を下げ力を溜めた。
「ま、待て―――――――」
男の言葉に耳を貸すこともなく、フォックスは男の顔面を殴りつけた。
フォックスの一撃をくらった男は地面にめり込む勢いで叩きつけられた。
その光景を目の当たりにした人々は静まりかえった。
だが次の瞬間、その静寂は歓声へとかわった。
「スゲェよ!兄ちゃん!」「格好いい!」「よくやってくれた!ありがとう」など様々な言葉が飛び交った。
フォックスが称賛の嵐の中にいると騒ぎを聞きつけた衛兵が駆け寄ってきた。
「騒ぎを起こしているのは君たちか…ってなんだこれは。きっ君たちがやったのか?!」
「違うよ。お兄ちゃんたちは悪い人を退治してくれたんだよ」
衛兵の問いかけに答えたのはフォックスでもレゾック、レイラでもなく小さな少女だった。
少女を皮切りに他の人々もフォックスを庇い始めた。
それを聞いた衛兵はフォックスの元へ歩んだ。
「ありがとう。君たちが民を守ってくれたんだね。後は私に任せなさい」
「はい、お願いします」
フォックスは頭を下げると、自分の成したことを誇示することもなくさも当たり前のようにその場から去っていった。
レゾックは歩いていくその背中に強い意思と誇りを感じていた。




